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2011年4月

2011年4月30日 (土)

最判平成23年4月28日-共同配信記事名誉毀損事件

 共同配信記事名誉毀損事件に関する最判平成23年4月28日は、次のとおりである。

1.事案の概要

 本件は、東京女子医大病院における心臓手術を受けた女児が死亡したことについて、担当医師(上告人)が人工心肺装置の操作を誤ったことにより患者を死亡させたなどとする共同通信の配信記事を、裏付け取材をすることなく、ほぼそのまま掲載した地方紙3社(被上告人ら)に対し、名誉毀損に該当するとして、上告人が損害賠償請求した事案である。上告人は業務上過失致死罪で起訴されたが、無罪が確定した。

 第1審判決は被上告人らの責任を認めたが、控訴審判決は、通信社が真実であると信ずるについて相当の理由があったとして、上告人の請求を棄却したので、本件上告がなされた。

 本判決は、上告を棄却した。

2.裁判要旨(裁判所サイト自身による整理)

  通信社が配信記事の摘示事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,配信記事を掲載した新聞社は,少なくとも通信社と報道主体としての一体性があるといえる場合には,特段の事情のない限り,名誉毀損の責任を負わない

3.本判決中の重要部分

 民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,摘示された事実が真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,同行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。
 新聞社が通信社を利用して国内及び国外の幅広いニュースを読者に提供する報道システムは,新聞社の報道内容を充実させ,ひいては国民の知る権利に奉仕するという重要な社会的意義を有し,現代における報道システムの一態様として,広く社会的に認知されているということができる。そして,上記の通信社を利用した報道システムの下では,通常は,新聞社が通信社から配信された記事の内容について裏付け取材を行うことは予定されておらず,これを行うことは現実には困難である。
 それにもかかわらず,記事を作成した通信社が当該記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があるため不法行為責任を負わない場合であっても,当該通信社から当該記事の配信を受け,これをそのまま自己の発行する新聞に掲載した新聞社のみが不法行為責任を負うこととなるとしたならば,上記システムの下における報道が萎縮し,結果的に国民の知る権利が損なわれるおそれのあることを否定することができない。
 そうすると,新聞社が,通信社からの配信に基づき,自己の発行する新聞に記事を掲載した場合において,少なくとも,当該通信社と当該新聞社とが,記事の取材,作成,配信及び掲載という一連の過程において,報道主体としての一体性を有すると評価することができるときは,当該新聞社は,当該通信社を取材機関として利用し,取材を代行させたものとして,当該通信社の取材を当該新聞社の取材と同視することが相当であって,当該通信社が当該配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があるのであれば,当該新聞社が当該配信記事に摘示された事実の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらずこれを漫然と掲載したなど特段の事情のない限り,当該新聞社が自己の発行する新聞に掲載した記事に摘示された事実を真実と信ずるについても相当の理由があるというべきである。そして,通信社と新聞社とが報道主体としての一体性を有すると評価すべきか否かは,通信社と新聞社との関係,通信社から新聞社への記事配信の仕組み,新聞社による記事の内容の実質的変更の可否等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。以上の理は,新聞社が掲載した記事に,これが通信社からの配信に基づく記事である旨の表示がない場合であっても異なるものではない。

4.寸評

 本判決は、「少なくとも,当該通信社と当該新聞社とが,……報道主体としての一体性を有すると評価することができるときは……当該新聞社が自己の発行する新聞に掲載した記事に摘示された事実を真実と信ずるについても相当の理由があるというべきである。」とする。

 しかし、それには、「当該新聞社が当該配信記事に摘示された事実の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらずこれを漫然と掲載したなど特段の事情のない限り」という限定が付いている。当該新聞社の追加取材等によって、真実であることを疑うべき事実が判明していたようなケースが、これに該当しよう。たまたま疑いを抱くような事実を知っていたような場合も、同様であろう。

 さらに、「報道主体としての一体性を有すると評価することができる」ための基準について、「通信社と新聞社との関係,通信社から新聞社への記事配信の仕組み,新聞社による記事の内容の実質的変更の可否等の事情を総合考慮して判断する」としている。

 以上のとおりであるから、本判例には、「少なくとも」「特段の事情のない限り」であるとか、「総合考慮」であるとか、良く言えば、今後に登場するであろう別の事案で「柔軟な対応」ができるように「慎重な留保」が付けられている。

 換言すれば、その分だけ、基準として不明確な点が残る。本判決の射程は狭いと評する向きがあるのも、このような点に起因していると言えよう。

5.出典

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81289&hanreiKbn=02

6.追記

下記を執筆

「共同配信記事名誉毀損事件判決-補論」

http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/05/post-9bad.html

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2011年4月26日 (火)

大規模災害時の情報セキュリティとセキュリティのための情報システム

1.震災と情報システムのセキュリティ

 東日本大震災では、津波で流されたり、浸水等のために使用できなくなった情報システムが少なくない。戸籍が庁舎とともに津波で流されてしまった自治体もあり、完全な再製ができるか、不安視する声もある。

 これまで、情報セキュリティといえば、我が国では、異様なまでに機密性(漏えいしないということ)に重点が置かれていた。しかし、今回の事態によって、今後は可用性(ちゃんと使えるということ)を重視する方向へと、パラダイムシフトするのではないか。

 阪神大震災の際、同一のビル内にバックアップデータを置いていたために、ビルの倒壊とともに、情報システムが、バックアップデータも含めて壊滅したケースがあった。ところが、今回も同様の事態が起こっている。教訓が活かされなかったのは残念だ。

 これだけIT、そしてICTが発達した社会で、こんなにも壊滅状態に至ったのは、人類が初めて経験する事態である。我が国は、それを経験した唯一の国として、これによって得た貴重な教訓を、今後に活かさなければならない。それが世界に向けて行うことができる貢献でもあるはずだ。

(とはいっても、みずほ銀行大規模システム障害は、それ自体は深刻であったにもかかわらず、震災の陰に隠れた形になった。あれだけの大規模障害である以上、平常時なら、かなり重大な責任追及が行われていたはずだ。)

2.セキュリティのための情報システム

 福島第一原発事故では、完璧といわれてきた「7重の安全システム」のほとんどが、いとも簡単に破られた。しかし、その一方では、本来であれば大惨事が発生してもおかしくない状況で、システムが安全を守ることができたケースも注目されている。代表例が、東北新幹線である。

 東日本大震災で、東北新幹線が受けた被害は計約1100カ所にのぼった。いかに甚大な被害であったか、それだけで理解できるはずである。しかし、不幸中の幸いであったことは、最高時速約275キロで列車27本が走行していたにもかかわらず、乗客の生命が守られたことだ。

 これは、JR東日本が設置していた早期地震検知システムの功績である。牡鹿半島に設けられた地震計が、事前に設定された運転中止基準となるP波(初期微動)を検知して、その後に発生するS波が発生するまでに、一斉に非常ブレーキが自動的に掛かり、減速したことによって脱線等を免れた。非常ブレーキが掛かった後に最初の揺れが始まり、最も強い揺れの時点では、制動開始後1分以上が経過していたという。他の新幹線でも、同様のシステムが採用されている。

 これに象徴されているように、IT、そしてICTは、実社会の「安全」に奉仕することができる。今回の震災で、日本列島は地震活動期に入ったなどとして、他の震災の発生を危ぶむ声がある現在、いま一度、こうした先進技術を十分に活かせているか、再点検しなければならない。まだまだIT、ICTが安全のために役立つ場面は多いはずだ。

 とはいえ、こうした制御系の技術は、肝心なときに作動しなければ意味がない。それゆえ、ここでも情報セキュリティの確保は大切だ。その意味で、両者は相互にかかわっている。

 いずれにしても、再び今回のような事態を繰り返さぬよう、万全の備えをする。それが、亡くなられた方々への、せめてもの供養でもある。

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2011年4月24日 (日)

総務省の新事業創出戦略委員会 第4回議事録

震災の日の午前中、総務省の情報通信審議会 情報通信政策部会 新事業創出戦略委員会 第4回会合で、私は「情報通信を取り巻く制度的な課題」についてプレゼンテーションをしていた。

この委員会は、ICT市場の構造変化と将来像及び今後重点的に取り組むべき情報通信政策の方向性について検討するためのものである。これまで、プラットホームに関する国際競争力の欠如などが、会議の席で指摘されてきた。

その際の私のプレゼン資料は
http://www.soumu.go.jp/main_content/000106406.pdf
にある。これ自体は、この日記でも既に紹介した。

さらに、しゃべった内容についても、詳しい議事録がアップされている。情報通信の過去、現在、未来について、時間の関係もあって、簡潔にお話しをした。
佐々木さん、野原さんも、同時にプレゼンされている。

合計47ページに及ぶ、かなり詳しい内容なので、下記の議事録を、直接、ご覧いただきたいと思う。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000111689.pdf

ところで、震災でストップしていた委員会は、まもなく再開する。

我が国のICT政策、IT政策はどこへ向かうのか、今回の震災で発生した多様な出来事を踏まえて、変化すると思うし、変化しなければならないはずだ。

その姿は、おぼろげながら浮かんでいるが、それをどうしたら具体化できるのか。じっくりと、しかし迅速に、みんなで考えていく必要があるはずだ。

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2011年4月23日 (土)

クラウドコンピューティングとプログラムライセンスに関するメモ

なぜ問題となるか

 クラウドコンピューティングでは、一般に仮想化技術が用いられている。すなわち、クラウドベンダが複数のサーバコンピュータを事前に用意し、これをリソースとしてプールしておき、それを複数のユーザーがネットを介して共同で利用することが多い。これによって、個々のユーザーの利用度合い等に応じて、クラウドベンダ側で、用いるべきリソース配分を変化させることや、処理が嵩む場合に対処すべくミラーリングを実施することが可能になる。ときとして、瞬時にサーバが切り替わることもある。

 こうしたクラウドに見られる特質は、プログラム著作物のライセンスとの関係で、新たな問題を惹起する。ここでは、クラウドを利用するユーザーの観点から、それを簡単に書き留めておきたい。

クライアント側にソフトウェアプログラムをインストールして実行させる場合

 ユーザーが、クラウドサーバ側ではなく、個々のクライアント側に、サードパーティ製のソフトウェアプログラムを、あらかじめインストールしておいて実行させる場合には、当該プログラムのライセンスについて、特にクラウドであるからといって、特別視すべき点はない。データの保管先が、当該クライアントのハードディスク内から、クラウドのサーバ側に変更されるだけであって、特にプログラムの複製等が新たに生じるわけではないからである。したがって、個々のクライアントについて、従来どおりプログラムのライセンス管理をすれば足りる。

サーバ側にソフトウェアプログラムをインストールして実行させる場合

 これに対し、サーバ側にプログラムをインストールして実行させるケースでは問題が生じうる。

 このケースでは、一般には、ネットを介してプログラムをダウンロードさせるわけではなく、ただサーバ側のプログラムによる処理結果(データ)を、クライアント側に打ち返すだけである。したがって、プログラム自体については、そもそも送信していないのであるから、公衆送信権との関係は問題とならない。

 それがクラウドベンダ側が用意したプログラムであれば、もともとクラウドサーバでの利用が想定されているはずであり、クラウド利用契約中に定められたライセンス条項に従うことで足りる。

 プログラムが、ユーザー側で用意したものであって、サードパーティ製である場合には、当該プログラムを複数に使用させることになるから、ライセンス契約の内容次第では、契約違反となる可能性がある。それゆえ、パッケージソフトであれば、ユーザー側は利用に先立ってライセンス内容に関し上記の点を吟味する必要がある。オーダーメイドのプログラムを開発してもらう場合にも、その可否に関する関連条項の確認や調整が必要となろう。

