大規模災害時の情報セキュリティとセキュリティのための情報システム
1.震災と情報システムのセキュリティ
東日本大震災では、津波で流されたり、浸水等のために使用できなくなった情報システムが少なくない。戸籍が庁舎とともに津波で流されてしまった自治体もあり、完全な再製ができるか、不安視する声もある。
これまで、情報セキュリティといえば、我が国では、異様なまでに機密性(漏えいしないということ)に重点が置かれていた。しかし、今回の事態によって、今後は可用性(ちゃんと使えるということ)を重視する方向へと、パラダイムシフトするのではないか。
阪神大震災の際、同一のビル内にバックアップデータを置いていたために、ビルの倒壊とともに、情報システムが、バックアップデータも含めて壊滅したケースがあった。ところが、今回も同様の事態が起こっている。教訓が活かされなかったのは残念だ。
これだけIT、そしてICTが発達した社会で、こんなにも壊滅状態に至ったのは、人類が初めて経験する事態である。我が国は、それを経験した唯一の国として、これによって得た貴重な教訓を、今後に活かさなければならない。それが世界に向けて行うことができる貢献でもあるはずだ。
(とはいっても、みずほ銀行大規模システム障害は、それ自体は深刻であったにもかかわらず、震災の陰に隠れた形になった。あれだけの大規模障害である以上、平常時なら、かなり重大な責任追及が行われていたはずだ。)
2.セキュリティのための情報システム
福島第一原発事故では、完璧といわれてきた「7重の安全システム」のほとんどが、いとも簡単に破られた。しかし、その一方では、本来であれば大惨事が発生してもおかしくない状況で、システムが安全を守ることができたケースも注目されている。代表例が、東北新幹線である。
東日本大震災で、東北新幹線が受けた被害は計約1100カ所にのぼった。いかに甚大な被害であったか、それだけで理解できるはずである。しかし、不幸中の幸いであったことは、最高時速約275キロで列車27本が走行していたにもかかわらず、乗客の生命が守られたことだ。
これは、JR東日本が設置していた早期地震検知システムの功績である。牡鹿半島に設けられた地震計が、事前に設定された運転中止基準となるP波(初期微動)を検知して、その後に発生するS波が発生するまでに、一斉に非常ブレーキが自動的に掛かり、減速したことによって脱線等を免れた。非常ブレーキが掛かった後に最初の揺れが始まり、最も強い揺れの時点では、制動開始後1分以上が経過していたという。他の新幹線でも、同様のシステムが採用されている。
これに象徴されているように、IT、そしてICTは、実社会の「安全」に奉仕することができる。今回の震災で、日本列島は地震活動期に入ったなどとして、他の震災の発生を危ぶむ声がある現在、いま一度、こうした先進技術を十分に活かせているか、再点検しなければならない。まだまだIT、ICTが安全のために役立つ場面は多いはずだ。
とはいえ、こうした制御系の技術は、肝心なときに作動しなければ意味がない。それゆえ、ここでも情報セキュリティの確保は大切だ。その意味で、両者は相互にかかわっている。
いずれにしても、再び今回のような事態を繰り返さぬよう、万全の備えをする。それが、亡くなられた方々への、せめてもの供養でもある。
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コメント
と書いた直後にソニー超大量漏えい事件。困ったものである。
投稿: 岡村久道 | 2011年4月28日 (木) 08時18分