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2011年12月

2011年12月27日 (火)

速報-折り図事件控訴審判決(知財高判平成23年12月26日平23(ネ)10038号)全文

折り紙の折り図に関する創作性が主要争点となった事件である。

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知財高判平成23年12月26日平23(ネ)10038号

平成23年12月26日判決言渡
平成23年(ネ)第10038号 損害賠償等請求控訴事件(原審 東京地方裁判所 平成22年(ワ)第18968号)
口頭弁論終結日 平成23年11月28日

                判 決

控訴人(第1審原告) X
訴訟代理人弁護士 谷 口 隆 良
同 青 木 亜 也
同 眞 木 康 州
同 細 貝 惟 大
同 谷 口 優 子
同 高 橋 暁 子
被控訴人(第1審被告) 株式会社T B S テレビ
訴訟代理人弁護士 岡 崎 洋
同 大 橋 正 春
同 前 田 俊 房
同 渡 邊 賢 作
同 村 尾 治 亮
同 新 間 祐 一 郎
同 木 嶋 望

主 文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人(第1審原告)の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴人の請求

1 原判決を取り消す。
2 (主位的請求)
(1) 被控訴人(第1審被告。以下「被告」という。)は,控訴人(第1審原告。以下「原告」という。)に対し,285万円及び内金260万円に対する平成21年6月28日から,内金25万円に対する平成22年6月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,被告の運営するホームページ()上に別紙謝罪文目録1記載の謝罪文を判決確定日の翌日から1か月間掲載せよ。
3 (予備的請求)
(1) 被告は,原告に対し,285万円及び内金260万円に対する平成21年6月28日から,内金25万円に対する平成22年6月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,被告の運営するホームページ(URL省略)上に別紙謝罪文目録2記載の謝罪文を判決確定日の翌日から1か月間掲載せよ。

第2 事案の概要,当事者の主張等

1 事案の概要
略語については,原判決と同一のものを用いる。また,別紙1(本件折り図),別紙2(被告折り図)及び別紙3(対比表)については,原判決のものを引用する。折り紙作家である原告は被告に対し,被告の制作に係るテレビドラマ「ぼくの妹」の番組ホームページ(「URL省略」。本件ホームページ)に被告折り図(原判決の別紙2記載の「吹きゴマ」の折り図。説明文を含む。)を掲載した被告の行為について,主位的に,被告折り図は,「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ -アクションおりがみ-」と題する原告書籍に掲載された本件折り図(原判決の別紙1記載の「へんしんふきごま」の折り図。説明文を含む。)を複製又は翻案したものであり,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告の著作物である本件折り図について原告の有する著作権(複製権ないし翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)の侵害に当たる旨主張し,著作権侵害及び著作権人格権侵害の不法行為による損害賠償として285万円及び遅延損害金の支払と著作権法115条に基づき被告の運営するホームページに別紙謝罪文目録1記載の謝罪文の掲載を求め,予備的に,仮に被告の上記行為が著作権侵害及び著作権人格権侵害に当たらないとしても,原告の有する法的保護に値する利益の侵害に当たる旨主張し,上記利益の侵害の不法行為による同額の損害賠償及び遅延損害金の支払と民法723条に基づき上記ホームページに別紙謝罪文目録2記載の謝罪文の掲載を求めた。
原判決は,本件折り図の著作物性を認めたが,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴部分を直接感得することができないとして,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告の複製権ないし翻案権及び公衆送信権のいずれの侵害にも当たらない,同一性保持権及び氏名表示権のいずれの侵害にも当たらないと判断し,原告の主位的請求は理由がないとした。また,被告の一連の行為が原告の法的保護に値する利益を侵害する違法なものとして不法行為を構成するとは認められないとして,原告の予備的請求も理由がないとした。
原告は,これを不服として,控訴の趣旨記載の判決を求めた。
2 原審における当事者の主張等
争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,原判決3頁7行目から21頁6行目のとおりであるから,これを引用する。
3 当審における当事者の補足的主張
(1) 争点1(著作権侵害の有無)について
ア 原告の主張
(ア) 「へんしんふきごま」の「折り方」は,事実ないしアイデアではなく,著作権の保護の対象となる「表現したもの」である。
すなわち,本件折り図に示される一折り一折りの形状は,一枚の折り紙をどのように形作っていくかという折り工程を表現したものであり,創作折り紙作家である原告が,その思想・感情を具体的に表現したものであって,事実ないしアイデアではない。仮に,創作折り紙作品の「折り方」がアイデアであって,本件折り図の一折り一折りの形状自体は表現に当たらないとしても,「へんしんふきごま」あるいは「吹きゴマ」の「折り方」を表現するに当たっては,選択の幅がある。本件折り図と被告折り図とは,些末な点を除いて殆ど同じであり,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができる。
(イ) また,「へんしんふきごま」の「折り方」についての表現方法も,本質的部分である。
すなわち,32の折り工程を,「10個の図面(説明図)を用いた構成とすること」自体はアイデアの範疇に属するとしても,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表すか,どこからどこまでの折り工程を一つの手順にまとめるか,何個の説明図を用いて説明するかなどは,アイデアではなく,表現そのものであり,選択の幅がある。本件折り図と被告折り図を比較すると,各折り工程を1ないし10の手順にまとめて表現している点を含めて,折り図全体を見れば,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を感得することができる。
(ウ) したがって,被告のした被告折り図の作成行為は,本件折り図の複製行為ないし翻案行為というべきである。
イ 被告の反論
(ア) 原告は,「へんしんふきごま」の「折り方」は,事実ないしアイデアではなく,「表現したもの」であると主張する。
しかし,原告の主張は「折り方」と「折り図」を混同するもので,失当である。
(イ) 原告は,「へんしんふきごま」の「折り方」についての表現方法も,表現の本質的部分であると主張する。
しかし,原告のこの点の主張も失当である。
被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
また,原告は,「へんしんふきごま」の折り工程の表記方法は選択の幅があると主張する。しかし,一つの説明図にいくつの折り工程(手順)を載せるかという構成や観念はアイデアであり,創作的な表現とはいえない。決まった一連の手順がある折り紙の折り方について,A4の大きさで,わかりやすい折り図を作成しようとすれば,一つ一つの説明図で説明できる折り工程(手順)の数には一定の限度があり,その表現方法はおのずと限定される。本件折り図と被告折り図は,アイデアやありふれた表現に過ぎない部分が類似しているとしても,創作的な表現といえる箇所についての類似点はない。
(2) 争点2(著作者人格権侵害の有無)について
ア 原告の主張
上記(1)ア のとおり,「へんしんふきごま」の「折り方」は,アイデアではなく,表現の本質的部分であり,「へんしんふきごま」の「折り方」をどのように表現するかも,表現の本質的部分である。折り図全体を見れば,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を感得することができる。
したがって,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告が保有する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権を侵害する。
イ 被告の反論
上記(1)イ と同様,原告の主張は失当である。
(3) 争点5(法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等)について(予備的請求関係)
ア 原告の主張
(ア) 「へんしんふきごま」という折り紙作品は,原告が独自に創作した著作物であり,原告の許諾なくこれをテレビで放映することは,公衆送信権の侵害に当たり,不法行為が成立する。
(イ) 被告が,原告の本件折り図を無断で改変し,原告から許諾を得ることなく自身のホームページに掲載し,原告がこれに気付いて被告に平成21年7月2日に抗議したにもかかわらず,相当期間経過後である同月7日まで放置した。被告の同行為は,不法行為を構成する。
インターネット投稿サイトに,原告書籍(「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ -アクションおりがみ-」と題する書籍)の出版社のホームページを紹介する回答が寄せられたり,被告が,原告の抗議により,事後的に,「へんしんふきごま」の「正しい折り方」として,原告について紹介し,原告のホームページへのリンクを貼ったりしたとしても,原告の法的保護に値する利益の侵害がなくなったとはいえない。
イ 被告の反論
(ア) 原告は,「へんしんふきごま」という折り紙作品は,原告が独自に創作した著作物であり,原告の許諾なくこれをテレビで放映することは,公衆送信権の侵害に当たり,不法行為が成立する旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
原告は,平成21年9月5日のメールで,「へんしんふきごま」を放送番組で利用するのには許可は不要であることを認めており(甲6の1),原告が,公開された折り図によって作成される「へんしんふきごま」完成作品が利用されることについて包括的に同意していたといえるから,被告による上記利用によって原告の権利又は法律上保護される利益は侵害されていない。被告が折り紙作品をテレビで放映することが不法行為に該当するとする原告の主張は,失当である。
なお,折り図の書籍に折り図が掲載されている折り紙の完成品は,折り図に従って多数の読者が折った場合,同じ完成作品が大量に出来上がるのであり,専ら鑑賞目的で創作される美的創作物である純粋美術と対比される応用美術の一種であるから,許諾の対象とならない。
(イ) また,原告は,被告が,本件折り図を無断で改変し,原告から許諾を得ることなく自身のホームページに掲載し,原告がこれに気付いて被告に平成21年7月2日に抗議したにもかかわらず,相当期間経過後である同月7日まで放置した不法行為を行った旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
原告の主張は,被告に著作権ないし著作者人格権侵害があったことを前提とするが,前提自体誤っており,理由はない。また,原告は不法行為の成立について縷々主張するが,いずれも原告の法的利益が侵害されたことを基礎づける理由となっていない。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は,原告の請求にはいずれも理由がないと判断する。その理由は,後記2のとおり,当審における当事者の補足的主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の1から3まで(原判決21頁7行目から34頁18行目)のとおりであるから,これを引用する(なお,以下では,原審の判示と重複して記載した部分がある。)。