 ところで、クラウドでは、複製権との関係でも問題となる場合がある。前述のように、仮想化のため、ミラーリングやサーバの切り替えが行われることがあるため、複数台のサーバにプログラムがインストールされるケースが発生するからである。これが、クラウドで特に問題となる点である。

 ここでも、クラウドベンダ側が用意したプログラムであれば、もともと、それらのケースを想定した契約となっているはずである。

 これに対し、サードパーティ製のプログラムである場合には、複製権との関係で問題が生じる。したがって、複数のライセンスが必要か事前にソフトウェアベンダ側に対し確認しておく必要がある。

サーバ側からクライアント側にプログラムをダウンロードさせて実行させる場合

 以上の両ケースの中間形態として、サーバ側にソフトウェアプログラムをインストールした上、それをクライアントにダウンロードさせて、クライアント側で実行させる場合はどうか。Java Appletのようなケースである。

 この場合には、クライアント側の求めに応じて、サーバ側からプログラムをクライアント側へと送信することになる。これをダウンロードするクライアントのユーザーが、不特定、又は多数である場合には、公衆送信に該当し、公衆送信権の対象となりうる。

 公衆送信権への該当性はさておいても、スタンドアロンの使用を前提としたライセンス内容であれば、かかる利用形態は契約違反となることもあろう。

 もちろん、ダウンロードしたものが、GPL(GNU GENERAL PUBLIC LICENSE)が適用されたプログラムなのであれば、クライアントは、自由にそれをそのまま、あるいは改変した上、複製して再配布することができる。改変して配布する際にはソースコードの公開を忘れずに。

補足-AGPLの位置付け

 クラウドコンピューティングと、AGPL(AFFERO GENERAL PUBLIC LICENSE)との関係について質問を受けることがある。そこで、これについても、簡単に説明しておきたい。

 GPLでは、改変プログラムを外部公開する場合には、ソースコードの公開を求めている。そのため、GPLが適用されたプログラムについては、自社の運営するデータセンターなどで自社利用する限り、改変しても公開を要しないという点で問題がある。

 AGPLは、こうした問題を解消する目的で作られたライセンス条項である。AGPLは、それが適用されたプログラムについて、ソースコードの公開を条件とすることを可能としている。このように、AGPLは、エンドユーザーとの関係というよりは、サーバ用プログラムのソースコード公開との関係で問題となるものである。

クラウドに関する他の問題については

「クラウドコンピューティングと法律」
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2010/12/post-09f7.html
参照。

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2011年4月21日 (木)

大阪地裁平成23年3月23日判決-ドロップシッピング関連の新判例

ドロップシッピングに関する珍しい判例(大阪地裁平成23年3月23日判決)が登場したので、紹介しておきたい。

本件は、「ウインドシッビング」と称するインターネットショッピング運営支援事業「ウインドシッビング」を展開する被告とウインドシッビングの利用契約を締結し、被告に対して、契約金等を支払った原告らが、ウインドシッビングは特定商取引に関する法律(特商法) 51条に定める業務提供誘引販売取引に当たり、同法58条1項に基づき同契約を解除(クーリング・オフ) した、または、被告による同契約の勧誘の際に不実告知があったから、同法58条の2第1項1号、52条1項5号に基づき同契約を取り消したと主張して、被告に対し、契約解除に基づく原状回復請求又は不当利得返還請求として、各既払代金(別紙契約一覧表「契約金額」欄記載の各金員)の返還を求めた事案である。

主な争点は、特定商取引法上の「業務提供誘引販売」の該当性であり、本判例は、次のとおり述べて、これを認めた。

「ウインドシッビングにおいては、購入者に対する関係では加入者が売主となるものの、ネットショップの運営主体は、実質的には被告であり、原告ら加入者は、その運営の一部の作業を被告の指示のもとに被告に従属した立場で行っていたにすぎないというべきである。したがって、本件各契約において原告ら加入者が従事することとされている業務は、ネットショップの実質的な運営主体である被告が、原告らに対して提供する業務であるというべきである。」

「被告は、原告らに対し、本件各契約を締結して、被告が提供するウェブサイト製作、宣伝、プロモーション、商品の仕入れ及び原告ら-の卸売、商品の受注処理及び発送手続等のサービスを利用すれば、原告らは、(a)商品及び販売価格をネットショップに掲載すること、(b)購入者からの質問メールに対応すること、(c)購入者からの入金の管軌、(d)仕入れ代金の支払といった簡単な業務に従事するだけで、容易に商品の販売価格と仕入価格の差額を利益として収受することができる旨をホームページやパンフレットに記載して、本件各契約の締結を誘引したことが認められるから、被告は、原告らに対し、「業務提供利益」である商品販売価格と仕入価格の差額を収受し得ることをもって本件各契約の締結を誘引したものと認めることができる。」

クーリングオフ(58条1項)に基づく原状回復請求として、被告が主張していた損益相殺による控除を認めなかった。

判決全文は
http://shun-you.org/dropwind100323.pdf
に掲載されている。

争点に対する判断の詳細は、原告側の川村哲二弁護団長が執筆した下記ブログをご覧いただきたい。http://stuvwxyz.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-afd9.html

いずれにしても、一時はもてはやされた「ドロップシッピング」という言葉も、いつの間にか過去のものになってしまった。

時代の流れは速い。

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2011年4月20日 (水)

震災の法律Q&Aウェブページ(無料のもの)

震災の法律Q&Aを掲載したウェブページが立ち上がっている。

おおむね簡単なQ&Aを掲載した上、詳しいことは相談窓口までとして、窓口の連絡先を示すというパターンだ。

取りあえず気が付いたものとして、次のものがある。

日弁連

「東日本大震災法律相談Q&A」
http://www.nichibenren.or.jp/ja/special_theme/data/soudanQ&A.pdf

「東日本大震災法律相談Q&A更新箇所」
http://www.nichibenren.or.jp/ja/special_theme/data/updatedQ&A.pdf

他に弁護士会関係の従来の書籍が、緊急で復刻して電子出版されている(無料)。ところが、当然のことながら情報が古い。換言すれば、それだからこそ無料公開に踏み切ったのだ。現在、改訂、あるいは新著の作成に鋭意努力中であると聞いている。

商事法務サイト

『地震に伴う法律問題Q&A』(近畿弁護士連合会編、平成7年3月刊行)
http://www.shojihomu.co.jp/0708qa/qapdf/all.pdf

「NBL」で過去に掲載した災害対策等に関連する記事
http://www.shojihomu.co.jp/0708qa/nblbn.html

新日本法規サイト

「Q&A災害時の法律実務ハンドブック(平成18年発行)」
http://www.sn-hoki.co.jp/shop/zmsrc/qa50593/mokuji.htm

災害法令リンク
http://www.sn-hoki.co.jp/shop/new/300.html

厚生労働省

「東日本大震災により影響を受けた派遣会社及び派遣先からの労働相談についてのQ&A」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/shinsai0418.pdf

「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第2版)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016u30-img/2r98520000017eok.pdf

公正取引委員会

「東日本大震災に関連するQ&A」
http://www.jftc.go.jp/info/23jishinqa.html

他にも、筆者が知らないだけで、実際には、さまざまなものがあるはずだ。

こういうときにこそ、信頼できる情報が大切となる。関係する諸機関が、本当に役立つ震災関係の法律情報を迅速にアップすることを、願ってやまない。

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2011年4月19日 (火)

大規模災害時における公的部門の情報発信とソーシャルメディア

今回の大震災、津波被害では、公的部門がソーシャルメディアによって情報発信することが多く見られるようになった。

阪神大震災の時には普及時期にさしかかろうとしていた携帯電話だが、今回の大規模災害では、すでに携帯電話が普及している。

「着の身着のまま」で津波被害から逃れてきた被災者の方々の中には、残っている通信手段は携帯電話だけだったというケースも多かったのではないか。

そのあたりのことは、この日記でも
「大規模災害と通信の確保」
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/03/post-226f.html
で述べた。

ところで、今の時代は、単に携帯電話が普及しているだけではない。超小型の通信機能内蔵コンピュータともいうべきスマートフォンに代表されるとおり、さまざまなインターネットサービスが利用できるようになっている。

そこでは、Twitterその他のソーシャルメディアが花盛りである。広報のための通信手段は、できる限り多様であることが望ましい。

こうした観点からか、大震災、津波被害について、今回はTwitterなどソーシャルメディアの利用が際立った。

それ自体は、迅速に情報が得られるので、喜ばしいことだと言っていい。しかし、何事にも問題は付きものである。

まずは、震災直後から大きな問題となってきたデマチェーンメール、Twitterによるデマ拡散である。

どんなチェーンメールが流れていたのか、次のリンク(総務省関係の迷惑メール相談センターのサイト)をご覧いただきたい。

http://www.dekyo.or.jp/soudan/eq/index.html

これについては、転送は止めて、信頼できる情報源で真偽を確かめるよう、メディアや関係機関が注意を呼び掛けてきた。

自治体など公的機関がWebサイトに加えて、ソーシャルメディアを使うケースも目立った。だが「成りすまし」のおそれなどが残るのも事実である。

そこで、経済産業省、内閣官房(情報セキュリティセンターとIT担当室)、総務省が共同で、

「国、地方公共団体等公共機関における民間ソーシャルメディアを活用した情報発信についての指針」を4月5日付けで公表した。

この中で、「成りすまし等の防止」のため、①アカウント運用者の明示、② 成りすましが発生していることを発見した場合の措置、URL短縮サービスの原則的な不使用などを、さらに「アカウント運用ポリシーの策定と明示」を呼び掛けている。

http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110405005/20110405005-2.pdf

にあるので、参照していただきたい。

追記

でも、被災地の自治体はてんやわんやだから、「アカウント運用ポリシー」を作る余裕がなく、とにかく「ひな型」をほしがるんだろうなぁ。

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2011年4月18日 (月)

編集著作物としての創作性と図表-知財高判平成23年3月22日(全文)

新判例を紹介する。

知財高判平成23年3月22日平22(ネ)10059号

図表に関する編集著作物としての創作性を、ありふれたものであることを理由に認めなかった事例である。

このように、ありふれたものに、編集著作物としての保護を与えない立場が、判例の主流である。

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平成23年3月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成22年(ネ)第10059号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成21年(ワ)第27691号) 口頭弁論終結日 平成22年11月24日

              判  決

  控訴人(原告)宏文出版株式会社      訴訟代理人弁護士 川 村 武 郎
      被控訴人(被告) Y      訴訟代理人弁護士 松 村 幸 生

              主   文

本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。

              事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,500万円及びこれに対する平成21年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は著作権侵害及び名誉・信用毀損等を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟である。

1本件の外形的事実関係は次のとおりである。

(1) 控訴人は,ネット販売についての業界専門紙誌,一般雑誌,書籍の発行等を業とする株式会社であり,月刊誌である「月刊ネット販売」を刊行している。
通信販売業界についての新聞,雑誌,書籍の発行等を業とする株式会社通販新聞社は,控訴人と同一系列に属する会社であり(同社の代表取締役は,控訴人の代表取締役のAである。),「週刊通販新聞」と題する新聞を刊行している。
(2) 被控訴人は,平成5年ころに通販新聞社に入社し,その後,記者,編集次長を経て,平成18年に同社の執行役編集長に任命され,「週刊通販新聞」の編集業務に従事するとともに,控訴人の刊行する「月刊ネット販売」の編集人にも任命され,同誌の編集業務に携わっていた者である。

