引用先作品の著作物性の要否に関する判例
著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定しています。
本項に該当するためには、引用元が著作物であることは当然です。そうでなければ、そもそも著作権侵害になるかどうか、という問題は生じないからです。これに対し、引用先作品が著作物である必要があるか、争いがあります。
知財高判平成22年10月13日平22(ネ)10052号は、不要説に立つことについて、すでに以前の日記で説明しました。
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2010/12/2210132210052-7.html
その一方、昨年、東京地裁で必要説に立つ判例が出ていました。東京地判平成22年5月28日平21(ワ)12854号(漢方コラム事件)です。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100528171335.pdf
で閲覧することができます。
インターネット関連の事件です。事案は、月刊誌「がん治療最前線」に掲載された原告執筆記事を、被告が自己のホームページの「漢方コラム」欄(引用先ウェブページ)に転載したというものです。
本判決は、「同項の立法趣旨は,新しい著作物を創作する上で,既存の著作物の表現を引用して利用しなければならない場合があることから,所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばないものとすることにある……から,利用する側に著作物性,創作性が認められない場合は「引用」に該当せず,同項の適用はない」としました。そして、引用先ウェブページは平凡なものであって著作物性がなく、適法な引用に該当しないとしました。
つまり、引用先は著作物に限るとして、必要説に立ったのです。
しかし、前述した以前の日記で説明したとおり、不要説が妥当であるようです。
というのも、一見すると、東京地裁判決は制度趣旨から解きほぐしているので説得力があるように見えますが、その制度趣旨というのも、旧著作権法に関するものを引いているにすぎません。現行法を前提とすると、やはり同条の文言からして、やや解釈論として無理があるように思えるからです。
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