2 当審における当事者の補足的主張に対する判断

(1) 争点1(著作権侵害の有無)について
ア 被告折り図と本件折り図とを対比すると,①32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,②各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,③各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通する。
しかし,他方で,本件折り図は,折り筋を付ける手順を示す矢印,折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線),付けられた折り筋を示す実線,折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし,これらの折り工程のうち矢印,点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,折り工程の順番を丸付き数字(①ないし)で示した上で,折り工程の大部分(①ないし,ないし,ないし)について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点において相違する。
このような相違点に加えて,本件折り図では,写真を用いた説明箇所があるのに対し,被告折り図では,写真を用いていない点,本件折り図では,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し,被告折り図では,色分けをしていない点,本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる点などにおいて相違する。
以上のとおり,被告折り図と本件折り図とは,上記のとおりの相違点が存在し,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があることから,被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。
以上のとおり,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しない。
イ また,原告は,本件折り図の「32の折り工程のうち,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表現するか,何個の説明図を用いて説明するか」は,アイデアではなく,表現であるとして,被告折り図と本件折り図とは,上記の点において共通するので,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害すると主張する。
しかし,原告の主張は,主張自体失当である。
すなわち,著作権法により,保護の対象とされるのは,「思想又は感情」を創作的に表現したものであって,思想や感情そのものではない(著作権法2条1項1号参照)。原告の主張に係る「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」それ自体は,著作権法による保護の対象とされるものではない。
上記アのとおり,被告折り図と本件折り図とを対比すると,①32の折り工程からなる折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)による説明手法,②いくつかの工程をまとめた説明手法及び内容,③各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示しているという説明手法等において共通する。しかし,これらは,読者に対し,わかりやすく説明するための手法上の共通点であって,具体的表現における共通点ではない。そして,具体的表現態様について対比すると,本件折り図と被告折り図とは,上記アのとおり,数多くの相違点が存在する。被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。したがって,被告が,被告折り図を作成することによって本件折り図を複製ないし翻案した旨の原告の主張は採用できない。

(2) 争点2(著作者人格権侵害の有無)について
原告は,「へんしんふきごま」の「折り方」は,アイデアではなく,表現の本質的部分であり,「へんしんふきごま」の「折り方」をどのように表現するかも,表現の本質的部分であるとして,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告が保有する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権を侵害すると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
上記(1) と同様の理由により,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できない以上,原告の主張は前提を欠き,失当である。

(3) 争点5(法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等)について(予備的請求関係)
原告は,原告が独自に創作した著作物である「へんしんふきごま」という折り紙作品を,原告の許諾なくこれをテレビで放映することは,公衆送信権の侵害に当たり,不法行為が成立する,被告が,原告の本件折り図を無断で改変し,原告から許諾を得ることなく自身のホームページに掲載し,原告がこれに気付いて被告に平成21年7月2日に抗議したにもかかわらず,相当期間経過後である同月7日まで放置した行為は,不法行為を構成する旨主張する。
しかし,原告の主張はいずれも失当である。
証拠(甲4,甲6の1)によれば,原告は,平成21年9月5日の被告PRセンター担当者宛てメールで,作品を番組の中に登場させるのに許可は必要だとは思っていない旨回答しており,同年10月20日の被告宛て「通知書」でも,「へんしんふきごま」という折り紙作品が番組で放映されたことについての抗議はしていない。そうすると,原告は,「へんしんふきごま」という折り紙作品がテレビ番組において放映されることについては,事後的に許諾を与えたと認められるか,又は,少なくとも社会通念に照らして容認したものと認められるから,被告による上記放映によって原告の公衆送信権が侵害されたとはいえない。
また,被告が,原告から許諾を得ることなく,被告折り図を被告のホームページに掲載し,原告が平成21年7月2日に抗議したにもかかわらず,同月7日まで放置する行為をしたとしても,被告折り図が原告の著作権ないし著作者人格権を侵害しないものである以上,被告の上記行為が不法行為を構成するとはいえない。また,前記の事実経過に照らし,被告の行為によって,原告の法律上保護される利益は侵害されていない。

3 小括
以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,いずれも上記認定判断を左右しない。

第4 結論

原告の請求はいずれも棄却すべきものであり,これと同旨の原判決は正当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
池 下 朗
裁判官
武 宮 英 子

(別紙) 謝罪文目録1

謝 罪 文

当社は,平成21年6月28日から10日間にわたり当社制作にかかる番組,日曜劇場「ぼくの妹」の中で登場した「吹きゴマ」の折り方を示した折り図を同番組のホームページ上に掲載しました。
これは,日本折紙協会・折紙学会会員の創作折紙作家であるX氏の著作「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ -アクションおりがみ-」(誠文堂新光社)34頁~35頁に依拠して,当社が同人に無断で改変した上,同人に無断で掲載したものです。
上記の当社の行為はX氏の著作者人格権を侵害するものでありました。
このことについてX氏に対して深く陳謝するとともに,当社が無断改変した不正確な「吹きゴマ」の折り方をご覧になった視聴者の方々におかれましては上記のX氏の著書ないし同人作成にかかるホームページ(URL省略)をご覧頂きますようご案内申し上げます。

(別紙) 謝罪文目録2

謝 罪 文

当社は,平成21年6月28日から10日間にわたり当社制作にかかる番組,日曜劇場「ぼくの妹」の中で登場した「吹きゴマ」の折り方を示した折り図を同番組のホームページ上に掲載しました。
これは,日本折紙協会・折紙学会会員の創作折紙作家であるX氏の著作「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ -アクションおりがみ-」(誠文堂新光社)34頁~35頁に掲載されている折り図を,当社が同人に無断で改変した上,同人に無断で掲載したものです。
当社の掲載した折り図は「吹きゴマ」の完成に至らない不正確なものであり,視聴者の方々にX氏がこのような折り図を作製したかのような誤解を与え,X氏の名誉・信用を傷つけるものでありました。
このことについてX氏に対して深く陳謝するとともに,当社が無断改変した不正確な「吹きゴマ」の折り方をご覧になった視聴者の方々におかれましては上記のX氏の著書ないし同人作成にかかるホームページ(URL省略)をご覧頂きますようご案内申し上げます。

出典
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111227153902.pdf

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2011年12月24日 (土)

いわゆる自炊代行事業差止請求訴訟について

報道等によれば、浅田次郎氏など大物作家7名が、「スキャン事業者」2社に対し、行為差止めを求める訴えを、平成23年12月20日、東京地方裁判所に提起した。いわゆる「自炊代行事業」を差し止めようというものである。