被控訴人は,平成20年7月,通販新聞社から懲戒解雇する旨の意思表示を受け,かつ,その効力を争っている。

(3) 原判決別紙対照表記載の原告図表1~9(以下,まとめて「各原告図表」という。)が,「月刊ネット販売」2007年(平成19年)9月号に掲載された。

(4) 被控訴人は,原判決別紙書籍目録記載の書籍(本件書籍)を執筆し,本件書籍中に原判決別紙対照表記載の被告図表1~9(以下,まとめて「各被告図表」という。)を掲載した。本件書籍は,平成20年6月ころ,出版・配本された。

2控訴人は,次の①,②のとおり主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として500万円及び遅延損害金の支払を求めた。

①本件書籍中に掲載された各被告図表は各原告図表の複製物に当たり,被控訴人が本件書籍中に各被告図表を掲載した行為は,各原告図表に係る控訴人の著作権(複製権)を侵害する行為であるか,仮に,各原告図表が著作物であると認められないとしても,原告の財産権を侵害する行為であり,被控訴人には不法行為に基づく損害賠償として250万円の支払義務がある。

② 被控訴人が,本件書籍の表題中に「カラクリ」という言葉を使用し,かつ,その著者の肩書きとして「株式会社通販新聞社,通販新聞・執行役編集長,月刊ネット販売・編集人」と,その経歴として「通販新聞社に入社し,記者を経て3年前から現職」と表記したことにより,控訴人の名誉・信用が毀損されたものであり,被控訴人には不法行為による損害賠償として250万円の支払義務がある。

3原審は,① 各原告図表は素材の選択又は配列によって創作性を有するものではないから編集著作物に該当しないし,データベースにも該当しない(争点1),
② 各原告図表は著作物として保護されるものではなく、控訴人において各原告図表の素材や配列方法を独占しうるものではないし,また、各被告図表は「月刊ネット販売」を出典元として明記した上で本件書籍に掲載されており、各原告図表の利用方法としても相当性を欠くものではなく,被控訴人が本件書籍に各被告図表を掲載した行為が違法な行為であるということはできない(争点2),③ 一般読者は本件書籍表題における「カラクリ」という言葉は「しかけ」といった意味で理解するものと認められ、「他者を欺く計略や謀略」といった悪印象を与える意味に理解するとは認めることができず,控訴人の信用を毀損し,その社会的評価を低下させるものであるとはいえない(争点3)として,控訴人の請求を棄却した。

第3 当事者の主張

本件の争点及び当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要の2」及び「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりである。

1控訴人の補充主張
(1)  各原告図表の著作物性について(争点1-a) ア 原告図表1につき
原告図表1の特徴は,「PC+携帯売上高(百万円)」という独自の項目を立て,さらにこの独自の項目を詳細に分析しうるように「増減率(%)」,「携帯売上高(百万円)」,「月刊アクセス数(PV:万)」,「累積会員数」,「決算期」,「主要商材」の各素材を選択し,横列に一目でそのつながりが判明するように並べて図表1を作成しているところにある。この項目の選定及び並べ方は,どのメディアも採用していない控訴人独自の項目の選定であり,配列(横列)の順序もより容易に理解が可能なように独自の工夫によるものである。すならち,通信販売中,パソコン及び携帯とに限定した項目を中心として,横列を有機的に結び付けた図表は類例がなく,控訴人の創作性の表れである。 イ 原告図表2につき 原判決の意味するところが同一の商品ジャンル毎に分類するという方法自体が「ありふれている」というのであれば,それはそのとおりであろう。
しかし,独自性が表れるのは,通信販売業界という特定の業法を共通とする業界において,具体的な分類そのものに意味があり,かつ独自性,創作性が認められるか否かである。このような前提に立った場合,控訴人の分類,すなわち「総合」,「衣料品・雑貨」,「化粧品・健食」,「食品」,「PC・家電製品」,「書籍・CD・DVD」,「通教」,「家具」に分類することが控訴人は業界の現状を理解するにもっともふさわしいと考え,原告図表1を発展させ,原告図表2を作成したものである。各メディアの各図表は各特徴を有しているところ,それらの図表は控訴人の分類とは異なっており,この特徴こそが各作成者の創作性である。
ウ原告図表3,4につき
原告図表3,4は,経済産業省のデータを利用して棒グラフ(原告図表3)あるいは円グラフ(原告図表4)としたものであり,1つの素材をより分かりやすくする目的で控訴人が作成したものである。原判決は,素材が共通であり,棒あるいは円グラフ化することは一般的に行われているありふれたものとしたが,より分かりやすくするという工夫をもって目的別にグラフ化を異とするのは創意性の表れである。
エ原告図表5,6につき
原判決は,モバイル通販と携帯とが異なる概念であることを看過しているだけでなく,カタログ通販事業者及び主要ネット通販専業者の売上中の携帯通販の売上げが占める「携帯通販占有率」をも項目として選定し,カタログ通販事業者の総売上中の携帯電話による売上げ率を対比し理解しうる構成を採っていることも看過している。カタログ通販事業者あるいはネット販売専業者の販売実績中の携帯電話による売上げを取り上げた項目選定は他に類例がなく,ありふれていない。
オ原告図表7につき
原判決は,モバイル通販と携帯とが異なる概念であることを看過している。また,モバイル通販専業者という分野に限って図表としていることは他に類例がなく控訴人独自の判断によるもので,創作性が認められてしかるべきである。
カ原告図表8につき
原判決は,衣料品・雑貨のように特定のジャンルの売上高及び増減率という素材を選択し,それを売上高の大きいものから順に並べることは,一般的に行われていることであり,ありふれたものと認定した。
ジャンル別の分類そのものは多くの分析で使用されている方法であり,ありふれていることに異議はない。しかし,ネット販売業界の分類として「衣料品・雑貨」という分類をなすことは控訴人独自の分類であり,控訴人の創意によるものである。
キ原告図表9につき
控訴人は,原告図表9において,電子取引を行っている総合通信業者の携帯を含めたモバイルの方法による売上高を総売上高と対比して図表化している。このような横列の図表は他に例がなく,携帯を含めたモバイルを手段とした売上げの趨勢は,原告図表9のみによって理解しうるものであり,他に類例がない以上,控訴人の創意によるものというべきである。
(2) 財産権侵害について(争点2)
各原告図表は,控訴人が兄弟会社である通販新聞社と共同で長年蓄積した信用ではじめて可能となり,かつ膨大な費用をかけて集積したアンケート結果に基づくデータを元に作成したものである。仮に各原告図表に著作物性が認められないとしても,このように費用をかけ形あるものとした独自性のあるものについては,その財産性が認められるべきであるし,一定の場合についてのみ許諾を必要とする法の趣旨は満たされる。
被控訴人は,本件書籍において出典は明記しているものの,本文との関連で主従関係がなく,また視覚的にも並列的な構成を取っているという点で著作権法32条で定める引用の要件を満たしていないことは明らかである。
(3) 「カラクリ」の意味について(争点3)
原判決は,「『カラクリ』という言葉は,『しかけ』といった意味として理解するものと認められ,原告が主張するように『カラクリ』という言葉を,ことさらに『他者を欺く計略や謀略』といった悪印象を与える意味に理解するとは認めることができない。」とした。
しかし,原判決は「カラクリ」という言葉の一般的な意味を誤って理解しているのみならず,通販業界という一定の閉鎖された世界で受ける印象とを混同している。
控訴人は,本件書籍に関して通信販売業界の大手業者や業界団体からきつく叱られたり,不適切さを指摘されたが,控訴人が全面的に関与して執筆していると一般人に誤解されるとともに,「カラクリ」という言葉から受ける理解を憂えるからこそこのような抗議が寄せられたのである。原判決のいう「悪い印象をもたない」というのは単なる希望的観測である。
また,対外的な反応に基づく自衛的な措置を取らざるを得なかった本件のような場合に,事後的に裁判官の自由な心証に基づく読み方を前提とした判断が許されるかについても強い疑問がある。本件書籍の表題を見たのみならず,さらに購入し中身まで読了して本件書籍の趣旨を正確に理解する者は,本件書籍を書店で見たり,新聞の広告欄やホームページで見たりする者のうちのごく一部であり,関係部門からの反応を優先的にあるいは最大限に考慮して判断すべきであるからである。
(6) 許諾の有無について(争点1-c)
原判決は許諾の有無について判断していないが,本件書籍は控訴人の許諾を得ないで執筆されたものである。
2被控訴人の補充主張
(1) 各原告図表の著作物性につき(争点1-a)
控訴人の主張は,実質的には原審の主張の繰り返しであり,その主張内容も独自の見解にすぎず,判例,学説及び実務に根差すものではない。
(2) 財産権侵害につき(争点2)
本件書籍は出典として控訴人を明記している上,本件書籍における引用は控訴人の販促的効果をもたらすものであり,財産性はもとより財産侵害をいう主張も当たらない。
本件書籍の引用における主従関係は明白であり,控訴人の主張は独自の意見にすぎない。
(3) 「カラクリ」の意味につき(争点3)
本件書籍のタイトルとしての「カラクリ」の文言は控訴人の主張するような問題を孕んだものではない。そもそも,「カラクリ」というタイトル中の文言は,出版社である株式会社秀和システムが決定したものであり,被控訴人の責任に帰すべき問題ではない。業者らからクレーム等があったと認めることもできない。
(4) 許諾の有無につき(争点1-c)
控訴人は,被控訴人が本件書籍を執筆するに当たって,各原告図表を利用することを許諾した。

第4 当裁判所の判断

当裁判所も,各原告図表は編集著作物(著作権法12条1項)に該当するとは認められないから,本件書籍中に各被告図表を掲載した行為は各原告図表に係る控訴人の著作権(複製権)の侵害行為は当たらず,また,原告の財産を侵害する違法な行為であるということもできないし,さらに,被控訴人が本件書籍の表題に「カラクリ」という言葉を使用したことが,控訴人の信用を毀損し,あるいは控訴人の社会的評価を低下させるものであるとはいえないと判断する。この点に関する当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は,下記のとおり付加・訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」記載のとおりである。

1各原告図表の著作物性について(争点1-a)
(1)原告図表1 原判決11頁10行の次に改行して次のとおり付加する。 「ウ なお,控訴人は,通信販売中,パソコン及び携帯とに限定した項目を中心として,横列(「増減率(%)」,「携帯売上高(百万円)」,「月刊アクセス数(PV:万)」,「累積会員数」,「決算期」,「主要商材」)を有機的に結び付けた図表は類例がなく,控訴人の創作性の表れであると主張する。
しかし,通信販売中,パソコン及び携帯とに限定した項目を中心とした図表がこれまで存在しなかったとしても,インターネットによる通信販売を実施する企業において,「PC+携帯」の売上高(パソコン及び携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)が基本的な営業情報であることに照らせば,「PC+携帯」(パソコン及び携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)という項目を図表の中心として選定することは,特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものというべきであって,創作性があるとは認めがたい。控訴人の上記主張は採用することができない。」
(2) 原告図表2 原判決12頁10行の次に改行して次のとおり付加する。 「ウ なお,控訴人は,各メディアの各図表は各特徴を有しているところ,それらの図表は控訴人の分類とは異なっており,この特徴こそが各作成者の創作性であるなどと主張する。
しかし,控訴人作成に係る原告図表2と同一の分類が存在しなかったとしても,「衣料品・雑貨」,「化粧品・健食」,「PC・家電製品」,「書籍・CD・DVD」のように,通信販売の対象商品を上記のように分類することはありふれた発想であり,創作性があるとは認めがたい。控訴人の上記主張は採用することができない。」
(3) 原告図表5 原判決15頁8行の次に改行して次のとおり付加する。 「ウ なお,カタログ通販事業者あるいはネット販売専業者の販売実績中の携帯電話による売上げを取り上げた項目選定は他に類例がないとしても,携帯電話がインターネットを利用する際に用いる主要な道具であり,通信販売を実施する企業において,携帯電話を経由した売上高,あるいはそれの電子商取引における割合(携帯通販占有率)が基本的な営業情報であることに照らせば,これらの項目を取り上げることは,特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想というべきであって,創作性があるとは認めがたい。」
(4) 原告図表6
原判決15頁16行の「前記(5)イで認定したとおり,」を「前記(5)イ,ウで認定したとおり,」と改める。
(5) 原告図表7 原判決15頁26行目の「(携帯電話通販販売高)」を削る。 原判決16頁5行~8行を,「イ 前記(5)イで認定したとおり,「モバイ
ル通販専業者」を素材として選択することはありふれたものであったと認められるし,通信販売,通信教育,訪問販売等の商取引を実施する企業のモバイルを経由した売上高,増収率などを素材として選択することも,特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものというべきである。」と改める。
(6) 原告図表8
原判決17頁2行~3行を「「衣料品・雑貨」という分類を用いることは,特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想というべきである。」と改める。
(7)原告図表9
原判決17頁24行~18頁1行を「また,通信販売を実施する企業において,モバイルを経由した売上高が電子商取引の売上高のうちどの程度の割合を占めているのかということを素材として選択することは,特段の創意工夫なくなしうる
ありふれた発想に基づくものと認められる。」に改め,18頁5行目「したがって,」の次に「モバイルによる売上高を項目として選択した図表がこれまでになかったとしても,」を加える。

