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2011年1月 8日 (土)

私的録音録画補償金事件(東京地判平成22年12月27日平22(ワ)40387号)再論

2010年12月27日 (月)の日記「私的録音録画補償金はメーカーに対する請求権か?」
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2010/12/post-e63c.html
の末尾で、「裁判所サイトに判決文がアップされたら、詳細を検討してみたい。」と述べたが、このたび、裁判所サイトに判決文がアップされた。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110106181237.pdf
である。

ご覧いただきたい。

上記日記でも触れたが、今回の訴訟で問題となったのはアナログチューナ非搭載録画機であるデジタル放送専用DVDレコーダー。「ダビング10」があるので、補償金の対象となるか、かねてから議論があった。

このような背景の下で、被告が私的録音録画補償金の上乗せを拒んだことの是非を巡って争いとなり、本訴が提起されたものである。詳細は上記日記を併せて参照されたい。

以下、本判決の重要部分について説明しておきたい。

フォントのカラーを変更している部分が、判旨を引用した部分である。

事案の概要

次のとおりである。

 本件は,著作権法30条2項の補償金(以下「私的録音録画補償金」という。)のうち私的使用を目的として行われる「録画」に係るもの(以下「私的録画補償金」という。)を受ける権利をその権利者のために行使することを目的とする指定管理団体である原告が,別紙製品目録1ないし5記載の各DVD録画機器(以下,それぞれを「被告製品1」,「被告製品2」などといい,これらを総称して「被告各製品」という。)を製造,販売する被告に対し,被告各製品は同法30条2項所定のデジタル方式の録音又は録画の機能を有する「政令で定める機器」(以下「特定機器」という。)に該当するため,被告は,同法104条の5の規定する製造業者等の協力義務として,被告各製品を販売するに当たって,その購入者から被告各製品に係る私的録画補償金相当額を徴収して原告に支払うべき法律上の義務があるのにこれを履行していないなどと主張し,上記協力義務の履行として,又は上記協力義務違反等の不法行為による損害賠償として,被告各製品に係る私的録画補償金相当額1億4688万5550円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

主 文

 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

争 点

本件では、次の諸点が争点となった。

 1 争点1(被告各製品の特定機器該当性)について

 2 争点2(法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無)について

 3 争点3(被告による不法行為の成否)について

 以下、各争点について、本判決がどのように判断したか、説明してみよう。

1 争点1(被告各製品の特定機器該当性)について

 本判決は、次のとおり、特定機器該当性を認めた。つまり、私的録音録画補償金の対象になるとした。

施行令1条2項柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の意義については,被告主張のように「当該機器内でアナログデジタル変換が行われた影像」に限定して解釈すべき理由はなく,変換処理が行われる場所のいかんに関わらず,「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと解するのが相当である。

被告各製品は,「光学的方法により,アナログデジタル変換が行われた影像を,連続して固定する機能を有する機器であること」(施行令1条2項3号柱書き)の要件を満たすものといえる。

以上によれば,被告各製品は,いずれも施行令1条2項3号の特定機器に該当するものと認められる。

2 争点2(法104条の5の協力義務としての私的録画補償金相当額支払義務の有無)について

 本判決の中心となる部分であるが、次のとおり、被告の支払義務を認めなかった。

法104条の5が,特定機器の製造業者等において「しなければならない」ものとして規定しているのは,指定管理団体が行う法104条の4第1項の規定により特定機器の購入者に対する私的録音録画補償金の支払を請求する場合における当該支払の請求及びその受領に関する「協力」である。

しかるところ,「協力」という用語は,一般に,「ある目的のために心を合わせて努力すること。」(広辞苑第六版)などを意味するものであり,抽象的で,広範な内容を包含し得る用語であって,当該用語自体から,特定の具体的な行為を想定することができるものとはいえない。

また,法104条の5においては,「協力」の文言について,「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し」との限定が付されてはいるものの,「協力」という用語自体が抽象的であることから,上記の限定によっても,「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し」てしなければならない「協力」の具体的な行為ないし内容が文言上特定されているものとはいえない。

さらに,法104条の5と関連する法第5章のその他の規定をみても,法104条の5の「協力」の内容を具体的に特定する旨の規定は見当たらない。法104条の5においては,特定機器の製造業者等において「しなければならない」ものとされる行為が,具的的に特定して規定されていないのであるから,同条の規定をもって,特定機器の製造業者等に対し,原告が主張するような具体的な行為(すなわち,特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し,利用者から当該補償金を徴収して,原告に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること(以下「上乗せ徴収・納付」という。))を行うべき法律上の義務を課したものと解することは困難というほかなく,法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を課したものにすぎないと解するのが相当である。

3 争点3(被告による不法行為の成否)について

 本判決は、次のとおり、被告の不法行為責任も認めなかった。

 不法行責任に関する原告の主張は、複数の点にわたる。

 原告は、まず、「協力義務違反による原告の利用者に対する補償金請求権の侵害」を主張しており、次のとおり本判決は否定した。

法104条の5が規定する特定機器の製造業者等の協力義務は,原告が主張するような内容の法律上の具体的な義務ではないと解されるから,原告の上記主張は,その前提において理由のないことが明らかである。

 次に、原告は、「被告各製品の販売による原告の補償金請求権の侵害」を主張しており、この主張についても、次のとおり本判決は否定した。

私的録画補償金相当額を上乗せせずに被告各製品を販売した被告の行為が,不法行為としての違法性を有するものと評価されるためには,少なくとも,被告に,被告各製品を販売するに当たって私的録画補償金相当額を上乗せして販売しなければならない法的な作為義務があることが前提とされなければならない。

しかるところ,前記2(1)で述べた法104条の5の協力義務の法的性質からすれば,同条の協力義務が,被告の法的な作為義務の根拠とならないことは明らかであり,また,そのほかに,かかる作為義務が生ずべき法律上の根拠も認められない。

 以上のとおり判示して、本判決は、原告の請求を棄却した。

 争点2、3については、立場によって先鋭に対立する問題であろうが、本判決が指摘するように、前記「協力」という文言からすれば、法解釈としては、やむを得ない結論であったといえるのではなかろうか。

 ただし、争点2、3のとおり判断したのであれば、「仮に争点1が認められるとしても」として争点2、3を否定すれば足りるから、争点1に対する判断は、余事記載で傍論にすぎないはずであり、わざわざ争点1について判断する必要はなかったのではないか。その限度では、疑問を示さざるをえない。

 いずれにしても、アナログチューナ非搭載録画機か搭載録画機を問わず、メーカー等の側の具体的義務が否定されたことになるから、きわめてインパクトが大きな判決である。おそらく控訴されたであろうから、知財高裁の判断が待たれる。

追記

余談だが、コピライト誌の本年1月号が届いた。私の「著作権法」を紹介してくれていた。澤田さん、ありがとう。

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コメント

「私的録画補償金:管理協会が控訴」だそうです。

毎日新聞が報じています。
http://mainichi.jp/life/electronics/news/20101229k0000m040072000c.html

投稿: 岡村久道 | 2011年1月17日 (月) 10時55分

東芝が、提訴時に発表した2009年11月11日付けプレスリリースがあります。
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2009_11/pr_j1101.htm

補償金の対象か否かに主眼を置いて、書かれています。

「訓示規定であるにしても、補償金の対象ではある」とされた東芝の立場からすれば、扱いが微妙なところですね。

投稿: 岡村久道 | 2011年1月17日 (月) 11時10分

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