筆者は、原告、被告のいずれの側からも、現時点において本件に関与していないので、第三者という視点から、簡単に解説をしておきたい。以下は報道等に基づいた整理にすぎないことを、お断りしておく。

ここに「自炊」とは、PCやスマホなどの電子機器で閲覧するため、市販書籍をスキャナで読み込んで電子データ化するという行為を指している。書籍のデータを自ら吸い込み、吸い出すことが、その語源だという指摘もある。

「自炊代行」とは、ユーザーの依頼に応じ、この「自炊」を専門業者が行うことをいう。この専門業者のことを、今回の原告側は「スキャン事業者」と呼んでいる。一般には「自炊代行業者」と呼ばれることも多い。スキャンする前提となる書籍の裁断も行ってくれるという。

原告ら側の下記プレスリリース「書籍スキャン事業者への提訴のご報告」によると、「第三者から委託を受けて別紙作品目録記載の作品が印刷された書籍を電子的方法により複製してはならない。」というものである。

同プレスリリースは、「スキャン事業者(自炊代行業者)」を提訴した理由(請求原因)の骨子について、次のとおりとしている。

  • 「被告各社は、不特定多数の利用者から注文を受け、不特定多数の書籍をスキャンして電子ファイルを作成し、利用者に納品する事業を行っているものです。このような行為をその書籍の著作権者の許諾なく行うことは、著作権法21条の複製権侵害です。
    本年9月、原告らは、スキャン事業者に宛て、自己の作品の書籍をスキャンして電子ファイルを作成することを許諾しない旨を明確に伝えるとともに質問書を送りましたが、被告各社は、「今後も引き続き、原告らの作品について注文があった場合は、スキャン及び電子ファイル化を行う」旨を回答しております。
    従って、被告各社は、今後も、原告らの著作権を侵害するおそれがあるので、著作権法112条1項に基づいて、その差止めの請求をしたものです。」

原告らは、今回の提訴は、あくまでも「スキャン事業者(自炊代行業者)」の行為を違法とするものであって、個人の「自炊」を違法とするものではないとしている。同プレスリリースは、「ユーザー自身が個人的な目的で書籍をスキャンする、いわゆる「自炊」は、著作権法上の「私的複製」として認められていますが(著作権法30条1項))、業者が(まして大規模に)ユーザーの発注を募ってスキャンをおこなう事業は私的複製には到底該当せず、複製権の侵害となります。」と指摘しているからである。

実際のところ、音楽CDをiTuneに取り込むような行為は、我が国の場合、こうした同項への該当性という法律構成によって成り立ってきた。

結局、この問題の主たる論点は、個人ユーザー自身による「自炊」は当該個人ユーザーによる複製であるとしても、「自炊代行」における複製行為の主体は誰なのかという点である。

実際に電子データ化という物理的行為を行っているのは「スキャン事業者(自炊代行業者)」であるという点からすれば、「スキャン事業者(自炊代行業者)」には「私的複製」は成り立たないから、違法であるという考え方となろう。これが原告ら側の主張であるように思われる。

これに対し、あくまでも「自炊行為」の主体はユーザーであって、「スキャン事業者(自炊代行業者)」は、ユーザーの手足として実施しているだけであるとすれば、適法なユーザーの行為を手伝っているだけなので、「スキャン事業者(自炊代行業者)」も適法であるという考え方となろう。おそらく、これが被告ら側の主張となろう。

このように、誰が複製行為の主体なのかという点こそが、本件では問われることになろう。

この点についてはロクラクII最高裁判決が打ち出したロクラク法理が有名である。だが、同法理では物理行為を行っていなくとも、法解釈という観点から事業者を行為者と同視できるとして侵害が認められたのに対し、今回の場合は、事業者が物理的行為を行っている者であるという点で、違いがある。

さらに、後者の考え方を前提にしても、ユーザーの行為が著作権法30条1項2号にいう自動複製機器を用いた複製に該当し、「例外の例外」として違法とされる可能性も残る。

いずれにしても、訴訟は今、始まったばかりである。原告ら側の言い分は報道等から知ることができるが、被告ら側の言い分は明らかになっていない。いずれ折を見て続報していきたい。

2011年12月25日27日追記

実質論として考えると、「自炊」によって電子データ化されたものが不正流通するおそれを指摘する声も、一部にはあるようだ。しかし、もしも頭から憶測でユーザーや業者を泥棒扱いするという趣旨であれば、いかがなものだろうか。そうした乱暴な意見には賛成しがたい。今後における訴訟の審理の中で、それが憶測に過ぎないものなのか、それとも証拠によって裏付けられるものなのか、明らかされていく可能性がある。この点については、先入観を持つことなく、行方を見守りたい。

次に、法的な意味はともかくとしても、作家・浅田次郎氏は、裁断された本を正視に堪えないという、「自炊」に対する気持ちを示している(後記「スキャン代行業者提訴で作家7名はかく語りき」参照)。

筆者も物書きの末席を汚す者として、お気持ちは分かる。だが、少し前の統計資料では、紙の書籍の返本率は4割を超えている(後記Garbagenews.com記事参照)。悲しいかな、これが現実である。

その一方、一般のユーザー側の中には、新たなテクノロジーの進展を受け入れられないのかと言いたい人もいるだろう。もとより、スキャナが新たなテクノロジーというわけではない。スマホやタブレット型PCによって、いつでも、どこでも、モバイルで閲覧できることを指している。

しかし、権利者側からすれば、だからこそ大量コピーに連なるので困ると主張したいはずである。家庭にも普及しているプリンタ複合機にはスキャナ機能が付いているので、それを用いれば「自炊」することができる。ところが、書籍の裁断を含め、今もって「敷居」が高いからこそ、「自炊代行」なるものが流行するということになろう。

これに対し、スキャンすること自体は難しいことではなく、裁断が素人には容易でないというのが実情であり、それなら裁断だけを代行する業者が出現すれば、複製とは言えないはずであるから、今回の提訴は実質的に意味が薄いと指摘する人もいるようだ。

さらに、いったん原告らは書籍の出版で印税を得ているのだから、なぜ今さら重ねて権利主張をするのかという意見もある。中古ゲームソフト事件最高裁判決は、映画著作物の頒布について、明文なき消尽を認めた。

これに対しては、譲渡に関しては消尽が解釈で認められる余地があっても、本件は譲渡ではなく複製ではないかという反論も予想される。それなら、私的使用の枠を超えて譲渡、もしくは公衆送信された際に初めて取り締まればいいはずだという再反論も考えられないではない。

最後に、便利なはずの電子出版が、いっこうに日本では本格的に普及しないこともあり、ユーザーが「自炊」に頼りたいという気持ちがあることにも頷ける面がある。そう言うと、それと本件とは別だという声が出ることも、容易に予想される。

これらは音楽配信について、かつて見た風景と一部で似ている面もあるが、異なる面も多い。このようにして、問題の背景事情は今後も複雑化する一方なのかもしれない。ただそれと、法解釈とは、必ずしも連動しないということも指摘しておかなければならない。その善し悪しは別として。

2012年5月31日追記

自炊業者全員が訴えを認諾して、本件は終了したようだ。

30条1項は「当該使用者は……複製することができる」という文言なので、使用者本人が複製することが要件となる。業者への依頼による場合を認めると大量複製に連なるおそれがあることが制度趣旨とされている。したがって、もともと本件のように「業者への依頼による場合」には適用されない。

これは私の著書「著作権法」227頁にも明記している事柄であり、確立した通説である。

ただ、それだけのことであり、わざわざ訴訟で争うほどの案件であったか、きわめて疑わしい。騒いでいたのは、著作権法をよく知らない人だけだったのではないか。

参考

原告ら側のプレスリリース「書籍スキャン事業者への提訴のご報告」
   

「スキャン代行業者提訴で作家7名はかく語りき」
   http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1112/21/news044.html

玉井克哉「自炊代行提訴についての雑感」
   http://agora-web.jp/archives/1416605.html

福井健策弁護士ロングインタビュー:「スキャン代行」はなぜいけない?
   http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1112/23/news009.html