2 被告が,本件書籍の表題中に「カラクリ」という言葉を使用したこと等が,原告の名誉・信用を毀損する不法行為であるといえるかについて(争点3)
原判決19頁7行~20頁3行を次のとおりに改める。
「(2)表題を含め書籍の表紙の記述の意味内容が他人の客観的な信用や社会的評価を低下させるものであるかどうかは,当該記述についての一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従って判断すべきである。
証拠(甲32~36)によれば,「からくり」とは,「①糸のしかけであやつって動かすこと。また,その装置。転じて,一般に,しかけ。②しくんだこと。計略。たくらみ。③絡繰人形に同じ。④絡操眼鏡の略。⑤やりくり算段。」(広辞苑第6版,甲34),「①糸・ぜんまい・水などの動力を利用して,人形や器物を動かす仕掛け。また,その仕掛けを使った見せ物。②機械などの動く原理。また,仕組み。仕掛け。③計略。たくらみ。」(大辞林第3版,甲33),「①ちょっと見には分からない複雑な仕掛けによって内部から動きを操作する装置,
②普通では不可能と思われる事をなんとかごまかしてつじつまだけはうまく合わせておくやり方。」(新明解国語辞典第5版,甲35)といった意味を有することが認められる。
また,本件書籍の表紙カバーの表面上部には,「図解入門業界研究」,「最新通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」と,表面下部には,「業界人,就職,転職に役立つ情報満載」,「発展を続ける通販業界がわかる最新トピック満載!」,「急成長を遂げるネット通販の戦略とは!」,「カタログ・TVなど広告媒体がわかる!」,「アマゾンなどの最新ビジネスモデル紹介!」,「健康食品・化粧品通販,成長の秘訣とは!」,「通販に関わる法規制強化の最新事情解説!」と,表面の下端部には,「渡辺友絵 著」と,それぞれ記載されており,カバー背表紙には,「図解入門業界研究」,「最新通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」と記載されている(乙1)。
そして本件書籍では,「カラクリ」という言葉は,「通販業界の動向」という言葉と一緒になって表題となっている上,カバーにおいて「図解入門業界研究」,「業界人,就職,転職に役立つ情報満載」,「発展を続ける通販業界がわかる最新トピック満載!」,「通販に関わる法規制強化の最新事情解説!」というように,通販業界について解説・情報提供することを意味する文言と並んで使われていることからすれば,一般読者は,「カラクリ」という言葉を,一般人には知られていない「しかけ,仕組み」といった意味で理解した上,本件書籍は通販業界の最新の動向やしかけ・仕組みについて,業界人でのみ知られている情報を提供し解説することを内容とするものと受け止めると認めることができる。
この点,控訴人は,「カラクリ」という言葉は「他者をあざむく計略や謀略」といった悪印象を与える意味に理解される旨主張するところ,例えば証拠(週刊現代2010年10月9日号,甲29の2)の表紙及び62頁~63頁に「買ってはいけない人気テレビショッピングの『からくり』」等と記載されているように,「買ってはいけない」というテレビショッピングに対する否定的な文言と共に,そのような趣旨の文脈の中で使用されるような場合には,控訴人の主張するような悪印象を与えるものとして使用される場合もある。しかし,本件書籍の表紙の上記認定の記載からすれば,「カラクリ」という言葉が通販業界に対する否定的な文脈の中で使用されているとは認められないのであって,「からくり」という言葉が,場合によっては上記雑誌のように一般読者(ないし視聴者)に否定的な意味を与えるものとして理解される場合があるからといって,本件書籍における「カラクリ」という言葉が控訴人の主張するような悪印象を与えるものと一般読者が受け止めると認めることはできない。
また,本件書籍の表題に「カラクリ」という言葉が使用されていることにつき,通信販売業界の業者らに不快と感じたり不適切であると考える者がいるとしても,それは,自身だけが不快と感じている実態を踏まえてのうがった印象にすぎず,一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従って判断した場合には,本件書籍の表題が控訴人の主張するような悪印象を与えるものと認められないことは前記のとおりである。
したがって,控訴人が,その執筆した本件書籍の表題に「カラクリ」という言葉を使用したことが,控訴人の信用を毀損し,あるいは控訴人の社会的評価を低下させる不法行為であると認めることはできない。」

第5 結論

以上より,その余の補充主張について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
             裁判長裁判官    塩月秀平
                   裁判官    真辺朋子
                   裁判官    田邉 実

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出典
知的財産裁判例集

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2011年4月17日 (日)

新刊 佐藤幸治「日本国憲法論」

京大名誉教授の佐藤幸治先生から、

新著「日本国憲法論」

http://www.seibundoh.co.jp/pub/search/022660.html

をお贈りいただいた。

2011年4月20日発行である。

Photo_3

思い返せば、先生と最初にお会いしたのは京大の学生であった頃。

京大の法経4番教室に入ってこられた先生は、いきなり机上に置いたアタッシュケースを、手をクロスさせてガチャリとオープン。

板書される凄まじいほどの学説判例整理には、「世の中にはすごいひとがいるものだ」と思ったことが懐かしい。

たとえばA1説からD3説までのリストと、X1説からZ2説までのリストを書き、どの説とどの説が関係するのか、ラインを引きながらのご説明には、深い感銘と驚きを受けたものだった。

私が自著などで図示を多用するのは、その遺伝子が残っているのかもしれない。

時は流れ、佐藤先生も、京大退官後は司法改革に尽力される一方、近畿大学のロースクールで教鞭を執られ、私も非常勤ながらお仕えし、佐藤先生のご退職を機に私もお暇いただいた。

平成21年6月13日に開催された情報ネットワーク法学会特別講演会では、堀部政男先生の基調講演につ続き、佐藤幸治先生に特別講演をしていただいた。

その内容は、NBL912(2009.9.1)号、8-26頁に掲載されている。浅学の身で質疑応答の司会もさせていただいた。

講演会の際、「憲法の教科書を改訂している」とおっしゃっていた。それがようやく完成したのが、この本である。

佐藤先生の教科書には、その後、司法試験受験時代を含めてお世話になっているが、こうして心待ちにしていた今回の改訂書は、横書きで、700ページ近くビッシリと書かれた内容となっており、さらにパワーアップされている。

質量ともに、我が国における最高水準の憲法の教科書として、心よりお奨めする次第である。

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2011年4月16日 (土)

グーグル・ストビュー個人情報漏洩損害賠償請求事件判決(全文)

ベランダの洗濯物が勝手にストビュー公開されたとして訴えた事案。

福岡地判平成23年3月16日平成22(ワ)4971
個人情報漏洩損害賠償請求事件

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
被告は原告に対し,60万円を支払え。

第2 事案の概要
本件は,原告が被告によって,原告の住居のベランダに干してあった洗濯物を盗撮されたことにより,精神的苦痛を受けたとして,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

(中略)

第3 争点に対する判断

1 認定事実
証拠(括弧内に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(1)原告は本件居室に居住していた頃,ベランダに洗濯物を干していたところ,被告は公道であるc号線上を走行する撮影車から撮影し,遅くとも平成22年3月上旬までに,本件画像をストリートビューのサービスとしてインターネット上で公開した。(甲35,乙3,同4。枝番号含む)
(2)被告は,一般人から画像の公開停止依頼を受けた場合にはこれを削除することとしており,本件画像についても平成22年11月12日に本件訴訟の訴状の送達を受けた後,公開停止の措置をとった。
(甲22,乙2,顕著な事実)

2 争点に対する判断

(1)争点1(原告の権利又は法律上保護すべき利益が侵害されたか)について原告は,本件居室のある建物の敷地前の公道は道幅が狭いことから,その路上で本件画像を撮影することはできないなどとして,被告が本件画像を私道上から撮影した旨主張するが,証拠(乙4の1及び2)によれば,上記認定のとおり,公道上から撮影したことが明らかに認められるのであって,その主張は採用できない。

そして,本件画像によれば,本件住居のベランダに洗濯物らしきものが掛けてあることは判別できるものの,それが何であるかは判別できないし,もとより,それがその居住者のものであろうことは推測できるものの,原告個人を特定するまでには至らない。

そして,元来,当該位置にこれを掛けておけば,公道上を通行する者からは目視できるものであること,本件画像の解像度が目視の次元とは異なる特に高精細なものであるといった事情もないことをも考慮すれば,被告が本件画像を撮影し,これをインターネット上で発信することは,未だ原告が受忍すべき限度の範囲内にとどまるというべきであり,原告のプライバシー権が侵害されたとはいうことができない。したがって,本件においては,不法行為の要件である,権利又は法律上保護すべき利益の侵害が認められないというべきである。

なお,原告は被告の行為が個人情報保護法の諸規定に違反するとも主張するが,同法にいう個人情報とは「生存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」をいうところ(同法2条1項),上記判示のとおり,本件画像の内容に鑑みれば,せいぜい洗濯物が干してあり,誰かが同居室に住んでいることが分かるといった程度の情報にすぎないから,上記個人情報に当たるといえるか疑問であるし,仮にこれに当たるとしても,上記認定の事実からすれば,原告との関係で,その情報取得の態様,取扱いの方法,管理の態様等が個人情報保護法の諸規定に違反して違法であるとは到底言えない。

したがって,いずれにしても原告の主張は採用できない。

第4 結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

福岡地方裁判所第3民事部

裁判官 松 永 栄 治

出典

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81227&hanreiKbn=04

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2011年4月15日 (金)

「まねきTV事件」最高裁判決の分析 3

「まねきTV事件」最高裁判決に対して、さまざまな意見が飛び交っている。ここでは、さしあたり次の点を指摘しておきたい。

まず、ロケーションフリー機器を1台、個人で購入して自宅に設置してアンテナを接続し、ネットを介して出張先からパソコンで見ることは公衆送信権の侵害に該当するか。

 少なくとも本判決の射程外である。というのも、本判決は「当該装置に情報を入力する者が送信の主体である」としている。したがって、上記設例では、自宅に設置した個人が送信の主体となる。厳格に当該個人が自分向けにのみ「11」で送受信して閲覧する限り、「公衆」要件を満たさない。それゆえ、本判決の論理を前提としても、公衆送信とも、送信可能化とも言えないことになろう。日本国内の自宅に設置して、海外赴任している人が、赴任先から見る場合も同様となろう。

