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2011年1月27日 (木)

著作権法116条の読み方

著作権法116条(死後における人格的利益の保護のための措置)
の読み方が分かりにくいという声を、法科大学院の学生から良く聞く。

恥を忍んで自白すると、実は、昔、筆者自身が初めて同条を見たとき、最初は何の意味やら理解できなかった。

次のようなものであり、フォントの色を変更しているのが条文の部分である。

(著作者又は実演家の死後における人格的利益の保護のための措置)
第百十六条 著作者又は実演家の死後においては、その遺族(死亡した著作者又は実演家の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹をいう。以下この条において同じ。)は、当該著作者又は実演家について第六十条又は第百一条の三の規定に違反する行為をする者又はするおそれがある者に対し第百十二条の請求を、故意又は過失により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為又は第六十条若しくは第百一条の三の規定に違反する行為をした者に対し前条の請求をすることができる。
2 前項の請求をすることができる遺族の順位は、同項に規定する順序とする。ただし、著作者又は実演家が遺言によりその順位を別に定めた場合は、その順序とする。
3 著作者又は実演家は、遺言により、遺族に代えて第一項の請求をすることができる者を指定することができる。この場合において、その指定を受けた者は、当該著作者又は実演家の死亡の日の属する年の翌年から起算して五十年を経過した後(その経過する時に遺族が存する場合にあつては、その存しなくなつた後)においては、その請求をすることができない。

そこで、同様の悩みのある初学者もおられると思うので、拙著『著作権法』(2010)商事法務の読者向けに、少し解説を補いたい。このブログは、プロフィール欄
http://hougakunikki.air-nifty.com/about.html
にも記載したとおり、自分の著書について、その読者向けに、最新問題の解説を補う意味も持っている。

116条は、著作者・実演家の「死後における人格的利益の保護のための措置」(同条の表題)を規定したものである。

ところが、その権利内容を定めた同条1項は、単一の事項を定めたものではない。①著作者・実演家の死後に生じた人格権侵害相当行為に対する救済と、②その生前に受けた人格権侵害行為に対する死後の救済の双方について、単一の条文内にカップリングして定めたものである。

前記表題も、この両者を併せたものなので、このように題されているのである。しかし、別々の二つのものを一つにまとめたことが、法文を読んでいて分かりにくい原因でもある。

次の図を見て欲しい。

A

まず、①著作者・実演家の死後に生じた人格権侵害相当行為に対する救済については、 60条・101条の3違反(のおそれがある)行為が対象となっている。

60条は、著作者人格権関連の規定である。
著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなった後でも、原則として、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないと定めている。
著作者人格権は著作者の死亡によって消滅するという建前とは別に、60条の限度で死後も保護されているのである。
制度趣旨その他の詳細は同書324頁を参照のこと。

101条の3は、実演家関連の規定である。60条とほぼ同趣旨を定めている。

ところが、いくら両条で死後の人格権侵害相当行為を禁じても、著作者・実演家が死亡した後は、もはや自ら権利行使できない。
そこで、著作者等の人格と密接な関係があり生前の意思を最も適切に反映できる特定の遺族に権利行使させる必要が生じた。
それによって、著作者等の死後における人格的利益の保全を可能にするため、116条が設けられた。これが、同条が前記①を対象とした趣旨である。
詳細は同書325頁を参照のこと。

しかし、考えてみれば、前記①だけでなく、前記②の、著作者・実演家が生前に受けた人格権侵害行為についても、著作者・実演家が死亡した後は、もはや自ら権利行使できない点に変わりがない。
そこで、同条は前記②も対象とした。このようにして別々の二つのものを一つにまとめたのが同条なのである。詳細は同書325頁を参照のこと。

さらに「ところが」は続く。

前記①(死後の人格権侵害相当行為)について、116条は遺族に
a.60条・101条の3違反(のおそれがある)行為に対する差止請求権(116条前段)
b.60条・101条の3違反行為に対する名誉回復等措置請求権(116条後段)
を与えている。

これに対し、前記②(生前の人格権侵害行為)については、人格権侵害行為に対する名誉回復等措置請求権だけを与えている (116条後段)。

そのため、116条の法文の書きぶりは混迷を極め、一読して理解できない状態となっている。

これを図示すると、上掲の図のとおりとなる。
以上の説明を、この図と照らし合わせれば、少しは理解できるはずである。

要するに、死後の侵害相当行為に対する差止請求権は同条前段、名誉回復等措置請求権は同条後段に、生前の侵害行為と死後の侵害相当行為をまとめて書いたため、こんなにややこしい法文になってしまったのである。

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ちなみに、それでも問題は残っている。
すぐに思いつくべき基本的なものだけを掲げても、次のようなものがある。

まず前記①(死後の人格権侵害相当行為)について

A.損害賠償請求権は行使できないのか(同書422頁)。
B.なぜ不当利得返還請求権は行使できないのか(同書415頁)。
C.死後の著作権侵害に対する救済はどうなるのか(同書422頁)。

次に前記②(生前の人格権侵害行為)について

D.なぜ116条は②について差止請求権を認めていないのか(同書421頁)。
E.なぜ不当利得返還請求権は行使できないのか(同書415頁)。
F.生前に著作者が名誉回復等措置請求訴訟を提起していた場合には、同条に基づく遺族の名誉回復等措置請求権と、どのような関係に立つのか(同書325頁)。
G.生前の著作権侵害に対する救済はどうなるのか(同書421頁)。

例えばBとEについては、不当利得返還請求権は著作財産検討の財産権を対象に認められる性格のものなので、そもそも人格権について認められるべき性格のものではないからである。
また、一般にDは侵害やそのおそれが生前に終了し、その後に著作者等が死んでいるので、死後には侵害行為が終了しており、差止請求を認める必要がないからである。

後の点は、一度読者が自分で考えてみてもらいたい。考えても分からないときは、AからFまでの末尾に同書の該当頁を示しておいたので、お持ちの方は、ご覧いただきたい。

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追記 参考-「著作権法115条の読み方」
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/01/115-e3ce.html

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