関口 州「私が否応なく自炊を選択した経緯と新たな発見」
   

小霜和也「自炊代行の真の問題点とは」
   http://agora-web.jp/archives/1416882.html

その他BLOGOS「自炊代行」特集
   http://blogos.com/news/printscan/?g=life

小倉秀夫 「原則自由」な社会における自炊代行論争
   http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2011/12/post-f028.html

Garbagenews.com「新刊書籍・雑誌出版点数や返本率推移をグラフ化してみる」
   http://www.garbagenews.net/archives/1565633.html

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2011年12月21日 (水)

Winny事件最高裁判例(最決平成23年12月19日)全文

平成21(あ)1900 著作権法違反幇助被告事件

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

検察官の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み,被告人によるファイル共有ソフトの公開,提供行為につき著作権法違反罪の幇助犯が成立するかどうかを職権で判断すると,原判決には,幇助犯の成立要件に関する法令の解釈を誤った違法があるものの,被告人の行為につき著作権法違反罪の幇助犯の成立を否定したことは,結論において正当として是認できる。
その理由は,以下のとおりである。

1 本件は,被告人が,ファイル共有ソフトであるWinnyを開発し,その改良を繰り返しながら順次ウェブサイト上で公開し,インターネットを通じて不特定多数の者に提供していたところ,正犯者2名が,これを利用して著作物であるゲームソフト等の情報をインターネット利用者に対し自動公衆送信し得る状態にして,著作権者の有する著作物の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害する著作権法違反の犯行を行ったことから,正犯者らの各犯行に先立つ被告人によるWinnyの最新版の公開,提供行為が正犯者らの著作権法違反罪の幇助犯に当たるとして起訴された事案である。原判決の認定及び記録によれば,以下の事実を認めることができる。

(1) Winnyは,個々のコンピュータが,中央サーバを介さず,対等な立場にあって全体としてネットワークを構成するP2P技術を応用した送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフトである。Winnyは,情報発信主体の匿名性を確保する機能(匿名性機能)とともに,クラスタ化機能,多重ダウンロード機能,自動ダウンロード機能といったファイルの検索や送受信を効率的に行うための機能を備えており,それ自体は多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能とし,様々な分野に応用可能なソフトであるが,本件正犯者がしたように著作権を侵害する態様で利用することも可能なソフトである。

(2) 被告人は,匿名性と効率性を兼ね備えた新しいファイル共有ソフトが実際に稼動するかの技術的な検証を目的として,平成14年4月1日にWinnyの開発に着手し,同年5月6日,自己の開設したウェブサイトでWinnyの最初の試用版を公開した。被告人は,その後も改良を加えたWinnyを順次公開し,同年12月30日にWinnyの正式版であるWinny1.00を公開し,翌平成15年4月5日にWinny1.14を公開してファイル共有ソフトとしてのWinny(Winny1)の開発に一区切りを付けた。その後,被告人は,同月9日,今度はP2P技術を利用した大規模BBS(電子掲示板)の実現を目的として,そのためのソフトであるWinny2の開発に着手し,同年5月5日,Winny2の最初の試用版を公開し,同年9月には,本件正犯者2名が利用したWinny2.0β6.47やWinny2.0β6.6(以下,両者を併せて「本件Winny」という。)を順次公開した。なお,Winny2は,上記のとおり大規模BBSの実現を目指して開発されたものであるが,Winny1とほぼ同様のファイル共有ソフトとしての機能も有していた(以下,Winny1とWinny2を総称して「Winny」という。)。被告人は,Winnyを公開するに当たり,ウェブサイト上に「これらのソフトにより違法なファイルをやり取りしないようお願いします。」などの注意書きを付記していた。

(3) 本件正犯者であるBは,平成15年9月3日頃,被告人が公開していたWinny2.0β6.47をダウンロードして入手し,法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,同月11日から翌12日までの間,B方において,プログラムの著作物である25本のゲームソフトの各情報が記録されているハードディスクと接続したコンピュータを用いて,インターネットに接続された状態の下,上記各情報が特定のフォルダに存在しアップロードが可能な状態にある上記Winnyを起動させ,同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし,著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する著作権法違反の犯行を行った。また,本件正犯者であるCは,同月13日頃,被告人が公開していたWinny2.0β6.6をダウンロードして入手し,法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,同月24日から翌25日までの間,C方において,映画の著作物2本の各情報が記録されているハードディスクと接続したコンピュータを用いて,インターネットに接続された状態の下,上記各情報が特定のフォルダに存在しアップロードが可能な状態にある上記Winnyを起動させ,同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし,著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する著作権法違反の犯行を行った。

2 第1審判決は,Winnyの技術それ自体は価値中立的であり,価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような,無限定な幇助犯の成立範囲の拡大は妥当でないとしつつ,結局,そのような技術を外部へ提供する行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは,その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識,さらに提供する際の主観的態様いかんによると解するべきであるとした。その上で,本件では,インターネット上においてWinny等のファイル共有ソフトを利用してやりとりがなされるファイルのうちかなりの部分が著作権の対象となるもので,Winnyを含むファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されており,Winnyが社会においても著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ,効率もよく便利な機能が備わっていたこともあって広く利用されていたという現実の利用状況の下,被告人は,そのようなファイル共有ソフト,とりわけWinnyの現実の利用状況等を認識し,新しいビジネスモデルが生まれることも期待して,Winnyがそのような態様で利用されることを認容しながら,本件Winnyを自己の開設したホームページ上に公開して,不特定多数の者が入手できるようにし,これによって各正犯者が各実行行為に及んだことが認められるから,被告人の行為は,幇助犯を構成すると評価することができるとして,著作権法違反罪の幇助犯の成立を認め,被告人を罰金150万円に処した。

3 この第1審判決に対し,検察官が量刑不当を理由に,被告人が訴訟手続の法令違反,事実誤認,法令適用の誤りを理由に控訴した。原判決は,幇助犯の成否に関する法令適用の誤りの主張に関し,インターネット上におけるソフトの提供行為で成立する幇助犯というものは,これまでにない新しい類型の幇助犯であり,刑事罰を科するには罪刑法定主義の見地からも慎重な検討を要するとした上,「価値中立のソフトをインターネット上で提供することが,正犯の実行行為を容易ならしめたといえるためには,ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し,認容しているだけでは足りず,それ以上に,ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合に幇助犯が成立すると解すべきである。」とし,被告人は,本件Winnyをインターネット上で公開,提供した
際,著作権侵害をする者が出る可能性・蓋然性があることを認識し,認容していたことは認められるが,それ以上に,著作権侵害の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めて本件Winnyを提供していたとは認められないから,被告人に幇助犯の成立を認めることはできないと判示し,第1審判決を破棄し,被告人に無罪を言い渡した。

4 所論は,刑法62条1項が規定する幇助犯の成立要件は,「幇助行為」,「幇助意思」及び「因果性」であるから,幇助犯の成立要件として「違法使用を勧める行為」まで必要とした原判決は,刑法62条の解釈を誤るものであるなどと主張する。そこで,原判決の認定及び記録を踏まえ,検討することとする。
(1) 刑法62条1項の従犯とは,他人の犯罪に加功する意思をもって,有形,無形の方法によりこれを幇助し,他人の犯罪を容易ならしむるものである(最高裁昭和24年(れ)第1506号同年10月1日第二小法廷判決・刑集3巻10号1629頁参照)。すなわち,幇助犯は,他人の犯罪を容易ならしめる行為を,それと認識,認容しつつ行い,実際に正犯行為が行われることによって成立する。原判決は,インターネット上における不特定多数者に対する価値中立ソフトの提供という本件行為の特殊性に着目し,「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合」に限って幇助犯が成立すると解するが,当該ソフトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わず,提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な根拠があるとは認め難く,刑法62条の解釈を誤ったものであるといわざるを得ない。

