教科書の電子化(電子教科書)
電子教科書はいま、どのように進んでいるのだろうか。
IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会の委員をしていたころ、電子教科書について議事の席上で説明したことがある。
そのときの議事録を下記で読むことができる。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kongo/digital/dai2/2gijiroku.pdf
以下の分は、そのときの私の発言内容抜粋である。
私の提出資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kongo/digital/dai2/siryou3.pdf
とともに、ご覧頂きたい。
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内閣官房「IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会(第2回)議事録」抜粋
平成21年2月17日(火)開催
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○岡村委員 岡村でございます。最初のページに記載しておりますとおり、第1回の資料4に基づき、現在は平常時ではなくて、全治3年という非常時であるというお話を伺っておりましたけれども、昨日と、今日の新聞を拝見しますと、我が国のGDPが大変厳しい状態であるというニュースが報道されております。これは単なる非常時ではなく、さらなる非常時という状態ではなかろうかと思います。前回の会議で我が国のIT、ICTが十分に活用されていないという複数のご指摘がございました。そうしますと、従来のような取り組みに加えて、新たな取り組みへのイマジネーションをかき立てるための起爆剤になるような具体的な取り組みについても、用意する必要があるのではなかろうかと考えております。このような観点から、あまり体系立っておりませんけれども、レジュメを用意してまいりました。次のページをおめくりください。
最初に、教科書の電子化、電子教科書ということを書いております。これは、前回も申し上げましたとおり、教科書をデジタル化して、登場する言葉にリンクをつけた副教材を配付し、それを生徒がブラウザ上でクリックして、各科目間を飛び回ることを可能にしてはどうかということでございます。
ご存知のとおり、OECDが世界各国の15歳児を対象に、PISA学習到達度調査を2000年から3年に一度の割合で実施しております。前回調査が2006年ですので、今年は調査の年になっているわけでございますけれども、残念なことに我が国は全体的にランクを下げ続けている状況です。例えば数学を例にとりますと、2000年の調査では、実は11首位でございました。それが2003年の調査では6位、それから2006年の調査では10位へと低下が続いております。これに対してはいろいろな評価があると承っておりますが、昨年、多くの日本人学者がノーベル賞をお取りになったことを考えますと、教育という側面からこれで日本の将来が大丈夫なのかという危惧をする声があっても不思議はないところでございます。むしろ、これから長期にわたる人材育成ということの重要性を考えますと、教科書、あるいは教育全般について、もう少しIT化を考えるべきではなかろうかということで、具体例として電子教科書を挙げたわけでございます。
これによってどのような効果が考えられるのか、具体例で説明いたします。例えば我が国で関が原の合戦をしておりました時期、どういうことが世界で起こっていたのか、残念ながら、現在の日本史と世界史の切り分けの中では、必ずしも連携した学習をすることは簡単とはいえません。外国では同時期、例えば、イギリスではシェークスピアがハムレットを発表するような時代にあったわけでございます。同時期、イタリアのガリレオ・ガリレイが天文学を切り開いて、それが現代における宇宙物理学などへとつながっているということで、理科・科学にも連なっております。この会議が始まる前に、國領先生とお話をしていたのですが、インターネットに比較的早い時期からかかわってきた我々の世代は、そういういろいろなリンクをたどることで知識や知恵を、あるいはいろいろな見方を身につけてきたわけでございます。
我々の世代と異なりまして、現在の児童は携帯文化などによってさらにIT化が進んでいる状態でございます。そうすると、このような方法を講じることによって自立的な学習が促され、例えば教科書一つにしても、そのような教科の壁を解消できるような形にする必要があるのではなかろうかと考えております。そして、とかく日本人は創造性や自立性に乏しいと指摘されてきましたけれども、これによって創造的、自立的な視点を育成する一つの契機になるのではなかろうかと思った次第です。次のページもあわせてごらんいただきたく存じますけれども、実は国立公文書館サイトに行けば、所蔵資料がいっぱい掲載されております。また、国立国会図書館サイトでは、近代デジタルライブラリということで、いろいろな文学等々をデジタル化して掲載しておられる状況でございます。さらに国土地理院サイトへ行きますと、地図の閲覧サービスを利用することができます。
このように教育に有効活用できるはずのコンテンツが、どうも実際にはうまく組み合わさっているとはいえないという状態が、現状の姿であるように見受けられます。そうしますと、教科書をHTML化してリンクで結び、それに電子の世界へのハブのような役割を果たさせることによって、さらにはこれらのサイトに掲載されたコンテンツと組み合わせていくことで発展させる可能性も開けてくるのではなかろうかと思われます。