次に、クラウドコンピューティングの特定個人向けストレージサーバに録画ファイルをアップロードしておいた人が、これをダウンロードするなどして再生・閲覧する場合はどうか。

まず、「継続的に情報が入力されている場合」に該当するか、疑問がある。本判決は放送用アンテナを「繋ぎっぱなし」にする場合について、「継続的に」に該当するとしたものであるが、それ以外のケースについて、どのような場合が「継続的に情報が入力」といえるか、本判決は踏み込んだ基準を示していない。

さらに本判決は、「自動公衆送信……の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であ」るとする。最高裁が、どのような意味で、かかる一般論を述べたのか明らかでない。しかし、この一般論が一人歩きすると、インターネットサービスについて、無制約に「主体」が広がることが危惧される。クラウドに用いる事業者のサーバは、文字どおり「受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態」である。それどころか、プロバイダの共用レンタルサーバ全般が、かかる状態にあるという余地もある。

仮に、それが肯定されれば、送信の主体はクラウド事業者やプロバイダであることになり、契約を結べば誰でも利用できるので「公衆」要件も満たし、クラウド事業者等は、公衆送信の主体となってしまう。そして、送信されるデータが著作物であれば、公衆送信権侵害が成立するおそれがある。本判決に対する評釈の中に、ホスティングのようなクラウド型サービスへの適用を懸念する声があるのは、以上の理由に基づくものであろう。

何も筆者は、最高裁が、そのような趣旨で本判決を言い渡したのだと断定しているわけではない。むしろ、そのような趣旨ではなかったはずであると推測している。ただ、判示された一般論が、余りに広すぎるだけに、そのように理解される余地を残していると言いたいだけである。

前掲「ロクラク事件」最高裁判決は、基準の漠然性ゆえに、侵害の成否を決する範囲が見えてこないという問題が残った。これに対し、「まねきTV事件」最高裁判決は、以上のように判示された一般論が過度に広汎であるがゆえに、問題が残された。

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2011年4月14日 (木)

国会に知的財産権や情報ネットワーク関連の法案提出

震災、津波、原発事故で無茶苦茶な状況が続いているが、国会には知的財産権や情報ネットワークがらみの法案が、数多く提出されている。

震災前に法案提出準備が完了しているはずなので、粛々と提出ということなのだろう。

まず、情報ネットワーク関連。

「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g17705042.htm

サイバー犯罪条約対応部分を共謀罪等から切り離して4月1日付けで国会へ提出された刑法等の一部を改正する法律案、マルウェア規制盛り込む。

「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案」
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17705035.htm

「電波法の一部を改正する法律案」
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17705034.htm

次に、知的財産権では

「特許法等の一部を改正する法律案」。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17705045.htm

参議院で審議中。実施兼関係をはじめ、かなり多岐にわたる。

「不正競争防止法の一部を改正する法律案」。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17705046.htm

こちらはアクセスコントロール技術と営業秘密の保護拡大。

これらと関係はないが、民法・家族編関連の改正も。

「民法等の一部を改正する法律案」
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17705031.htm

これは、フォローがたいへんだ。

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ブル4を聴く

かつてネパールへ行ったことがある。
ヒマラヤを見に行った。

飛行機でカトマンズに近付くと、雲上に白く高い山の頂が、ひとつ見えた。
「あれがエベレストですよ。」
添乗員が、そっと教えてくれた。
蒼穹の空間に突き出す姿は、文字どおり「神々の座」のように見えた。

アンナプルナ山脈にほど近い、ポカラという田舎村で宿泊した。
冬なので、空気が余計にひんやりとしている。
ホテルと言っても、電気も来ておらず、自家発電も不十分なので、シャワーも冷たい。

夜は月明かりに照らされたマナスルを見て、翌朝、まだ仄暗いうちに起こされてホテル屋上へ。
やがて昇ってくる朝日にアンナプルナ山脈が照らされた。
息もできず、言葉にもできない神々しさ。
そこには木々すらなく、人間の住む俗世間から隔絶していた。
やがて山々をガスが覆い、後は一面、白濁した霧の中の世界となる。

ところで、東京へ向かう新幹線の中で、この日記を書いている。
どうして、そんなときにアンナプルナを思い出したのかって?

たまたまブルックナーの交響曲をヘッドホンで聴いていたからだ。
そうだ4番。
日ごろ疲れてささくれ立った神経を癒してくれる。
第1楽章冒頭の「原始霧」(弦のトレモロ)の中から登場するホルンのソロが、夢うつつで聴いていて、あのときのアンナプルナを思い起こさせたのだ。

この曲のCDは7種類ほどもっているが、いま聴いているのは、シモーネ・ヤングがハンブルク・フィルを振った第1稿版。
この人、見た目はともかく、織りなす音楽は繊細だ。きっとブルックナーに向いているのだろう。
それにしても最近のオケは上手い。
ブロムシュテット/ドレスデンと並んで、最近のお気に入りである。

さて車窓から、雪をまとった富士山が見えてきた。
今日はよく晴れている。
沿線には桜も見える。

ここは春の日本。
東京もは近い。

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2011年4月13日 (水)

報告書「サイバー空間の安全性・信頼性向上のための課題等について」(内閣官房情報セキュリティセンター公表)

内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)から

「サイバー空間の安全性・信頼性向上のための課題等について」が平成23年4月12日付けで公表された。

私が座長を務めた。

この報告書は、「内閣官房情報セキュリティセンターでは、平成22年度にサイバー空間の安全性・信頼性向上等の課題等について検討を行い、報告書をまとめました。検討にあたっては、情報セキュリティや個人情報保護の専門家を集め、従来の情報セキュリティ政策の枠組みにとらわれず幅広い観点から検討を行い、海外動向等も踏まえながら、主に制度的な観点から今後我が国において対応が求められる課題について論点整理を行いました。」というものである。

http://www.nisc.go.jp/active/kihon/anzensei.html

である。

上記URLから

概要資料
http://www.nisc.go.jp/active/kihon/pdf/anzensei_kentou_gaiyou.pdf

本文
http://www.nisc.go.jp/active/kihon/pdf/anzensei_kentou.pdf

を閲覧することができる。

内容を、是非、ご覧いただければ幸いである。

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「まねきTV事件」最高裁判決の分析 2

前回に続いて、「まねきTV事件」最高裁判決を分析する。

本判決は、まず、送信可能化の意味について2条1項9号の5の定義内容を示した後、次のとおり判示した。

「公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は、これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても、当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは、自動公衆送信装置に当たるというべきである。」

この部分のポイントは、「単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても、……自動公衆送信装置に当たる」ことがありうるという点である。この点で控訴審判決と対立している。

「自動公衆送信装置に当たる」ということができるための要件として、本判決は「当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるとき」であることを掲げている。

そこで次に問題となるのは、どのような場合が、「自動公衆送信であるといえる」のかという点である。

ここで本判決は、誰から見て「自動公衆送信であるといえる」のか、つまり、自動公衆送信の主体について、どのような基準で判断されるべきかという点に関し論じている。次の部分である。

「自動公衆送信……の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であ」る。

本判決は、続けて、次のようにいう。

「当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。」

この判示部分のうち、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続」という点は、送信可能化、及び自動公衆送信装置の定義(2条1項9号の5)中に、繰り返し登場する文言であり、その意味では当然の要件である。そして、「本件サービスにおいては、ベースステーションがインターネットに接続」(本判決)されている。

次に、「当該装置に情報を入力」という趣旨も、細かな表現は別として、送信可能化、及び自動公衆送信装置の前記定義中に登場する文言である。

したがって、この判示部分のうち、特に意味があるのは、「継続的に」情報が入力、という部分であることになる。

では、この点について、本件の場合には、何が「継続的に」情報が入力、となるのか。本判決は、「本件サービスにおいては……ベースステーションに情報が継続的に入力されている」「ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し、当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力される」とする。

これを踏まえて、本判決は、次のとおり、サービス提供者が送信の主体であると結論付ける。

「被上告人は、ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し、当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上、ベースステーションをその事務所に設置し、これを管理しているというのであるから、利用者がベースステーションを所有しているとしても、ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。」

結局のところ、個々のベースステーションを見れば「1対1」のように見えるが、全体として見れば、一審被告のシステムは、放送をデジタル化して会員向けにインターネットへ流すための1個の中継基地(再送信基地)のようなものであり、契約をすれば誰でも会員となって利用できるので、公衆向けということもできるというものであろう。

(この項、続く。)

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2011年4月12日 (火)

「まねきTV事件」最高裁判決の分析 1

この日記で既に報じた「まねきTV事件」最高裁判決

最判平成23年1月18日判時2103号124頁
判決全文については
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/01/tv-52df.html
参照

について、その内容を、何回かに分けて分析してみたい。

将来、何らかの形で私見や感想を書きたいと思っており、今回は、その前段階にすぎないことに、留意して読んでいただきたい。

本件は、インターネットを介したテレビ番組のロケーションフリーサービスが問題となった事件である。

本件サービスを用いて、テレビ番組という著作物が流されることが侵害となるとして、放送事業者(一審原告=控訴人=上告人)が、ロケーションフリーサービス提供者側(一審被告=被控訴人=被上告人)を訴えたものである。

放送事業者側が侵害に該当するとしたのは、次の2つの権利である。

① 放送についての送信可能化権(著作権法99条の2)
② 放送番組についての公衆送信権(同法23条1項)

最初に、関連条項を整理しておく。

まず、①に関する99条の2(送信可能化権)は、次の条文である。

第九十九条の二 放送事業者は、その放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送を送信可能化する権利を専有する。

こうした「送信可能化」は、公衆送信の一形態である「自動公衆送信」を可能にする行為(自動公衆送信の準備行為)であると考えられている。

上記定義中の「送信可能化」について、定義規定(2条1項9号の5)が置かれている。その定義内容は複雑であるが、自動公衆送信装置の設置、当該装置への情報の記録・入力、及び、当該装置を公衆の用に供されている電気通信回線に接続することが、その要件となっている。

ここに「自動公衆送信装置」とは、「公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分……に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」をいう(同号括弧書)。

さらに、上記定義中の「自動公衆送信」についても、定義規定(2条1項9号の4)が置かれている。その定義内容は、「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。」というものである。

ここに登場する「公衆送信」についても、別途、定義規定(2条1項7号の2)が置かれている。次の内容である。

七の二 公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。

次に、②に関する23条1項(公衆送信権)は、次のような条文である。

第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

同条に登場する各概念に関する定義規定は、既に紹介したとおりである。

さて、本件訴訟に話を戻そう。

本件におけるサービス提供者側の主張は、極めてシンプルである。敢えて分かりやすさのために少し正確性を譲って要約すると、次の内容となる。

本件サービスを用いてテレビ番組を送受信する行為の主体は、サービス提供者ではなく個々のサービス利用者であり、それは「1対1」(当該個別利用者自身)の送受信であるから、同項にいう「公衆」に該当せず、したがってまた、「公衆送信」にも該当しない。そうである以上、「自動公衆送信」にも該当しない。「送信可能化」は「自動公衆送信」を可能にする行為であるから、本件は「送信可能化」にも該当しない。かかる利用者が行う適法行為を、サービス提供者はサポートしているだけであるから、サービス提供者にも侵害は成立しない。

控訴審判決は、次のとおり判示して、サービス提供者側を勝訴させた。おおむねサービス提供者側の主張を認めたものといえよう。

(1) 送信可能化は、自動公衆送信装置の使用を前提とするところ(著作権法2条1項9号の5)、ここにいう自動公衆送信装置とは、公衆(不特定又は多数の者)によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置でなければならない。各ベースステーションは、あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信するという1対1の送信を行う機能を有するにすぎず、自動公衆送信装置とはいえないのであるから、ベースステーションに本件放送を入力するなどして利用者が本件放送を視聴し得る状態に置くことは、本件放送の送信可能化には当たらず、送信可能化権の侵害は成立しない。