(2) もっとも,Winnyは,1,2審判決が価値中立ソフトと称するように,適法な用途にも,著作権侵害という違法な用途にも利用できるソフトであり,これを著作権侵害に利用するか,その他の用途に利用するかは,あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。また,被告人がしたように,開発途上のソフトをインターネット上で不特定多数の者に対して無償で公開,提供し,利用者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めるという方法は,ソフトの開発方法として特異なものではなく,合理的なものと受け止められている。新たに開発されるソフトには社会的に幅広い評価があり得る一方で,その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば,かかるソフトの開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも,単に他人の著作権侵害に利用される一般的可能性があり,それを提供者において認識,認容しつつ当該ソフトの公開,提供をし,それを用いて著作権侵害が行われたというだけで,直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない。
かかるソフトの提供行為について,幇助犯が成立するためには,一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのことを提供者においても認識,認容していることを要するというべきである。すなわち,ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。

(3) これを本件についてみるに,まず,被告人が,現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,本件Winnyの公開,提供を行ったものでないことは明らかである。
次に,入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が本件Winnyを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められ,被告人もこれを認識,認容しながら本件Winnyの公開,提供を行ったといえるかどうかについて検討すると,Winnyは,それ自体,多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能とするソフトであるとともに,本件正犯者のように著作権を侵害する態様で利用する場合にも,摘発されにくく,非常に使いやすいソフトである。そして,本件当時の客観的利用状況をみると,原判決が指摘するとおり,ファイル共有ソフトによる著作権侵害の状況については,時期や統計の取り方によって相当の幅があり,本件当時のWinnyの客観的利用状況を正確に示す証拠はないが,原判決が引用する関係証拠によっても,Winnyのネットワーク上を流通するファイルの4割程度が著作物で,かつ,著作権者の許諾が得られていないと推測されるものであったというのである。そして,被告人の本件Winnyの提供方法をみると,違法なファイルのやり取りをしないようにとの注意書きを付記するなどの措置を採りつつ,ダウンロードをすることができる者について何ら限定をかけることなく,無償で,継続的に,本件Winnyをウェブサイト上で公開するという方法によっている。これらの事情からすると,被告人による本件Winnyの公開,提供行為は,客観的に見て,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開,提供行為であったことは否定できない。
他方,この点に関する被告人の主観面をみると,被告人は,本件Winnyを公開,提供するに際し,本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや,そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの,いまだ,被告人において,Winnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており,本件Winnyを公開,提供した場合に,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めるに足りる証拠はない。
確かに,①被告人がWinnyの開発宣言をしたスレッド(以下「開発スレッド」という。)には, Winnyを著作権侵害のために利用する蓋然性が高いといえる者が多数の書き込みをしており,被告人も,そのような者に伝わることを認識しながらWinnyの開発宣言をし,開発状況等に関する書き込みをしていたこと,②本件当時,Winnyに関しては,逮捕されるような刑事事件となるかどうかの観点からは摘発されにくく安全である旨の情報がインターネットや雑誌等において多数流されており,被告人自身も,これらの雑誌を購読していたこと,③被告人自身がWinnyのネットワーク上を流通している著作物と推定されるファイルを大量にダウンロードしていたことの各事実が認められる。これらの点からすれば,被告人は,本件当時,本件Winnyを公開,提供した場合に,その提供を受けた者の中には本件Winnyを著作権侵害のために利用する者がいることを認識していたことは明らかであり,そのような者の人数が増えてきたことも認識していたと認められる。
しかし,①の点については,被告人が開発スレッドにした開発宣言等の書き込みには,自己顕示的な側面も見て取れる上,同スレッドには,Winnyを著作権侵害のために利用する蓋然性が高いといえる者の書き込みばかりがされていたわけではなく,Winnyの違法利用に否定的な意見の書き込みもされており,被告人自身も,同スレッドに「もちろん,現状で人の著作物を勝手に流通させるのは違法ですので,βテスタの皆さんは,そこを踏み外さない範囲でβテスト参加をお願いします。これはFreenet 系P2P が実用になるのかどうかの実験だということをお忘れなきように。」などとWinnyを著作権侵害のために利用しないように求める書き込みをしていたと認められる。これによれば,被告人が著作権侵害のために利用する蓋然性の高い者に向けてWinnyを公開,提供していたとはいえない。被告人が,本件当時,自らのウェブサイト上などに,ファイル共有ソフトの利用拡大により既存のビジネスモデルとは異なる新しいビジネスモデルが生まれることを期待しているかのような書き込みをしていた事実も認められるが,この新しいビジネスモデルも,著作権者側の利益が適正に保護されることを前提としたものであるから,このような書き込みをしていたことをもって,被告人が著作物の違法コピーをインターネット上にまん延させて,現行の著作権制度を崩壊させる目的でWinnyを開発,提供していたと認められないのはもとより,著作権侵害のための利用が主流となることを認識,認容していたとも認めることはできない。また,②の点については,インターネットや雑誌等で流されていた情報も,当時の客観的利用状況を正確に伝えるものとはいえず,本件当時,被告人が,これらの情報を通じてWinnyを著作権侵害のために利用する者が増えている事実を認識していたことは認められるとしても,Winnyは著作権侵害のみに特化して利用しやすいというわけではないのであるから,著作権侵害のために利用する者の割合が,前記関係証拠にあるような4割程度といった例外的とはいえない範囲の者に広がっていることを認識,認容していたとまでは認められない。③の被告人自身がWinnyのネットワーク上から著作物と推定されるファイルを大量にダウンロードしていた点についても,当時のWinnyの全体的な利用状況を被告人が把握できていたとする根拠としては薄弱である。むしろ,被告人が,P2P技術の検証を目的としてWinnyの開発に着手し,本件Winnyを含むWinny2については,ファイル共有ソフトというよりも,P2P型大規模BBSの実現を目的として開発に取り組んでいたことからすれば,被告人の関心の中心は,P2P技術を用いた新しいファイル共有ソフトや大規模BBSが実際に稼動するかどうかという技術的な面にあったと認められる。現に,Winny2においては,BBSのスレッド開設者のIPアドレスが容易に判明する仕様となっており,匿名性機能ばかりを重視した開発がされていたわけではない。そして,前記のとおり,被告人は,本件Winnyを含むWinnyを公開,提供するに当たり,ウェブサイト上に違法なファイルのやり取りをしないよう求める注意書を付記したり,開発スレッド上にもその旨の書き込みをしたりして,常時,利用者に対し,Winnyを著作権侵害のために利用することがないよう警告を発していたのである。
これらの点を考慮すると,いまだ,被告人において,本件Winnyを公開,提供した場合に,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めることは困難である。

(4) 以上によれば,被告人は,著作権法違反罪の幇助犯の故意を欠くといわざるを得ず,被告人につき著作権法違反罪の幇助犯の成立を否定した原判決は,結論において正当である。

5 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官大谷剛彦の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

裁判官大谷剛彦の反対意見は,次のとおりである。

私は,本件において,多数意見と結論を異にし,被告人には著作権である公衆送信権侵害の罪の幇助犯が成立すると考えるので,反対意見を述べる。

1 本件の事実関係は,多数意見の1に詳しく摘示されているとおりであるが,本件において被告人の著作権侵害の幇助行為とされているファイル共有ソフトWinnyの提供行為の特徴は,そのソフトそれ自体は多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能にするという技術的有用性を持つ一方,その効率性及び特に匿名性の機能のゆえに,利用の仕方によっては著作権という法益の侵害可能性も併せ持っており(両者は表裏の関係をなしている。),そして,そのソフトは不特定多数の者に提供され,提供の範囲,対象には全く限定はない,というところにあろう。
このようなソフトの提供行為は,ソフトを侵害的に利用して違法にファイルをアップロードするという正犯の著作権(公衆送信権)侵害行為を容易にし,また助長した幇助行為として可罰性が問われることになるが,提供行為の幇助犯としての可罰性は,提供行為が一般的,抽象的に著作権侵害の可能性を持っていれば足りるものではなく,正犯者が侵害的に利用するという具体的でより高度の蓋然性が認められる状況で提供行為が行われる場合に,幇助行為としての可罰性が肯定されると考えられる。この点では,多数意見とほぼ認識,理解を共通にしている。