ともすれば消極的になりがちな、子どもたちの知的好奇心をかき立てるような仕組みづくりができないかということを申し上げたいわけでございます。そしてこういう電子化に即した教育のあり方について、こういうスタイルでやっていく方法があるということを、我が国から世界へむけて発信していくということも可能なのではなかろうかということでございます。
余談でございますが、教科書の場合は必ず買わなければならない存在でありますので、特に経営圧迫、民業圧迫ということを直ちにもたらすことにはならないだろうと考えます。かつて現在の文科省が100校プロジェクトを実施しておられた時期がございました。
今回も、それと同様の新規取り組みということで、先進的な地方自治体の公立学校にまず導入してみて、それから全国へと広げるというような方法もあるのではなかろうかと思うわけでございます。
3ページ目は先ほど少しごらんいただきましたけれども、それをビジュアルにしたものでございます。先ほど説明いたしましたサイト以外にも各府省庁サイトとか、各地方公共団体サイトにも教育に有効活用が可能なコンテンツはいっぱい存在しております。
また教科書などでは紙面の関係で小さくだけしか載せられない写真類のようなものも、例えば東京や京都の国立博物館サイト、美術館サイトなどにデジタル展示されているものは、現状でも数多くございますので、電子教科書のリンクをクリックすることによって、大きな、そして詳しい画像をたくさん閲覧できることになれば、さらに物の見方が豊かになるのではなかろうかということであります。
次のページをおめくりください。4ページ目でございます。書籍版の地方史をデジタル化してアップロードすることによって教育への活用できるのではないかということを述べさせていただいております。ほとんどの地方公共団体がこれまで地方史を書籍の形で編さんしてきておられます。
次のページもあわせてごらんいただきたいと思います。これは群馬県の藤岡市サイトでございまして、そこに書籍版の地方史としてどのようなものが出版されているかということの紹介がなされております。この地方公共団体は非常に立派なところでございまして、このページの中央のあたりにそれを大きくした画像がございます。書籍版で10冊ほどを、しかも昭和の終わりから平成の初めにかけて、継続的につくってこられております。
こういうものが現実にできているわけですけれども、それをデジタル化してアップロードしているところは、寡聞にして私が拝見したところではほとんど見当たらないという状況でございます。これは同時に、貴重な一種の公共の文化資産であると言えようかと思いますけれども、その多くが残念なことに地方でデッドストック状態になっているという形でございますし、また、平成の大合併の関係などもありまして、これから時代の経過とともに閲覧が困難になるということも危惧されます。
これをデジタル化してアップロードすることによって、多くの人の目に触れることができるようにすること自体も重要です。さらに先ほどの電子教科書とリンクすることができれば、地方の時代ということが唱えられる今、郷土愛の醸成ということにも役立つ可能性があります。これも電子教科書だけにとどまらず、各地方公共団体サイト同士をリンクさせるということ、あるいは先ほど申し上げた国土地理院のサイトの地図閲覧サービスにマッピングする方式、それからさらには国立国会図書館サイトとか、国立公文書館サイトにデジタルアーカイブする。あるいは電子政府の総合窓口などで、それの総合案内窓口サイトをつくるような方法もあり得るのではなかろうかと思います。
これも地方公共団体がつくっておられるものですので、書籍の売り上げ減少による民業圧迫というようなレベルの問題を心配する必要は少ないのではないでしょうか。また、一般に書籍をアップロードする場合には権利処理ということが必要になるわけでございますが、すべての権利処理が完了するまで出さないということよりも、例えば肖像権に引っかかるおそれのある部分があれば、顔の部分をぼかした形にする方法が考えられます。また、ご存じのとおり、国や地方公共団体などの著作物に関しましては、著作権がかなり制限されておりまして、第三者が転載するのも容易となっております。もともとそういう性格のものでございますので、この著作権処理は、公共団体のものに関しては民間のものと比べれば、比較的たやすいような部分がございます。
このような形を各公共団体の音頭とりを国が行うということで、いろいろやっていけるのではないかということで、5ページ目の右半分のような形でのさまざまな電子教科書群を中心にしたリンクという方法が考えられるだろうと思うわけでございます。そういう意味では、国あるいは地方公共団体のサイト群が、ある意味、一種のクラウドのようになって、電子教科書のクラウド群と結びつくような形になればと思うわけでございます。
それからあと一つ、実務教育の課題として、6ページ目に中小企業向けのシステム管理者認定制度ということを書いておきました。時間の関係で簡単にだけ申し上げますけれども、高度なIT教育というのももちろん必要でございます。ただ、同時に中小企業などは、むしろネットワーク管理をしてくれる、それから自社の情報を迅速にかつ十分に他の会社に向けて、あるいは世界に向けてアップロードをしてくれるような現場レベルの管理ができる人を非常にほしがっておりますので、業務改善の一歩を進めるために、こういうものについてもひとつ資格制度と結びつける形で、職業教育あるいはそれを介した雇用対策としての役割にもなり得るということも、お考えいただくことはできるのではなかろうかと思う次第でございます。
他にも7ページ目に書いておりますけれども、時間の関係で割愛させていただきたいと思います。
以上でございます。
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