「まねきTV事件」最高裁判決の分析 2
前回に続いて、「まねきTV事件」最高裁判決を分析する。
本判決は、まず、送信可能化の意味について2条1項9号の5の定義内容を示した後、次のとおり判示した。
「公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は、これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても、当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは、自動公衆送信装置に当たるというべきである。」
この部分のポイントは、「単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても、……自動公衆送信装置に当たる」ことがありうるという点である。この点で控訴審判決と対立している。
「自動公衆送信装置に当たる」ということができるための要件として、本判決は「当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるとき」であることを掲げている。
そこで次に問題となるのは、どのような場合が、「自動公衆送信であるといえる」のかという点である。
ここで本判決は、誰から見て「自動公衆送信であるといえる」のか、つまり、自動公衆送信の主体について、どのような基準で判断されるべきかという点に関し論じている。次の部分である。
「自動公衆送信……の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であ」る。
本判決は、続けて、次のようにいう。
「当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。」
この判示部分のうち、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続」という点は、送信可能化、及び自動公衆送信装置の定義(2条1項9号の5)中に、繰り返し登場する文言であり、その意味では当然の要件である。そして、「本件サービスにおいては、ベースステーションがインターネットに接続」(本判決)されている。
次に、「当該装置に情報を入力」という趣旨も、細かな表現は別として、送信可能化、及び自動公衆送信装置の前記定義中に登場する文言である。
したがって、この判示部分のうち、特に意味があるのは、「継続的に」情報が入力、という部分であることになる。
では、この点について、本件の場合には、何が「継続的に」情報が入力、となるのか。本判決は、「本件サービスにおいては……ベースステーションに情報が継続的に入力されている」「ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し、当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力される」とする。
これを踏まえて、本判決は、次のとおり、サービス提供者が送信の主体であると結論付ける。
「被上告人は、ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し、当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上、ベースステーションをその事務所に設置し、これを管理しているというのであるから、利用者がベースステーションを所有しているとしても、ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。」
結局のところ、個々のベースステーションを見れば「1対1」のように見えるが、全体として見れば、一審被告のシステムは、放送をデジタル化して会員向けにインターネットへ流すための1個の中継基地(再送信基地)のようなものであり、契約をすれば誰でも会員となって利用できるので、公衆向けということもできるというものであろう。
(この項、続く。)
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