2 すなわち,Winnyの提供行為それ自体は,適法目的に沿って利用される以上何ら法益侵害の危険性を有しないが,その有用性がいわば濫用され侵害的に利用される場合に,提供行為が法益侵害の現実的な危険性,違法性を持つことになる(その意味で価値中立的行為ともいえよう。)。提供行為の法益侵害の危険性は,ソフトの利用者がどのような目的で,どのような対象にこれを利用するかという具体的な利用目的,態様にかかっており,侵害的利用の単なる可能性という程度では足りず,利用者の適法利用ではない侵害的利用についての具体的でより高度の蓋然性がある場合に,提供行為自体が現実的な法益侵害の危険性を持ち,その違法性,可罰性が肯定されるといえよう。
そして,利用者の侵害的利用の蓋然性は,個々の利用者の利用における侵害的利用の可能性と,このソフトが不特定多数者に提供されていることとの関連で,侵害的に利用する者の生ずる可能性との両面からの検討を要する。前者については,提供されるソフトや提供行為の性質,内容が,公衆送信権という著作権の侵害に容易に利用され得るものか,侵害を誘発するようなものか,侵害的利用を抑制する手立ての有無などが主な考慮要素となろう。また,後者については,この侵害的利用の可能性のあるソフトがより多くの侵害的利用の目的を持つ者に供されれば,それだけ(量的にも確率的にも)現実的な法益侵害の危険性は高まることになり,この点ではソフト提供の態様,対象者の範囲等が考慮要素となろう。さらに,実際に侵害的な利用が少なからず生じているという客観的状況下で,このような侵害的利用の可能性のあるソフトの提供が続けられることにより法益侵害の危険性は高まるのであり,高度の蓋然性の判断に当たり,この客観的な利用の状況も重要な考慮要素になろう。

3 以上のように,前記1のような特徴を持つ本件の被告人の提供行為の可罰性を判断するに当たり,侵害的利用についての具体的でより高度の蓋然性が客観的に認められる状況下で提供されることを要件としたが,この点は幇助行為の可罰性の違法要素であり,構成要件要素とも考えられるのであり,そうすると犯罪成立の主観的要素(幇助の故意)として,この高度の蓋然性について認識・認容も求められることになる(なお,具体的な正犯の特定性については,いわゆる概括的な故意としての認識・認容で足りよう。)。
なお,原判決は,更に進んで,本件のような価値中立的行為の幇助犯の成立には侵害的利用を「勧める」ことを要するとしているが,独立従犯ではない幇助犯の成立をこのような積極的な行為がある場合に限定する見解が採り得ないことは,多数意見4(1)のとおりである。
また,同様に,幇助犯としての主観的要素としては,この高度の蓋然性についての認識と認容が認められることをもって足り,それ以上に正犯行為を助長する積極的な意図や目的までを要するものではないといえよう。

4 そこで,本件についてみるに,①いわゆるファイル共有ソフトは被告人の開発したWinnyに限られていたわけではなく,Win‐MXその他のソフトも提供されており,ネット上での公衆送信権という著作権の侵害にWinnyが不可欠というものでは決してないが,被告人の追究により効率性が上がり(例えば,多重ダウンロード機能,自動ダウンロード機能,それ自体は当時違法ではなかった自己使用目的の許諾なき著作物ファイルのダウンロードが,即,違法性を持つ公衆への送信としてのアップロードに繋がるような仕組み等),また匿名性機能も備わり(ファイルが中継を経ると発信源の位置情報(キー情報)の追及が困難になる仕組み等),侵害的利用の抑制として警告の掲示はあるものの,侵害的利用が至って容易である上,侵害的利用への誘引性も高く,それゆえ利用者の侵害的利用が促進され,②提供行為の態様も,不特定多数の者に広汎かつ無限定で提供され,利用について申込みや承諾を要することなく,誰もがいつでもアクセスでき,利用に何ら制約はなく,③客観的利用状況については,多数意見4(3)のとおり,当時(平成15年)の利用状況を正確に示す証拠はないが,原判決が引用する関係証拠によれば,Winnyのネットワーク上を流通するファイルの4割程度が著作物で,かつ,著作権者の許諾が得られていないと推測されるものであったという状況にあった。
これらの事情からすれば,少なくとも平成15年9月に行われていた本件Winnyの公開・提供行為については,その提供ソフトの侵害的利用の容易性,助長性というソフトの性質,内容,また提供の対象,範囲が無限定という提供態様,さらに上記の客観的利用状況等に照らし,まずは客観的に侵害的利用の「高度の蓋然性」を認めるに十分と考えられる。
なお,付言すれば,侵害的利用が推測される4割程度という割合は,一つにはWinny上に流通していた一時期のサンプル120万件のファイル情報(キー)について,著作権侵害性を調べたところ,そのうち著作権のある音楽やDVDなど市販著作物そのままのコピーが40%程度であったという調査結果に基づいている。
サンプルにして40数万という数の市販の著作物そのままのコピーが流通していたことになり,およそ例外的とはいえない侵害的な利用を示しているといえよう。また,原審が取り調べた社団法人甲協会の行った約2万件のファイル情報(キー)の調査結果として,そのうち約5割が映像,音楽,ゲームソフトなどの著作物であり,その約9割が許諾なき利用と推定されるという報告にも基づいている(原判決20頁)。Winny利用者の正確な数は把握できないが,インターネット利用者(当時3000万人強と推定)の約3%がファイル共有ソフトの利用者であり(第1審判決15頁),その約3分の1がWinnyを最もよく利用するという調査もある。利用の割合を利用者の量(人数)に置き換えてみると,弁護人の主張する調査の難点を考慮しても,およそ例外的利用とはいえない多数の者による侵害的利用が推認されるのである。これらの調査には,本件の2年半後の平成18年当時の調査も含まれており,その間のファイル共有ソフト利用者の増加も考慮すると,これらデータから本件当時の状況を推し測るに当たっては,相応の下方への修正を施して考えるべきは当然であるが,以上の見方の基本に誤りはないと思われる。
5 前記3のとおり,幇助犯が成立するには,主観的要素として,この客観的な高度の蓋然性についての認識と認容という幇助者の故意が求められる。多数意見は,結論として,被告人において,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めることは困難である,として被告人の幇助の故意を認定していない。私は,本件において,被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容も認められると判断するものであり,多数意見に反対する理由もここに尽きるといえよう。

(1) まず,侵害的利用の蓋然性について,このソフト自体の有用性の反面としての侵害的利用の容易性,誘引性があることや,また提供行為の態様として対象が広汎,無限定であることについては,開発者として当然認識は有していると認められる。また,客観的な利用状況については,多数意見が理由4(3)で挙げる①開発宣言をしたスレッドへの侵害的利用をうかがわせる書き込み,②本件当時のWinnyの侵害的利用に関する雑誌記事などの情報への接触,③被告人自身の著作物ファイルのダウンロード状況などに照らせば,被告人において,もちろん当時として正確な利用状況の調査がなされていたわけではないので4割が侵害的利用などという数値的な利用実態の認識があったとはいえないにしても,Winnyがかなり広い範囲(およそ例外的とはいえない範囲)で侵害的に利用され,流通しつつあることについての認識があったと認めるべきであろう。
多数意見の指摘する被告人の侵害的利用状況の認識・認容に関わる諸事情は,その蓋然性の認識の判断に当たり消極に働く事情として慎重に検討すべき点ではあろう。しかし,これらの事情を考慮し,また,被告人の研究開発者としての志向,すなわち有用性というプラス面の技術開発への傾倒,没頭と,一方で副作用ともいうべき侵害的利用というマイナス面への関心,配慮の薄さという面を考慮しても,侵害的利用についての高度の蓋然性の認識を否定するには至らないと思われる。そして,通常は,このような侵害的利用の高度の蓋然性に関する客観的な状況についての認識を持ちながら,なお提供行為を継続すれば,侵害的利用の高度の蓋然性についての認容もまた認めるべきと思われる。

