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2011年5月 2日 (月)

共同配信記事名誉毀損事件最高裁判決-「配信サービスの抗弁」との関係

1.はじめに

 さて、これまで2回にわたって共同配信記事名誉毀損事件最高裁判決を取り上げてきたが、この事案のような問題については「配信サービスの抗弁」が認められるべきか、従来から議論があったところである。

 本件で地方紙側は第1審で「配信サービスの抗弁」を主張したが、第1審判決は、これを認めなかった。控訴審判決でも地方紙側は当初は同様の主張をしたが、途中で撤回した模様である。

2.最二小判平成14年3月8日

 ところで、本件よりも前に「配信サービスの抗弁」が争われた事件として、最二小判平成14年3月8日裁時1311号1頁がある(他に最三小判平成14年1月29日民集56巻1号185頁がある)。

 その多数意見は、「掲載記事が一般的には定評があるとされる通信社から配信された記事に基づくものであるという理由によっては、記事を掲載した新聞社において配信された記事に摘示された事実を真実と信ずるについての相当の理由があると認めることはできないというべきである(最高裁平成七年(オ)第一四二一号同一四年一月二九日第三小法廷判決・裁判所時報一三〇八号九頁参照)。 」として、地方紙側の主張を一蹴した。

 この第二小法廷判決には、裁判官河合伸一、同北川弘治の各意見、裁判官福田博、同亀山継夫の意見と、同梶谷玄の反対意見が付けられている。

3.第二小法廷判決における裁判官福田博、同亀山継夫の意見

 裁判官福田博、同亀山継夫の意見は、「掲載記事が通信社から配信された記事に基づくものであることを理由とする抗弁の存在が肯定されるためには、先決問題として、配信記事を掲載した報道機関の行為が外形的にも実質的にも正当な行為として認められるものでなければならない。一方では紙面が煩雑になるなどとの理由を述べて定款や契約によって義務付けられたクレジット表示をしないでおきながら、他方では、国民の知る権利を標榜し、記事が通信社から配信を受けたものであることを理由とする抗弁を主張するというのは、いかにもフェアでなく、そのような記事掲載は、到底名誉毀損行為の違法性を阻却するに足りる正当な行為とはいえない。要するに、当該報道機関は、クレジットのない、自社の独自取材記事と誤解され兼ねない記事を掲載することによって、営業上の便益を享受しつつ、自社の従来の実績に基づく読者の信頼を通じて名誉毀損の損害を拡大したともいえるのであって、このような立場にある者が、報道の自由の名の下に配信記事であることを理由とする免責を主張することは、被害者との関係において著しく公正を欠くものであるのみならず、国民一般の報道に対する信頼感をも傷付け兼ねない。」というものであった。

 つまり、この事案のようなクレジット表示のないケースで、「配信サービスの抗弁」を主張すること自体が、認められないというものである。

4.第二小法廷判決における裁判官北川弘治、同河合伸一の意見

 これに対し、裁判官北川弘治の意見(裁判官河合伸一も同調)は、「報道機関としては別個の独立した主体であっても、当該配信記事の取材、作成、配信、掲載という一連の過程においては、共同通信社と加盟社とは、実質的に報道主体としての同一性があ」り、「共同通信社に配信記事について相当の理由があり、名誉毀損行為について共同通信社の過失が否定される場合には、その配信記事を掲載した加盟社も、共同通信社の相当の理由を援用することにより、損害賠償責任を免れることができる」とした。

 その理由として、「このように解さないと、一方において、共同通信社には相当の理由があるため不法行為が成立しないとされるのに対し、他方において、自らは何らの裏付け取材をしていない加盟社は、記事の真実性を立証しない限り、損害賠償責任を免れないこととなり、均衡を失する」ことを掲げる。

 「実質的に報道主体としての同一性」がある場合に限る理由として、「このように考える根拠の一つは、自らすべての世界的、全国的ニュースを取材する能力を持たず、通信社からの配信記事に依存せざるを得ない報道機関の実情に対する配慮にあるから、このような主張をすることができる場合には、おのずから限界がある」ことを掲げる。

 さらに、前記実質的同一性があるというためには、「通信社と当該新聞社相互の関係、通信社から当該新聞社への記事配信の仕組み、記事の内容の実質的変更の可否等、配信記事に関する両者の内部関係が、実質的にみて、報道主体としての同一性があるということができる程度に密接なものであることが肯定される必要がある。」とともに、「その掲載記事が通信社から配信を受けた記事に基づくものであることが一般読者に認識できることが必要である」とした上、「掲載記事中に当該記事の配信元の表示(クレジット)が付されている場合には、記事自体から通信社と加盟社とが報道主体として実質的に同一性を有することの架橋がされているものとみることができる。しかし、クレジットが付されていない場合であっても、記事の内容自体や記事を掲載した加盟社の規模等から、掲載記事が通信社からの配信記事に基づくものであると推認できる可能性があるときは、両者が実質的に同一性を有することを肯定して差し支えない」とする。

