私的録音録画補償金はメーカーに対する請求権か?
年も押し詰まった本日(平成22年12月27日)、東京地裁で著作権法関連の興味深い判決が言い渡された。
著作権法30条2項の私的録音録画補償金につき、メーカーの指定管理団体に対する補償金支払義務は、法的強制力を伴わない抽象的義務にとどまるとする判断を示したのだ。
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2010122700467
本件を理解するには、やや長い説明を要する。
著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用することを目的とするときは、無許諾で複製することができる(30条1項柱書)。本項は、著作隣接権の対象すべてに準用されている(102条1項)。
録音録画も複製の一態様であるが、私的使用のための複製であっても、デジタル方式の私的録音録画について、政令で定める機器・記録媒体による録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金(私的録音録画補償金)を権利者に支払わなければならない(30条2項)。これを「私的録音録画補償金」といい、著作権法第5章(104条の2~104条の10)が定めている。
本制度は、機器(特定機器)や記録媒体(特定記録媒体)の購入時に、補償金が上乗せされた価格をユーザーが支払い、これを指定管理団体が当該機器・記録媒体メーカーから支払を受けて権利者に分配するという仕組みになっている。個々の権利者が個々の家庭内録音を探知してユーザーに許諾を求めさせ、又は対価を支払わせることは事実上不可能であり、個々の補償金額は少額なので回収がコスト倒れにもなるため、権利保護と公正な利用との調和を図るために採用された制度である(岡村久道「著作権法」233頁)。
指定管理団体が私的録音録画補償金の支払を請求する場合には、特定機器又は特定記録媒体の製造又は輸入を業とする者(次条第三項において「製造業者等」という。)は、当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない(104条の5)。
本件は、DVDレコーダーメーカーである被告(東芝)が、指定管理団体のひとつである原告(社団法人私的録画補償金管理協会)に対し、私的録音録画補償金の支払を拒否したので、原告が被告に対し、その支払を求めて訴訟を提起したという事件である。
今回の訴訟で問題となったのはアナログチューナ非搭載録画機であるデジタル放送専用DVDレコーダー。「ダビング10」があるので、補償金の対象となるか、かねてから議論があった。
本判決は請求を棄却して、東芝側を勝訴させた。
その理由であるが、現時点では報道に頼るほかない。
http://japan.cnet.com/news/business/20424554/
報道によれば、アナログチューナ非搭載録画機も私的録音録画補償金の対象になるとする一方で、メーカーは協会による補償金の請求や受領に協力しなければならないと定める104条の5は、法的強制力を伴わない抽象的義務にとどまり、支払義務を負うとは認められないとする内容の判断であるようだ。
本判決によれば、アナログチューナ搭載録画機についても、メーカーは、単に訓示規定にすぎないものに基づいて、任意に協力してきたことになる。
いずれにせよ本判決の影響は大きい。
裁判所サイトに判決文がアップされたら、詳細を検討してみたい。
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コメント
2011年1月 8日 (土)
「私的録音録画補償金事件(東京地判平成22年12月27日平22(ワ)40387号)再論」
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/01/2212272240387-9.html
に判旨を掲載したので、ご覧いただきたい。
投稿: 岡村久道 | 2011年1月 8日 (土) 12時50分