(2) 前述したとおり,本件のような技術提供行為が技術的有用性と法益侵害性を併せ持ち,また不特定多数の者への提供が行われる場合の幇助の故意の成立に,一般の故意の内容以上に,法益侵害性への積極的な意図や目的を有する場合に限定することは,やはり十分な根拠を得るものではなく,躊躇せざるを得ないところである。
私も,多数意見と同様,検察官の主張するような,被告人がWinnyを利用した著作物の違法コピーのまん延を望んでいたとか,侵害的利用を主目的に開発・提供をしていた,などの積極的侵害意図を認めるものではない。被告人のソフト開発とその提供が,多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能にするということを主目的としていたと認めるにやぶさかではない。
多数意見は,被告人の幇助の故意を消極的,否定的に評価する事情として,開発スレッドへの書き込みに自らソフトの開発・提供の意図を書き込んでいたとか,著作権者側の利益が適正に保護されることを前提とした新たなビジネスモデルの出現を期待していたとか,侵害的利用についてこれをしないよう警告のメッセージを発していたという点を挙げるが,これらは被告人に法益侵害の積極的意図が無かったという事情としてはもっともであるにしても,これらの事情が必ずしも法益侵害の危険性の認識・認容と抵触し,これを否定することにはならないと考えられる。提供行為の法益侵害の危険性を認識しているからこそ,このような利用が自らの開発の目的や意図ではなく,本意ではないとして警告のメッセージとして発したものと考えられる。被告人は,このようなメッセージを発しながらも,侵害的利用の抑制への手立てを講ずることなく提供行為を継続していたのであって,侵害的利用の高度の蓋然性を認識,認容していたと認めざるを得ない。
6 以上のとおり,私は,被告人に幇助犯としての構成要件該当性及びその故意を認め得ると考えるが,弁護人の主張に実質的な違法性阻却の主張が含まれているとも考えられるので,若干この点についての意見も付言しておく。
既に述べたとおり,被告人のWinnyの開発・提供の主目的は,P2P方式によるファイル共有ソフトの効率性,匿名性をこれまで以上に高め,それ自体多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能にするという技術的有用性の追求にあったことが認められ,また不特定多数の者にこれを提供して意見を徴しながら開発を進めるという方法も,特段相当性を欠くとは認められないところである。
このような点を踏まえると,本件において,行為の目的,手段の相当性,法益侵害の比較,あるいは政策的な配慮などを総合考慮し,社会通念上許容し得る場合,あるいは法秩序全体の見地から許容し得る場合に違法性を阻却するとする実質的違法性の問題についても検討の余地はあろう。
確かに,本件で著作権侵害の違法行為を行ったのは正犯者であり,被告人のWinnyの提供行為はその一手段を提供したにすぎず,また,手段としてのファイル共有ソフトは何もWinnyに限られていたというわけではなく,P2P方式のものとしてもより汎用されていたWin‐MXなども存在していた。このように被告人のWinnyの提供行為は,著作権侵害・法益侵害への因果性は薄く,民事の不法行為責任は問い得ないとする見解もあり,その意味で微罪性を持つといえないわけではない。
しかしながら,個々の侵害行為におけるソフトの果たす役割が大きくないにしても,前述のように,本件Winnyは,侵害的利用の容易性といったその性質,不特定多数の者への無限定の提供というその態様などから,大量の著作権侵害を発生させる素地を有しており,現にそのような侵害的な利用が前述のように多発もしていたのであって,法益侵害という観点からは社会的に見て看過し得ない危険性を持つという評価も成り立ち得よう。侵害される法益は,侵害に対しては懲役刑(本件当時長期3年以下の懲役)をもって保護される法益である。
一方,被告人の開発・提供行為は,ネット社会においてその有用性について一定の評価がなされているが,このような分野での技術の開発はまさに日進月歩であり,開発中のソフトについて,その技術開発分野での十分な検証を踏まえて客観的な評価を得ることも甚だ困難を伴う。
このような本件Winnyの持つ法益侵害性と有用性とは,「法益比較」といった相対比較にはなじまないともいえよう。本件Winnyの有用性については,幇助犯の成立について,侵害的利用の高度の蓋然性を求めるところでも配慮がなされているところであり,改めてこの点を考慮しての実質的違法性阻却を論ずるのは適当ではないように思われる。
(なお,先に政策的な配慮という点を挙げたが,前述したとおり,被告人の開発,提供していたWinnyはインターネット上の情報の流通にとって技術的有用性を持ち,被告人がその有用性の追求を開発,提供の主目的としていたことも認められ,このような情報流通の分野での技術的有用性の促進,発展にとって,その効用の副作用ともいうべき他の法益侵害の危険性に対し直ちに刑罰をもって臨むことは,更なる技術の開発を過度に抑制し,技術の発展を阻害することになりかねず,ひいては他の分野におけるテクノロジーの開発への萎縮効果も生みかねないのであって,このような観点,配慮からは,正犯の法益侵害行為の手段にすぎない技術の提供行為に対し,幇助犯として刑罰を科すことは,慎重でありまた謙抑的であるべきと考えられる。多数意見の不可罰の結論の背景には,このような配慮もあると思われる。本件において,権利者等からの被告人への警告,社会一般のファイル共有ソフト提供者に対する表立った警鐘もない段階で,法執行機関が捜査に着手し,告訴を得て強制捜査に臨み,著作権侵害をまん延させる目的での提供という前提での起訴に当たったことは,いささかこの点への配慮に欠け,性急に過ぎたとの感を否めない。その他,被告人には営利の目的もなく,また法執行機関からの指摘を受けて,Winnyの公開のためのウェブサイトを直ちに閉じる措置を採るなど,有利な事情も認められる。
一方で,一定の分野での技術の開発,提供が,その効用を追求する余り,効用の副作用として他の法益の侵害が問題となれば,社会に広く無限定に技術を提供する以上,この面への相応の配慮をしつつ開発を進めることも,社会的な責任を持つ開発者の姿勢として望まれるところであろう。私は,前記の1ないし5から,被告人に幇助犯としての犯罪の成立が認められ,上記のような被告人にとっての事情は,幇助犯として刑の減軽もある量刑面で十分考慮されるべきものと考える。)

7 以上により,私は,原判決の破棄は免れないものと考える。

(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)

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2011年12月20日 (火)

総務省「スマートフォン・クラウドセキュリティ研究会 中間報告」

12月19日の午前にとりまとめられた
総務省「スマートフォン・クラウドセキュリティ研究会 中間報告」
が、早くも同日夕刻、総務省サイトで公開された。
筆者も、この研究会メンバーである。
スマートフォンを安心して利用するために当面実施されるべき方策について検討結果が掲載されている。

この中間報告では「スマートフォン端末には個人情報を含む多くの情報が集約されていることから、端末の紛失・盗難等によって、データの紛失や第三者に情報を抜き取られるリスクや、他人が再利用できない仕組みの必要性が指摘されている。」とした上(12頁)、「利用者情報に関する課題については、技術的な切り口もさることながら、保護すべき情報そのものに関する議論が必要となることから、別途検討の場を設けるなどして、詳細な検討を進め、本研究会の検討と連携を図っていくことが適当である。」(13頁)としている。

これを踏まえて、翌20日午前開催の
総務省「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」
で、この点の検討を、今後、進めることになった。

参考
総務省「スマートフォン・クラウドセキュリティ研究会 中間報告」
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu03_02000015.html

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2011年12月16日 (金)

料理マンガにおける写真トレースと著作権法

集英社の料理マンガに掲載されたシーンが、他人が撮影した料理等の写真をトレースしていたとして問題となり、このマンガは連載中断に追い込まれた。

ネット上では、これが著作権侵害に該当するか、多様な意見が飛び交い、混乱を深めている。

著作権法では、写真は、10条1項8号にいう「写真の著作物」として保護されうる。

しかし、そのためには創作性が認められる必要がある。

一般に写真は被写体をありのまま静止画像として再現するという性格を有するが、主として撮影における独自の工夫(撮影上の工夫)によって、著作物たる創作的表現となりうる。これには、構図、撮影ポジション・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、露光時間、レンズ・フィルムの選択等の諸要素が含まれる(これに対し被写体の決定自体も含めるべきかについては後述)。他に現像上の工夫も創作性の要素となりうる。しかし、もともと装置に頼るものである上に、特に近時は自動露出や自動焦点等が普及しており、それらの利用によって、さらに機械的作用への依存度が高まる。同様に現像も自動化が進んでいる。(岡村久道『著作権法』82頁)