(2) 各ベースステーションは、上記のとおり、自動公衆送信装置ではないから、本件番組を利用者の端末機器に送信することは、自動公衆送信には当たらず、公衆送信権の侵害は成立しない。

これに対し、上告審である本判決は、この控訴審判決を破棄して原審に差し戻した。侵害成立を認めることを前提とする判断である。いわゆる逆転判決である。

次回に続く。

追記

ちなみに、「ロクラクⅡ」「まねきTV事件」の各最高裁判決については、2011年4月14日開催の商事法務ビジネスロースクール「著作権法の最新実務」でもしゃべる予定である。
申込ページ:http://www.shojihomu.co.jp/school.html#_著作権法の最新実務

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2011年4月11日 (月)

書評 小向太郎「情報法入門【第2版】」

小向太郎氏から「情報法入門【第2版】」をご寄贈いただいた。

氏とは旧知の仲である。柔らかな物腰と、シャープな視線が同居している人物である。

この土日に、本書を、ざっと拝見した。

小向氏は(株)情報通信総合研究所の上席主任研究員であり、各大学で教鞭も執られている。

このように、情報通信関係の法制度に関する我が国でも屈指の専門家であるだけに、関連する法制度が、正確に、よく整理されていることに感銘を受けた。

これから情報ネットワーク法を勉強したいと思っておられる方々にとって、格好の入門書となるに違いない。安心して、お薦めできる書籍である。

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小向太郎「情報法入門【第2版】」

NTT出版

2011/3/22発行

ISBN-10: 4757103069
ISBN-13: 978-4757103061

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2011年4月10日 (日)

ロクラクⅡ最高裁判決再考

 我が国の支配的な判例法理によれば、侵害主体だけが差止請求の対象者となり、いわゆる間接侵害者は、その対象とならないとされてきた。その一方で、クラブキャッツアイ事件最高裁判決は侵害主体概念を拡張するという方法で対処しようとした。一般に「カラオケ法理」と呼ばれている。その後も同法理は下級審判例によって繰り返し使われてきた。物理的な侵害主体でなくても、図利性と管理支配の両要件を満たした場合には、規範的に侵害主体として捉えることができるというものである。

 同法理は、下級審判例によって、カラオケ領域だけでなくインターネットサービス領域にも、同法理の適用範囲が拡張・転用されてきた。初期の事例としてはファイルローグ事件に関する東京地裁・東京高裁による一連の判例であるが、それにとどまらない。例えばネットストレージ事業者に関するものとして、MYUTA事件判決がある。

 以上の点については、一般的な著作権法の教科書類であれば書いてあることなので、各自、それを読んでいただきたい。ちなみに、拙著『著作権法』でも簡単に整理している。

 ところで、最近では、ロケーションフリーに関しカラオケ法理の適用が問題となった複数の下級審判例が言い渡されているが、結論が分かれていた。本件の原審もそのひとつである。そのため、最高裁による判断が注目されていた。ロクラクⅡ最高裁判決は、まねきTV事件判決と並んで、かかるロケーションフリーに関し最高裁が初の判断を示したものとなった。

 本判決の全文については次を参照。

 http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/01/post-bdcf.html

 本判決は、本件で問題となったサービスの概要は、原審の確定した事実関係によれば、次のとおりであるとしている。

 ロクラクⅡは、2台の機器の一方を親機とし、他方を子機として用いることができる(以下、親機として用いられるロクラクⅡを「親機ロクラク」といい、子機として用いられるロクラクⅡを「子機ロクラク」という。)。親機ロクラクは、地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し、受信した放送番組等をデジタルデータ化して録画する機能や録画に係るデータをインターネットを介して送信する機能を有し、子機ロクラクは、インターネットを介して、親機ロクラクにおける録画を指示し、その後親機ロクラクから録画に係るデータの送信を受け、これを再生する機能を有する。

 ロクラクⅡの利用者は、親機ロクラクと子機ロクラクをインターネットを介して1対1で対応させることにより、親機ロクラクにおいて録画された放送番組等を親機ロクラクとは別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる。

 その具体的な手順は、①利用者が、手元の子機ロクラクを操作して特定の放送番組等について録画の指示をする、②その指示がインターネットを介して対応関係を有する親機ロクラクに伝えられる、③親機ロクラクには、テレビアンテナで受信された地上波アナログ放送が入力されており、上記録画の指示があると、指示に係る上記放送番組等が、親機ロクラクにより自動的にデジタルデータ化されて録画され、このデータがインターネットを介して子機ロクラクに送信される、④利用者が、子機ロクラクを操作して上記データを再生し、当該放送番組等を視聴するというものである。

 そこで、本件では、本件のようなロケーションフリーのサービス提供者が複製行為の主体となりうるかという点が争点となった。

 本判決は、サービス提供者が複製行為の主体であることを肯定した。

 まず、本判決は、「複製の主体の判断」につき、「複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断」すべきであるとする一般論を述べた。

 そして、本件のサービス提供者について、「複製の実現における枢要な行為」をしているという点を理由に、複製行為の主体であることを認めた。

 問題は何をもって「複製の実現における枢要な行為」に該当するのかという点である。本判決は、これを「サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという」ことであるとしている。

 これが具体的に何を意味するのか、必ずしも明らかではない。おそらく、「サービス提供者が設けた本件サービスがなければ、放送番組の複製なんてできないではないか。」という意味であろう。

 現に本判例は、「複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり、サービス提供者を複製の主体というに十分である」としているからである。

 ちなみに、本判決には、「管理、支配下」等の語が並んでいるので、本判決が「カラオケ法理」の延長線上にあるものであることは、誰にでも理解できるはずである(但し多数意見における「図利性」の位置付けは後述)。

 ところで、本判決の前記判示を、フォトコピー機を設置したコピー店で利用者が文献(他人の著作物)をコピーする場合と比較してみよう。

 この場合、複製時におけるサービス提供者のサービス提供行為がなければ、少なくともその店で利用者がコピーをすることはおよそ不可能である。

 しかし、それだけで当該コピー店を「複製の主体というに十分である」と言えるのであろうか。

 この場合におけるコピー機は、30条1項1号の「自動複製機器」に該当するから、利用者にとって「私的使用のための複製」とはならず、本来なら利用者の行為は複製権侵害となるはずである。しかし、同号は附則5条の2によってコピー店で自らコピーした利用者自身には当分の間適用されない。したがって、現状では利用者の行為は複製権侵害とならない。先に「本来なら」と言ったのは、このような意味からである。

 これを前提に、まず、サービス提供者たる当該コピー店が「複製の主体」であることを肯定した場合は、どうなるか。

 当該コピー店が「複製の主体」たりうるとすると、当該コピー店には私的使用の目的はないから、30条は適用されず、まさに複製権侵害が成立する。したがって、権利者は、当該コピー店に対し、差止請求、損害賠償請求をすることができるはずである。

 しかし、附則5条の2の趣旨は、コピー店において利用者がコピーするようなケースについて、明文にはないが、コピー店を含めて、当分の間は不問に付すというものではなかったのか。つまり、コピー点のケースでは、あくまでも複製主体は利用者のみであって、店側は複製主体ではないという整理であったのではないか。もしそうだとすると、附則5条の2に示された立法者意思と本判決との間に径庭はないのか。

 かかる径庭を解消するための考え方として、本件のようなロケーションフリーのサービス提供者が複製の主体となりうるが、前述したコピー店の場合には複製の主体とならないという立場も考えられる。

 例えば、本判決が言う「サービス提供者の上記各行為がなければ……複製をすることはおよそ不可能」という言葉に着目すると、「他業者の類似サービスがあれば、本件サービスを使わなくても複製をすることは可能」となるので、本件のサービス提供者は複製主体たりえないという趣旨と考える余地もあるが、それでは不合理である。一人でも他業者がいるかどうかで、複製の主体となったりならなかったりというのも非論理的だからである。

 次に、「サービス提供者の上記各行為」という点ではどうか。親機ロクラクを設置していること、親機ロクラクにテレビアンテナやインターネット回線を接続していること、親機ロクラクに電源を入れていることが考えられる。

 もし、これらの点が、複製主体としたことの「決め手」になったのであれば、他人の著作物を無断掲載したメルマガを、利用者が大量配信した場合におけるメルマガ配信サービス事業者、他人の著作物を無断掲載したブログ記事を、利用者が公開した場合におけるブログサービス事業者、他人の著作物を無断掲載した「つぶやき」を利用者が行った場合におけるツイッター社など、これと同様に「諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断」できることになろのであろうか。「諸要素」として「複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等」が、本件とどのように関係しているのか、少なくとも判旨からは具体的な関係が見えてこない。

 結局、「諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断」するというものと変わりがなく、これでは基準として意味がない。換言すると、裁判所として、複製に該当すると判断するから、そう判断したという以上の意味が判読できない。本判決には補足意見も付けられているが、長文の割には、単に法解釈に関する一般論を説いているか、当該裁判官の価値観を表明しているにとどまり、本件について具体的に踏み込んだ理論的検討に乏しい。

 しかし、本件のように情報の流通にかかわるケースにおいては、委縮効果が生じないよう、明確性を保つべきことは不可欠の要請である。本判決は、かかる要請を満たしているといえるのか。カラオケ法理ですら、基準として不明確なので問題が多かったが、ロクラク法理は、突き詰めれば「諸要素を考慮」するだけのものであるから、法理とすら呼ぶことが困難である。「ロクラク法理」では、図利性の要件すら、考慮すべき要件のひとつにすぎず、決め手にはならないのである。

 裁判所、まして最高裁が示す法的判断は、最重要の先例として、その後におけるすべての関係者の行為規範となる。本件のように、規範として極めて漠然としており抽象的にすぎるような場合には、その後における実務の混乱を招くことが懸念される。それは、本件において、侵害の成立を認めるべきであるとする立場と、認めるべきでないとする立場の、どちらに立つかによって変わるべき問題でもない。間接侵害に関する立法を行うことによって、基準を早急に具体化して明確化する必要があろう。

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2011年4月 6日 (水)

京都府「児童ポルノ規制条例検討会議検討結果報告書」

京都府「児童ポルノ規制条例検討会議検討結果報告書」

が公表された。

http://www.pref.kyoto.jp/shingikai/seisyo-02/resources/1301015618479.pdf

にある。

ポイントは、

1.提供目的以外の取得・所持の禁止
2.廃棄命令
3.直罰規定

今後、法案提出を待って京都府議会で審議される。

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2011年4月 5日 (火)

駒込大観音事件4-本件原観音像制作当時の仏頭部に原状回復する措置について

本件では第1審判決,控訴審判決ともに,116条(著作者又は実演家の死後における人格的利益の保護のための措置)にいう「遺族」にXが該当するとしている。

同条は,3種類の請求権を「遺族」に付与している。

その内容は
「著作権法116条の読み方」
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/01/116-45d2.html
を参照されたい。

この中で,本件では60条違反の行為に対する名誉回復等措置請求権が問題となった。

同条は,著作者の死後における著作者人格権侵害相当行為を禁じている。すなわち,著作者の死亡等によって著作者人格権は消滅するが,その場合でも,その著作物を公衆に提供・提示する者が,著作者が存しているなら著作者人格権の侵害となるべき行為(著作者人格権侵害相当行為)をすることが,原則として禁止されている(60条本文)。

第1審判決は,本件原観音像の仏頭部ををすげ替えて,公衆の観覧に供していることが,本件原観音像に係る著作者(亡兄R)の同一性保持権に対する死後の侵害相当行為に該当するとした。