5.第二小法廷判決における裁判官梶谷玄の反対意見

 さらに、裁判官梶谷玄の反対意見は、配信サービスの抗弁を認める。

 まず、この反対意見は、多数意見が採用する消極説に向けられる。すなわち、「消極説は、加盟社等は配信記事を掲載するかどうかを自由に判断することができ、自己の責任と危険負担において、その裏付け取材を省略して通信社からの配信記事を掲載することによって紙面を作成するシステムを利用して利益を上げているだけのことであるから、その記事が他人の名誉を毀損することによる損害賠償義務のリスクを負うのは当然であるというが、このような考えは、地方紙の報道の中で配信記事が現実に占めている大きな割合、報道の自由と国民の知る権利への貢献において通信社の配信システムが果たしている積極的な役割と効用を無視するものというべきである。」等とする。

 次に、この反対意見は、北川・河合裁判官の意見に対しても、「このような場合にしか加盟社等を免責しないという点で不徹底である」とした上、「通信社と加盟社は飽くまでも独立した別個の報道機関とみるべきであり、加盟社が他社の故意又は過失という責任要素を援用できるとすることには、賛同することができ」ず、「通信社に相当の理由が認められる場合に、通信社には賠償義務がないが、配信記事を掲載した加盟社等は賠償義務があるという結果は、極めて問題であるのであり、これまでの判例の枠組みによっては、この結論が避けられないのであれば、配信サービスの抗弁という新たな違法性阻却事由を認めることにより対処すべきである」とする。

6.共同配信記事名誉毀損事件最高裁判決との関係

 以上から理解しうるとおり、今回、最高裁第一小法廷が出した共同配信記事名誉毀損事件判決は、この第二小法廷判決における多数意見、反対意見のどちらでもなく、むしろ北川・河合裁判官の意見の影響を、色濃く受けているものということができる。

 共同配信記事名誉毀損事件判決は、実質的同一性という言葉に代えて、一体性という言葉を使用しているが、その判断基準については、「通信社と新聞社との関係,通信社から新聞社への記事配信の仕組み,新聞社による記事の内容の実質的変更の可否等の事情を総合考慮して判断する」としており、この点も、北川・河合裁判官の意見と、ほぼ同様である。 

 但し、共同配信記事名誉毀損事件最高裁判決は、「新聞社が掲載した記事に,これが通信社からの配信に基づく記事である旨の表示がない場合であっても異なるものではない。」としている点で、「クレジットが付されていない場合であっても、記事の内容自体や記事を掲載した加盟社の規模等から、掲載記事が通信社からの配信記事に基づくものであると推認できる可能性があるとき」に限って免責を認める前記北川・河合裁判官の意見と、異なっている。

 つまり、クレジットがない場合についても、全面的にクレジットがある分と区別しない点で、免責の範囲が広いのである。

 前記福田・亀山裁判官意見が説くように、当該報道記事がいかなる社の責任によって作成されたものであるかをきちんと認識できて初めて報道の機能が十分に発揮されることを重視すれば、クレジットの有無によって区別すべきことになる。

 これに対し、国民の「知る権利」に奉仕する報道機関の報道にとって通信社制度が重要であることを重視すれば、さほどクレジットの有無に重要性がないことになろう。

 共同配信記事名誉毀損事件最高裁判決は、後者の立場を選択したものと思われる。

7.おわりに

 今回の最高裁第一小法廷による共同配信記事名誉毀損事件最高裁判決は、「報道主体としての一体性」がある場合について、通信社に真実性についての「相当の理由」があれば、地方紙のそれと原則的に同視するというものであった。

 そして、それは第二小法廷判決における北川・河合裁判官の意見を原則的に採用しつつ、同判決で争われたクレジットの有無を問わないとする点で、さらに免責範囲を拡張するものでもあった。

 これに対し、「報道主体としての一体性」については、諸般の事情を総合考慮して判断するとする点で、なおも不明確な点を残した。さらに、一体性がない場合について、今回の判決では触れていないものというべきかどうか、「少なくとも」とすることによって、将来における拡張の余地を残している。

 いずれの日にか、最高裁は大法廷を開いて、各小法廷が示した基準を統一する日が来るのだろうか。

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