コンピューターウイルス処罰法制を新設する刑事法改正案が今国会提出へ
報道によれば、サイバー犯罪条約に対応するための刑事法改正案が国会に提出される予定だという。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110210ddm012010047000c.html
思い返せば、最初に同様の改正案が国会に提出されたのは、旧与党政権下のことだった。
それから現在まで、たしかオリンピックが二回も開催されるほどの歳月が流れたが、廃案、法案再提出が繰り返され、成立に至らないまま、国会で塩漬けになっていた。当時の法案は、共謀罪の新設との抱き合わせによるものであって、共謀罪に対して現与党の反対が強かったからだ。共謀罪とは直接の関係もないのに、こうした無理な抱き合わせをした法務省刑事局にも責任があると言うべきだろう。
こうした歳月の間に、ファイル共有ソフト「ウイニー」に寄生する暴露ウイルス「アンティニー」や、その亜種や亜流が続出し、これを真似したウイルスを放流する者も出現した。
そのたびに、アニメが流れる仕組みであることから著作権法違反で刑事摘発したり(原田ウイルス事件)、器物損壊罪で摘発したり(イカタコウイルス事件)、いわば「絡め手」でしか刑事摘発できなかったのも、ウイルス作成罪等の新設が遅れたからだ。私はメディアからの取材に対し、こんなコメントを繰り返さざるを得なかった。
海外産のウイルスが多いことから、国内だけでしか取り締まれない罪を設けてどうするのかと、疑問を呈する向きもある。たしかに、こうした考えにも一理はあるが、上記のとおり、現に国内でもウイルス作成が行われているという事実を忘れてはならない。アンティニーにしても、ウイニーが主として国内で利用されていることを考えると、やはり国内産ウイルスであると見るのが自然だろう。
それに加えて、サイバー犯罪条約を承認している国がウイルス処罰法制を進めているのに、日本だけが欠落していれば、国際的なループホールにもなりかねない。
ようやく今回、共謀罪と切り離した形で法案が提出されることになったという報道に接し、遅きに失したという感が否めない。だからこそ、早期に成立することを望まざるを得ない。
ただ、これまで提出されていた法案にも、問題がなかったわけではない。法文上では、アンチウイルスソフトを作る場合のような適法行為と区分できるか、なおも疑問が残されているからだ。
このような疑義を払拭するため、日弁連が提唱しているように、「正当な理由がないのに」といった文言をプラスすることを提案したい。
まもなく国会に提出されるであろう法案が、どのような内容になるか、見守りたいと思う。
参考
「Winnyの「原田ウイルス」作者に、懲役2年・執行猶予3年の有罪判決」
(インターネットウォッチ)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/05/16/19585.html
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