これに対し,控訴審判決は,死後の前記同一性保持権侵害相当行為に該当することに加えて,113条6項所定の,「(著作者であるRが生存しているとしたならば,)著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するとした。後者は,Xが控訴審で追加した請求である。

60条違反の行為に対し,著作者の遺族Xは,116条に基づいて,「著作者…の死後における人格的利益の保護のための措置」をとるよう請求することができる。具体的には,112条に基づく差止請求権と,115条に基づく名誉回復等措置請求権である。

115条の内容については,
「著作権法115条の読み方」
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/01/115-e3ce.html
参照。

第1審判決は,同条について次の3分類を提唱し,このうちのbに該当するとして,仏頭部を本件原観音像制作当時の仏頭部に原状回復する措置を命じた。

a.「著作者又は実演家であることを確保……するために適当な措置」
b.「訂正……するために適当な措置」
c.「その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置」

これに対し,控訴審判決は,「諸般の事情を総合考慮するならば,①原告が求める謝罪広告中(訂正広告を含む。),その客観的な事実経緯を周知するための告知をすることで,Rの名誉,声望を回復するための措置としては十分であり,②仏頭部を本件原観音像制作当時の仏頭部に原状回復する措置や謝罪広告を掲載する措置,公衆の閲覧に供することの差止めについては,いずれも,Rの名誉,声望を回復するための適当な措置等とはいえない」とした。

すなわち,控訴審判決は,前記3分類には触れることなく,「被告らによる本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,確かに,著作者が生存していたとすれば,その著作者人格権の侵害となるべき行為であったと認定評価できるが,本来,本件原観音像は,その性質上,被告光源寺が,信仰の対象とする目的で,Rに制作依頼したものであり,また,仏頭部のすげ替え行為は,その本来の目的に即した補修行為の一環であると評価することもできること,交換行為を実施した被告Y2は,Rの下で,本件原観音像の制作に終始関与していた者であることなど,本件原観音像を制作した目的,仏頭を交換した動機,交換のための仏頭の制作者の経歴,仏像は信仰の対象となるものであること等を考慮するならば,本件において,原状回復措置を命ずることは,適当ではない」としている。

前記3分類の是非はともかくとしても、前記判旨中の「本件原観音像は,その性質上,被告光源寺が,信仰の対象とする目的で,Rに制作依頼したものであり,また,仏頭部のすげ替え行為は,その本来の目的に即した補修行為の一環である」という部分は重要であろう。

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2011年4月 4日 (月)

著作権法の最新実務(セミナー案内)

早いもので、もう4月。

だが、震災の影響で、さまざまなセミナーが延期になっている。

事情は分かるので、私がしゃべるはずだった今月のセミナーも延期になるのか、主催者の商事法務に問い合わせてみた。

「開催する。」

という回答が返ってきた。そうであるのなら、がんばってしゃべりたい。時期が時期だけに、人は少ないかもしれないが、そうなのであれば、じっくり受講者の質問も受けることができるというものだ。

ということで、たまには少しだけ宣伝させて欲しい。興味がある人は、聞きに来ていただきたい。

申込ページ:http://www.shojihomu.co.jp/school.html#_著作権法の最新実務

著作権法の最新実務
★契約実務と裁判実務に必須のポイントを平易かつ立体的に解説
<パンフレット・申込用紙はこちら
<開催要項>

■講  師 岡村久道  弁護士(弁護士法人英知法律事務所)
■日  時  2011年4月14日(木)
午後1時~5時(計4時間)
■会  場  株式会社商事法務  3階 会議室
            (東京都中央区日本橋茅場町3-9-10)

■受講料  31,500円(1名分,税込)
※テキストとして,岡村久道 著「著作権法」(2010年11月・㈱商事法務発行[定価:4,935円(税込)])を配布(無料贈呈)いたします。
■同一の受講申込書にて1社2人以上申込の場合、2人目から2,100円引きといたします。
■レジュメのみの販売はいたしません。
■定  員  40名(申込順)
※ 会場での録音・撮影,パソコン・携帯電話の使用はご遠慮願います。

<主要講義項目>
Ⅰ 知的財産権制度と著作権法の概要

Ⅱ 著作権法の基本
1 著作権法上の権利と特徴
2 著作物
3 著作者と著作権者
4 著作権・著作者人格権
5 著作者隣接権など

Ⅲ 契約実務と著作権法
1 権利処理の枠組み
  (1) 譲渡と利用許諾
  (2) 同意
2 管理の要点
3 著作物作成契約
4 担保権設定契約

Ⅳ 権利侵害と実務

Ⅴ 今後の体制整備に関するポイント

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駒込大観音事件3-共同著作者性について

前回、説明した控訴審判決の内容に基づき、各論点を解説する。まず、X及び亡父Tの共同著作者性である。

1.共同著作者性

本件では,X及び亡父Tの共同著作者性が争われ,第1審判決,控訴審判決ともに,結論的には,これを否定している。

共同著作者に該当するかどうかについては,まず法14条等の推定規定によりうるときは,それによる。特定の者が作品を創作したという著作者性の立証は一般に困難なので,立証の負担軽減を目的に置かれたものである。

同条は,著作物の原作品に,又は著作物の公衆への提供・提示の際に,その氏名・名称(実名)又はその雅号,筆名,略称その他実名に代えて用いられるもの(変名)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されているという事実を立証すれば,上記の者が創作者であると推定されるという規定である。

共同著作者に該当することについても,同条を適用しうる。そこで,本件でXはX自身及び亡父Tの共同著作者性について,14条の適用を主張した。本件原観音像の体内(躯体の内部)に,「大佛師監修T」,「制作者R J X 弟子Y2」との墨書が,また,本件原観音像の足ほぞには,「監修T」,「制作者R J X Y2」との墨書が記載されているからである(当事者間に争いがない事実)。

しかし,同条は推定規定であるから,これを争おうとする反対当事者の側で,反証を挙げて覆すことができる。

2.Xの共同著作者性-否定

本判決は,結論として,本件では「法14条所定の推定を覆す事実があるから,Xを本件原観音像の共同著作者と認めることはできない。」とした。

第1に,Xの名前が「制作者」として墨書されていることをもって,14条にいう,「著作物の原作品(本件原観音像の躯体の内部と足ほぞ)に,……その氏名・名称又はその雅号,筆名,略称その他実名に代えて用いられるものとして周知のものが著作者名として通常の方法により表示」されているとしたものと思われる(括弧内は筆者)。

第2に,本判決は「法14条所定の推定を覆す事実がある」として同条の推定を覆した。

では「法14条所定の推定を覆す事実」とは何か。

まず一般論を説明する。

著作者とは,当該作品について,その者の思想又は感情を創作的に表現する活動をした者をいう(人形作品写真集事件第1審の横浜地判平成19年1月31日判時1988号100頁・判タ1253号301頁)。したがって,作品の形成に何らかの関与をした者であっても,その者の思想,感情を創作的に表現したといえる程度の活動をしていなければ,その者は著作者といえない(家庭内暴力書籍事件の東京地判平成16年2月18日判タ1169号291頁)。

さらに,著作物に該当するためには具体的な創作的表現であることを要するから,ここでも具体的な創作的表現を対象に,上記活動を行った者であることが必要となる。共同著作者性の認定においても同様である。

最終的には,著作物の作成過程を事実認定することによって,かかる活動を誰が行ったのかを確定し,誰が著作者なのかを上記基準に照らして判断する。これを「事実認定」ではなく「検証」という説もあるが,「検証」という言葉は,著作権訴訟を含めて民事訴訟では別の意味に用いられているから,誤解を招くおそれがある。したがって,「事実認定」ということが適切であろう。拙著『著作権法』でそのように記載したのは,このような理由によるものである。

法14条所定の推定を覆そうとする場合も,立証責任は異なるものの,著作物の作成過程を事実認定することによって,かかる活動を誰が行ったのかを確定し,誰が著作者なのかを上記基準に照らして判断する。

本件でも,本判決は,以上のように著作物の作成過程を事実認定して,「本件原観音像の木彫作業がほぼ完成した平成元年9月までの間に,原告は,本件原観音像の制作作業に関与していないと認定できる」上に,「被告Y2が独立した後……から本件原観音像が……本件漆塗り工房に搬入されるまでの間に,……原告が……行った仕上げ作業が,本件原観音像の制作についての創作的な関与に当たるものとまで認めることはできない。」としている。

本判決は「原告が……行った仕上げ作業」なるものについて,その裏付けとなる証拠として「原告が本件原観音像の制作作業に従事していたことを示す客観的資料であると主張する《証拠略》は,いずれも本件原観音像の制作についての原告の具体的な関与の状況を示すものではなく,ましてや原告が……行った仕上げ作業によって本件原観音像の制作についての創作的な関与をしていたことを示すものではない。」としている。

結局,「仕上げ作業」なるものが創作的関与と言えるかどうか以前の問題として,原告による当該作業それ自体が存在したかどうかについて,前記関与を示す証拠すらないので,それによる原告の具体的な関与が認められないとしたものにすぎないというべきであろう。

3.Tの共同著作者性-否定

本判決は,Tの共同著作者性も否定した。

すなわち、本件原観音像には「監修T」との墨書が施されているが、被告Y2の供述中には,Tは,昭和62年5月ころから,認知症がひどくなってきており,本件原観音像の制作作業に関与できる状態にはなく,本件原観音像の制作作業に関与していない旨の供述部分があること,Tは,本件原観音像の制作がされた昭和62年当時通院中であり,その後昭和63年5月下旬から通院不能となり,同年7月29日死亡したことに照らすと,「T」との上記墨書から,Tが本件原観音像の著作者と推定されることを妨げる事実があるといえるとした。

4.まとめ

以上の理由で,本判決はX及び亡父Tの共同著作者性を認めず,亡兄Rの遺族としてのXの請求のみに争点は絞られた。制作過程を事実認定した上,それを上記基準に当てはめて反証を認めたものという点では,常識的なものであろう。

しかし,上記墨書は,仏像制作の際における何らかの伝統的な慣行に基づいているものと推察される。したがって,上記慣行を分析することによって,14条にいう「著作者名として通常の方法により表示」されたものか否かを判断する余地もあったのではないかと思われる。それによって,同条の適用外としうるかどうかは別としても,少なくとも推定の強弱を判断することは可能であったのではないか。

本件の続きは改めて執筆する予定である。

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2011年4月 3日 (日)

駒込大観音事件2-知財高判平成22年3月25日判時2086号114頁

1.はじめに

前回の日記
http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/04/post-9a5c.html
では,第1審判決について触れた。第1審判決に対し,XとY1の双方が控訴した。

そこで,今回は,控訴審判決(知財高判平成22年3月25日判時2086号114頁)について触れる。「事案の概要」については,前回の日記を参照されたい。

ちなみに、次の写真左が本件観音像、右が本件原観音像である。

Photo

   (出典・末尾記載の最高裁サイト本判決書93頁)

2.控訴審における追加的請求

Xは,第1審判決において,「事案の概要」で記載した①から④までの請求をしていた。控訴審において,さらにXは次のとおり追加的請求を行った。

⑤ T及びRから相続した展示権侵害を理由とする法112条1項,2項に基づく原状回復請求,及び法112条1項に基づく一般公衆の観覧に供する行為の停止請求,

⑥ X固有の展示権侵害を理由とする,不法行為に基づく損害賠償請求,T及びRから相続した展示権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求,及びXの被告らに対する,遺族としての深い愛着・名誉感情侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求

