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2011年4月 4日 (月)

駒込大観音事件3-共同著作者性について

前回、説明した控訴審判決の内容に基づき、各論点を解説する。まず、X及び亡父Tの共同著作者性である。

1.共同著作者性

本件では,X及び亡父Tの共同著作者性が争われ,第1審判決,控訴審判決ともに,結論的には,これを否定している。

共同著作者に該当するかどうかについては,まず法14条等の推定規定によりうるときは,それによる。特定の者が作品を創作したという著作者性の立証は一般に困難なので,立証の負担軽減を目的に置かれたものである。

同条は,著作物の原作品に,又は著作物の公衆への提供・提示の際に,その氏名・名称(実名)又はその雅号,筆名,略称その他実名に代えて用いられるもの(変名)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されているという事実を立証すれば,上記の者が創作者であると推定されるという規定である。

共同著作者に該当することについても,同条を適用しうる。そこで,本件でXはX自身及び亡父Tの共同著作者性について,14条の適用を主張した。本件原観音像の体内(躯体の内部)に,「大佛師監修T」,「制作者R J X 弟子Y2」との墨書が,また,本件原観音像の足ほぞには,「監修T」,「制作者R J X Y2」との墨書が記載されているからである(当事者間に争いがない事実)。

しかし,同条は推定規定であるから,これを争おうとする反対当事者の側で,反証を挙げて覆すことができる。

2.Xの共同著作者性-否定

本判決は,結論として,本件では「法14条所定の推定を覆す事実があるから,Xを本件原観音像の共同著作者と認めることはできない。」とした。

第1に,Xの名前が「制作者」として墨書されていることをもって,14条にいう,「著作物の原作品(本件原観音像の躯体の内部と足ほぞ)に,……その氏名・名称又はその雅号,筆名,略称その他実名に代えて用いられるものとして周知のものが著作者名として通常の方法により表示」されているとしたものと思われる(括弧内は筆者)。

第2に,本判決は「法14条所定の推定を覆す事実がある」として同条の推定を覆した。

では「法14条所定の推定を覆す事実」とは何か。

まず一般論を説明する。

著作者とは,当該作品について,その者の思想又は感情を創作的に表現する活動をした者をいう(人形作品写真集事件第1審の横浜地判平成19年1月31日判時1988号100頁・判タ1253号301頁)。したがって,作品の形成に何らかの関与をした者であっても,その者の思想,感情を創作的に表現したといえる程度の活動をしていなければ,その者は著作者といえない(家庭内暴力書籍事件の東京地判平成16年2月18日判タ1169号291頁)。

さらに,著作物に該当するためには具体的な創作的表現であることを要するから,ここでも具体的な創作的表現を対象に,上記活動を行った者であることが必要となる。共同著作者性の認定においても同様である。

最終的には,著作物の作成過程を事実認定することによって,かかる活動を誰が行ったのかを確定し,誰が著作者なのかを上記基準に照らして判断する。これを「事実認定」ではなく「検証」という説もあるが,「検証」という言葉は,著作権訴訟を含めて民事訴訟では別の意味に用いられているから,誤解を招くおそれがある。したがって,「事実認定」ということが適切であろう。拙著『著作権法』でそのように記載したのは,このような理由によるものである。

法14条所定の推定を覆そうとする場合も,立証責任は異なるものの,著作物の作成過程を事実認定することによって,かかる活動を誰が行ったのかを確定し,誰が著作者なのかを上記基準に照らして判断する。

本件でも,本判決は,以上のように著作物の作成過程を事実認定して,「本件原観音像の木彫作業がほぼ完成した平成元年9月までの間に,原告は,本件原観音像の制作作業に関与していないと認定できる」上に,「被告Y2が独立した後……から本件原観音像が……本件漆塗り工房に搬入されるまでの間に,……原告が……行った仕上げ作業が,本件原観音像の制作についての創作的な関与に当たるものとまで認めることはできない。」としている。

本判決は「原告が……行った仕上げ作業」なるものについて,その裏付けとなる証拠として「原告が本件原観音像の制作作業に従事していたことを示す客観的資料であると主張する《証拠略》は,いずれも本件原観音像の制作についての原告の具体的な関与の状況を示すものではなく,ましてや原告が……行った仕上げ作業によって本件原観音像の制作についての創作的な関与をしていたことを示すものではない。」としている。

結局,「仕上げ作業」なるものが創作的関与と言えるかどうか以前の問題として,原告による当該作業それ自体が存在したかどうかについて,前記関与を示す証拠すらないので,それによる原告の具体的な関与が認められないとしたものにすぎないというべきであろう。

3.Tの共同著作者性-否定

本判決は,Tの共同著作者性も否定した。

すなわち、本件原観音像には「監修T」との墨書が施されているが、被告Y2の供述中には,Tは,昭和62年5月ころから,認知症がひどくなってきており,本件原観音像の制作作業に関与できる状態にはなく,本件原観音像の制作作業に関与していない旨の供述部分があること,Tは,本件原観音像の制作がされた昭和62年当時通院中であり,その後昭和63年5月下旬から通院不能となり,同年7月29日死亡したことに照らすと,「T」との上記墨書から,Tが本件原観音像の著作者と推定されることを妨げる事実があるといえるとした。

4.まとめ

以上の理由で,本判決はX及び亡父Tの共同著作者性を認めず,亡兄Rの遺族としてのXの請求のみに争点は絞られた。制作過程を事実認定した上,それを上記基準に当てはめて反証を認めたものという点では,常識的なものであろう。

しかし,上記墨書は,仏像制作の際における何らかの伝統的な慣行に基づいているものと推察される。したがって,上記慣行を分析することによって,14条にいう「著作者名として通常の方法により表示」されたものか否かを判断する余地もあったのではないかと思われる。それによって,同条の適用外としうるかどうかは別としても,少なくとも推定の強弱を判断することは可能であったのではないか。

本件の続きは改めて執筆する予定である。

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