不正競争防止法によるアクセスコントロール規制とマジコン事件判決
これまでアクセスコントロール技術の回避規制は、著作権法ではなく、不正競争防止法によって行われてきた。前述した著作権法の改正に向けた検討作業と同時に、不正競争防止法についても見直しが検討されている。より規制内容を広げる方向での検討である。
前提として、現行の不正競争防止法による規制内容を、後記マジコン事件判決を素材に説明しておく。
まず、同法2条10項・11項は次のような規定内容である。
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一~九 (略)
十 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為
十一 他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為
十二~十五 (略)
2~6 (略)
両項ともに、アクセスコントロールとコピーコントロールを対象としている。この点で、コピーコントロールに限って対象としている現行の著作権法と異なっている。
以上のような不正競争防止法のアクセスコントロール技術の回避規制規定が適用された事件が、東京地判平成21年2月27日だった。いわゆるマジコン事件である。
本件は,携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」等を製造,販売する原告任天堂並びに同ゲーム機用のゲームソフトを格納したゲーム・カード(DSカード)を製造,販売する原告らが,被告らに対し,被告装置(R4 Revolution for DS)の輸入,販売等が不正競争防止法2条1項10号に違反すると主張して,同法3条1項及び2項に基づき,同装置の輸入,販売等の差止め及び在庫品の廃棄を求めた事案であった。
本判決は、不正競争防止法2条1項10号の制度趣旨について、「我が国におけるコンテンツ提供事業の存立基盤を確保し,視聴等機器の製造者やソフトの製造者を含むコンテンツ提供事業者間の公正な競争秩序を確保するために,必要最小限の規制を導入するという観点に立って,立法当時実態が存在する,コンテンツ提供事業者がコンテンツの保護のためにコンテンツに施した無断複製や無断視聴等を防止するための技術的制限手段を無効化する装置を販売等する行為を不正競争行為として規制するものである」とした上、「技術的制限手段」に関する同法2条7項について触れている。
同項は、「技術的制限手段」を次のとおり定義している。
(定義)
第二条
1~6 (略)
7 この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
8~10 (略)
本判決は、同項の「技術的制限手段」は「(a)コンテンツに信号又は指令を付し,当該信号又は指令に機器を一定のルールで対応させる形態」と「(b)コンテンツ自体を暗号化する形態」の2つの形態を包含し,前者の例として「無許諾記録, 物が視聴のための機器にセットされても,機器が動かない(ゲーム)」が挙げられているが,この例は,本判決の分類では,検知→可能方式であるとした上、同立法当時,規制の対象となる無効化機器の具体例としてMODチップが挙げられているが,このMODチップは,本判決の分類にいう検知→可能方式のものを無効化するものであり,当初から特殊な信号を有しない自主制作ソフト等の使用も可能とするものであったとした。
本判決は、以上の不正競争防止法2条1項10号の立法趣旨と,無効化機器の1つであるMODチップを規制の対象としたという立法経緯に照らすと,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」とは,コンテンツ提供事業者が,コンテンツの保護のために,コンテンツの無断複製や無断視聴等を防止するために視聴等機器が特定の反応を示す信号等をコンテンツとともに記録媒体に記録等することにより,コンテンツの無断複製や無断視聴等を制限する電磁的方法を意味するものと考えられ,検知→制限方式のものだけでなく,検知→可能方式のものも含むとした。そして、原告仕組みは,以上のように解された不正競争防止法2条7項の技術的制限手段に該当し,同法2条1項10号の営業上用いられている技術的制限手段によりプログラムの実行を制限するとの点も満たしているとした。
次に、本件では、同法2条10項・11項の「機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器」にいう「のみ」の要件を満たすかどうかという点が問題となった。
本判決は、次のように述べて、これを満たすとした。
「前記1(1)~(3)及び上記(1)アの立法趣旨及び立法経緯に照らすと,不正競争防止法2条1項10号の「のみ」は,必要最小限の規制という観点から,規制の対象となる機器等を,管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し,別の目的で製造され提供されている装置等が偶然「妨げる機能」を有している場合を除外していると解釈することができ,これを具体的機器等で説明すると,MODチップは「のみ」要件を満たし,パソコンのような汎用機器等及び無反応機器は「のみ」要件を満たさないと解釈することができる。」
これによれば,「被告装置は,以上のように解された不正競争防止法2条1項10号の「のみ」要件を満たしている。」
以上の検討を経て、本判決は差止請求等を認容した。
次の機会に、同法改正の行方に触れたい。
参考-本判例の原文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090306192548.pdf
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