その結果,Xの求める請求の内容及び原因は34個となった。

3.著作者性

まず、本判決は,著作者性との関係で、「法14条所定の推定を覆す事実があるから,Xを本件原観音像の共同著作者と認めることはできないとして,Xの共同著作者性を否定した。Tについても共同著作者性を否定した。これらの結論は第1審判決と同様である。それゆえ,本判決も,Xの共同著作者としての各請求,及び,Tの遺族としてのXの各請求は,いずれも理由がない。」とした。

残された請求は,Rの遺族としてのXの各請求となった。

4.各請求に関する結論

本判決は,「①Y1による本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,著作者であるRが生存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権,法20条)の侵害となるべき行為であり,②法113条6項所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当し,侵害とみなされるべき行為であり,③法60条のただし書等により許される行為には当たらないと判断する。したがって,XはRの遺族として,法116条1項に基づいて,法115条に規定するRの名誉声望を回復するための適当な措置等を求めることができると解される。そして,当裁判所は,すべての事情を総合考慮すると,法115条所定のRの名誉声望を回復するためには,被告らが,本件観音像の仏頭のすげ替えを行った事実経緯を説明するための広告措置を採ることをもって十分であり,法112条所定の予防等に必要な措置を命ずることは相当でないと判断するものである。」とした。

5.法20条2項4号への該当性-否定

上記①との関係で,法20条2項4号所定の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に該当するかどうか,という点が問題となっており,これを本判決は認めなかった。

本件の「経緯に照らすと,被告らによる本件原観音像の仏頭部を新たに制作して,交換した行為には,相応の事情が存在する」が,次の理由によって,「観音像の眼差しを修正し,慈悲深い表情に変えるとの目的で,被告らが実施した本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,法20条2項4号所定の『やむを得ないと認められる改変』のための方法に当たるということはできない。」とした。

「たとえ,Y1が,観音像の眼差しを半眼下向きとし,慈悲深い表情とすることが,信仰の対象としてふさわしいと判断したことが合理的であったとしても,そのような目的を実現するためには,観音像の仏頭をすげ替える方法のみならず,例えば,観音像全体を作り替える方法等も選択肢として考えられるところ,本件全証拠によっても,そのような代替方法と比較して,被告らが現実に選択した本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為が,唯一の方法であって,やむを得ない方法であったとの点が,具体的に立証されているとまではいえない。」

6.法113条6項への該当性-肯定

さらに,本判決は,「被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,Rが社会から受ける客観的な評価に影響を来す行為である」から,「113条6項所定の,『(著作者であるRが生存しているとしたならば,)著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為』に該当する」とした。

7.法115条所定の適当な措置

以上のとおり,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,著作者であるRが生存しているとしたならば,同一性保持権の侵害となるべき行為であり,また,法113条6項の著作者人格権のみなし侵害となるべき行為であるとすれば,その遺族であるXは,法116条1項に基づいて,法115条,112条所定の適当な措置等を求めることができるはずである。

この点を理由に,Xが,「法115条所定の適当な措置として,Y1に対し,仏頭部を本件原観音像制作当時の仏頭部に原状回復措置,公衆の閲覧に供することの差止め等,被告らに対し謝罪広告措置等を求めている。」ことが,認められるかという点が問題となった。

本判決は,「①Xが求める謝罪広告中(訂正広告を含む。),その客観的な事実経緯を周知するための告知をすることで,Rの名誉,声望を回復するための措置としては十分であり,②仏頭部を本件原観音像制作当時の仏頭部に原状回復する措置や謝罪広告を掲載する措置,公衆の閲覧に供することの差止めについては,いずれも,Rの名誉,声望を回復するための適当な措置等とはいえない」とする一方,「Rの名誉声望を維持するためには,事実経緯を広告文の内容として摘示,告知すれば足りるものと解すべきであり,別紙広告目録記載第1の内容が記載された広告文を同目録記載第2の新聞に,同目録記載第2の要領で掲載することが相当である」とした。

すなわち,「被告らによる本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,確かに,著作者が生存していたとすれば,その著作者人格権の侵害となるべき行為であったと認定評価できるが,本来,本件原観音像は,その性質上,Y1が,信仰の対象とする目的で,Rに制作依頼したものであり,また,仏頭部のすげ替え行為は,その本来の目的に即した補修行為の一環であると評価することもできること,交換行為を実施した被告Yは,Rの下で,本件原観音像の制作に終始関与していた者であることなど,本件原観音像を制作した目的,仏頭を交換した動機,交換のための仏頭の制作者の経歴,仏像は信仰の対象となるものであること等を考慮するならば,本件において,原状回復措置を命ずることは,適当ではない」としたのである。

8.Rから相続した展示権に基づく請求について

ところで,XはRの相続人であり,Rから展示権を相続している。本件観音像は,本件原観音像の二次的著作物である。そこで,本件でXは原著作物の著作権者として,展示権侵害を理由として本件観音像を公衆の観覧に供することの差止請求(法112条1項)及び原状回復請求(法112条2項)を求めていた。

本判決は,これを認めなかった。その理由として,「観音像は,その性質上,信仰の対象として,拝観者をして観覧させるものであり,このような観音像の本来の目的に照らすならば,Rが,自己が制作した観音像の展示については,一般的,包括的かつ永続的に承諾をした上で,制作したとみるのが自然である。したがって,Xが,Rから相続したと主張する展示権に基づいて,公衆の観覧に供することの差止め及びこれに関連する原状回復を求めることが許される余地はな」く,「本件観音像は,本件原観音像の眼差しを修正する目的から,頭部を交換したものであり,本件原観音像そのものではないが,……事実経緯等に基づき総合判断するならば,Xの有する展示権に基づく,本件観音像の展示差止めの請求が許されないのは同様である。」と判示している。

9.その余の請求について

最後に,遺族としての深い愛着・名誉感情侵害を理由とする損害賠償請求についても,本判決は否定した。

10.参考-判決文

 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100326155245.pdf

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2011年4月 2日 (土)

駒込大観音事件1-第1審判決

1.事案の概要

 Xは,Xの亡父T,亡兄R及び兄Jと共同で制作した美術の著作物である本件観音像について,その原作品の所有者である被告Y1が亡T及び亡Rの死後に被告Y2に依頼して仏頭部をすげ替えて,公衆の観覧に供していることが,本件原観音像に係るXの著作者人格権(同一性保持権)及び著作権(展示権)の侵害又はXの名誉若しくは声望を害する方法による著作物の利用行為(著作者人格権のみなし侵害)に当たり,かつ,亡T及び亡Rが存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為に当たる旨主張し,被告Y1に対し,次の各請求をした。

① 著作権法112条1項,115条,113条6項に基づき又はT及びRの遺族として法116条1項,112条1項,115条に基づき,本件観音像の仏頭部を本件原観音像の制作当時の仏頭部に原状回復するまでの間,本件観音像を一般公衆の観覧に供することの差止め

② 法112条2項,115条,113条6項に基づき又はT及びRの遺族として法116条1項,112条2項,115条に基づき,本件観音像の仏頭部を本件原観音像の仏頭部に原状回復すること
 次に,Yらに対し,次の各請求をした。

③ Xの著作者人格権侵害又は著作者人格権のみなし侵害の不法行為に基づく損害賠償(被告光源寺に対しては前記原状回復するまでの間の将来分の損害賠償を含む。)

④ 法115条に基づき並びにT及びRの遺族として法116条1項,115条に基づき,X,T及びRの名誉又は声望を回復するための適当な措置として別紙謝罪広告目録1及び2記載の謝罪広告(訂正広告を含む。)

2.本判決の要旨

 第1審判決(東京地判平成21年5月28日平19(ワ)23883号)は,Xの遺族としての地位に基づき,被告Y1に対し,本件観音像について,「その仏頭部を同観音像制作当時の仏頭部に原状回復せよ。」と命じる一方,その余の請求及び被告Y2に対する請求をいずれも棄却した。

 本判決は,「本件原観音像の体内(躯体の内部)及び足ほぞの『A1』との墨書から,著作権法14条により,原告が本件原観音像の著作者と推定されるということはできない。そして,本件全証拠によっても,原告が本件原観音像の制作に創作的に関与したことを認めるに足りない。したがって,原告が本件原観音像の共同著作者であるものとは認められない。」として,Xの共同著作者性を認めなかった。 次に,亡父T及び兄Jの共同著作者性も認めなかった。

 さらに,亡兄Rが,美術の著作物である本件原観音像の著作者であること,亡兄Rが平成11年9月28日に死亡したこと等の事実を認定した上,「本件原観音像の仏頭部のすげ替えは,本件原観音像の重要な部分の改変に当たるものであって,Rの意に反するものと認められるから,本件原観音像を公衆に提供していた被告光源寺による上記仏頭部のすげ替え行為は,Rが存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条本文)に該当する」とした。

 これに対し,Y1は,仏頭部のすげ替え行為が亡兄Rの「意を害しないと認められる場合」に当たる,「やむを得ないと認められる改変」に該当する旨を主張したが,本判決は,これらの主張を認めなかった。

 以上のとおり認定した上,亡兄Rには配偶者及び子はいないこと,亡兄Rの父T及び母は,亡兄Rの死亡前に既に死亡していること,Xは,亡兄Rの弟であり,亡兄Rの「『遺族』(著作権法116条1項)に当たるから,同条項により,亡兄Rについて故意又は過失により同法60条に違反する行為をした者に対し,同法115条の請求をすることができる。」とした。

 そして,次の理由を述べて,「著作者人格権(同一性保持権)の侵害行為により改変された著作物の原作品を侵害前の原状に回復することは『訂正』に当たり,その必要性及び実現可能性があれば,著作者は,『訂正』するために適当な措置として,当該原状回復を請求することができる」とした。

「著作権法115条は,著作者又は実演家は,故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し,損害の賠償に代えて,又は損害の賠償とともに,著作者又は実演家であることを確保し,又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができると規定している。同条は,その文言上,著作者が,故意又は過失によりその著作者人格権を侵害した者に対し,『著作者であることを確保』するために適当な措置,『訂正』するために適当な措置又は『その他著作者の名誉若しくは声望を回復』するために適当な措置の3類型の措置を請求することができることを定めたものと解され,『その他著作者の名誉若しくは声望を回復』するために適当な措置とは別類型である『訂正』するために適当な措置を請求するに当たっては,著作者の名誉又は声望が毀損されたことを要件とするものではないと解される。」

 本件では,「Y1に対し,訂正するために適当な措置として,本件観音像について,その仏頭部を同観音像制作当時の仏頭部(本件原観音像の仏頭部)に原状回復することを求めることができる」とする一方,「上記原状回復そのものを請求することができる以上,本件観音像を公衆の観覧に供することの停止請求を認める必要性はなく,原告主張の上記停止請求は,著作権法115条にいう『適当な措置』に当たらない」とした。

 最後に,Xの遺族としての謝罪広告請求については,「被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,Rが存しているとしたならば仏師としてのRの名誉感情を害するものであることは想像に難くはない」としつつ,「本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為によって,Rが社会から受ける客観的な評価の低下を来たし,その社会的名誉又は声望が毀損されたものとまで認めることはでき」ず,「仮にRのその社会的名誉又は声望が毀損されたと認める余地があるとしても,……本件においては,Rの人格的利益の保護のための措置として,被告光源寺に対し,本件観音像について,その仏頭部を同観音像制作当時の仏頭部(本件原観音像の仏頭部)に原状回復することを求めることができる以上,Rの社会的名誉又は声望を回復するために謝罪広告請求を認める必要性はなく,原告主張の謝罪広告請求は,著作権法115条にいう『適当な措置』に当たらない」として,認めなかった。

 XとY1の双方が控訴した。次回は,控訴審判決について説明する。

3.参考-判決文

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090608093021.pdf

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