商品を被写体とする広告用写真に著作物性を認めたものとして、大阪地判平成7年3月28日知的裁集27巻1号210頁(商品カタログ事件)、知財高判平成18年3月29日判タ1234号295頁(スメルゲット事件)がある。

他方、複製権、もしくは翻案権侵害に該当するための同一性判断基準は次のとおりである。他の要件については、岡村久道・前掲書441頁を参照されたい。

最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁(江差追分事件)は、原告作品のうち創作的表現と認められる部分のみを判断対象として、これと被告作品が共通する部分について、上記原告作品部分の創作的表現上の本質的特徴を被告作品から直接感得しうる程度に類似するか否かを基準に、同一性の有無を判断している。

写真著作物の複製・翻案について、①当該写真それ自体を有形的再製することに限られるのか、それとも、②同一被写体について撮影方法が類似の写真を別途撮影することや、③別の被写体で撮影方法が類似の写真を撮影すること、さらに、④写真以外の方法による再生も含まれるか、争いがある。(岡村久道・前掲書83頁)

本件の写真トレースは上記④の問題である。これに関し、写真に依拠した水彩画が翻案に該当するとした東京地判平成20年3月13日判タ1283号262頁(八坂神社祇園祭ポスター事件)がある。

本件は認定された事実によれば次の事案である。

  • 原告は、アマチュア写真家であり、被告八坂神社から撮影許可を得て、祇園祭の風景写真である本件写真を撮影した。そして、原告は、本件写真を表紙とする「京乃七月」と題する写真集を被告サンケイデザインの製版印刷により発行した。
  • このような経緯から、被告サンケイデザインの代表者である被告吉川は、本件写真のポジフィルムを有していたことを利用して、被告吉川は祇園祭の広告宣伝のために本件写真とこれに依拠して制作された本件水彩画を京都新聞に、被告サンケイデザインは被告八坂神社の発注により本件写真と本件水彩画を被告八坂神社のポスターに、被告白川書院は被告吉川から本件写真を借りて本件写真を月刊京都に、それぞれ掲載した。本件は、これらの行為が、本件写真の著作権及び著作者人格権を侵害するとされた事例である。
  • なお、本件における争点は多岐にわたるものの、主たる争点は、本件水彩画の制作は、本件写真の翻案権を侵害するか否かである。

本判決は、次のとおり判示して、翻案に該当するとして侵害を認めた。

  • 「本件写真の表現上の創作性がある部分とは、構図、シャッターチャンス、撮影ポジション・アングルの選択、撮影時刻、露光時間、レンズ及びフィルムの選択等において工夫したことにより表現された映像をいうと解すべきである(証拠略)。すなわち、お祭りの写真のように客観的に存在する建造物及び動きのある神輿、輿丁、見物人を被写体とする場合には、客観的に存在する被写体自体を著作物として特定の者に独占させる結果となることは相当ではないものの、撮影者がとらえた、お祭りのある一瞬の風景を、上記のような構図、撮影ポジション・アングルの選択、露光時間、レンズ及びフィルムの選択等を工夫したことにより効果的な映像として再現し、これにより撮影者の思想又は感情を創作的に表現したとみ得る場合は、その写真によって表現された映像における創作的表現を保護すべきである。」
  • 「本件水彩画のこのような創作的表現によれば、本件水彩画においては、写真とは表現形式は異なるものの、本件写真の全体の構図とその構成において同一であり、また、本件写真において鮮明に写し出された部分、すなわち、祭りの象徴である神官及びこれを中心として正面左右に配置された4基の神輿が濃い画線と鮮明な色彩で強調して描き出されているのであって、これによれば、祇園祭における神官の差し上げの直前の厳粛な雰囲気を感得させるのに十分であり、この意味で、本件水彩画の創作的表現から本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得することができる」。
  • 「以上のとおり、本件水彩画に接する者は、その創作的表現から本件写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することができると認められるから、本件水彩画は、本件写真を翻案したものというべきである。」

前掲江差追分事件判決は言語の著作物に関するものであった。この基準を、八坂神社祇園祭ポスター事件判決は、写真の著作物の創作性を考慮しつつ、あてはめたものといえよう。

その一方、上記③にも関連するが、撮影者自身が被写体を人為的に作り込んで撮影することも創作性の対象となるかという問題もあるが、これを肯定した東京高判平成13年6月21日判タ1087号247頁(みずみずしい西瓜事件)が存在することを指摘するにとどめ、詳細は別の機会に論じたい。

ちなみに、複製か翻案かは、新たな創作性の付加が認められるか(翻案)、否か(複製)によって区分される。

マンガであれば、翻案であると認められることが自然であろう。ただし、実物を確認していないので、正確な判断は留保する。

以上によれば、本件が翻案権侵害に該当する疑いがあるとされたことには、それなりの理由があったことになろう。

これに対し、ネット上では、商業目的の正確な模写は「著作物の複製」に該当する可能性が高い旨の弁護士コメントが掲載されるなど、混乱を深めているが、かかる見解が意味不明であることは、上記から明らかであろう。

参考
「集英社の料理マンガが連載中断 写真トレースはダメなのかで議論」
http://www.j-cast.com/2011/12/12116147.html?p=1

2011/12/20、22 追記

筆者は上記の判例理論が「正しい」と言っているわけではない。

しかし、指摘すべきは、第1に、表現の本質的特徴の直接感得性を基準とする限り、写真著作物についても、同一性判断基準としては、一般論として、そうした方向へ向かわざるを得ないという点である。特に前記判例の事案では、あまりにも似すぎていた。

第2に、それにもかかわらず、前述のとおり、写真に広く著作物性を認めることは、それが偶然に左右されるものであること(被写体たる人々の動きは原則的に偶然に委ねざるを得ない)、その一方では必然的な部分があること(撮影位置が警備の必要性や地理的条件等の関係で限定される、祭事における儀式の流れとクライマックスは事前におおむね決定されているなど)等の点を考えると、やや論理が荒いように感じる。

結局のところ、写真の著作物性、特に創作性が認められる範囲に、前記観点から適正な絞りを掛けることによって、バランスを保つことが必要であるように感じる。それによって、同時に同一性判断にも、自ずと絞りを掛けることができるはずである。

このように考えると、上記判例は、もう少し踏み込んだ詳細な判断を行うべきであったと言えよう。

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2011年12月 9日 (金)

フィッシング詐欺に対する現行法の状況と立法的対応

平成23年12月8日付け読売新聞によると、警察庁が同日にまとめた不正アクセス対策に関するアンケートの結果によると、フィッシング詐欺が現行法で処罰対象となっていないことについて、95%が「厳罰」「相応の処罰」を与えるべきだと回答したという。

フィッシング詐欺に対する現行法の対応状況は、次のとおりである(拙著『情報セキュリティの法律〔改訂版〕』153頁以下)。

  1. フィッシング詐欺によって騙し取ったID,パスワードを使って他人になりすまし,ネット経由で無権限者がアクセスしたような場合は,不正アクセス禁止法違反の罪が成立する(東京地裁平成17年9月12日判決・公刊物未登載)。
  2. 有名企業のウェブサイトを装った本物そっくりの偽サイト(フィッシングサイト)を開設したという点を捉えて,著作権侵害の成立を認めることができる(前掲東京地裁平成17年9月12日判決)。
  3. フィッシングメールの送信は,「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一」の「商品等表示を使用」する行為に該当することが多いので,不正競争防止法21 条2 項1号の、不正の目的をもって2条1項1号に掲げる不正競争を行った者に該当するものとして,罰則によって取り締まっていくことが考えられ、フィッシングサイトについても,同様に罰則の対象となるものと考えることができる(総務省「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会中間とりまとめ」)。

今回の警察庁による前記発表は、このようにフィッシング詐欺を正面から未遂段階で処罰対象とする規定が現行法に存在しないことを踏まえたものと思われる。

上記のとおり、それが必ずしも十分でないことを考えると、肯定的に受け取ることができよう。

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2011年12月 2日 (金)

「営業秘密管理指針(改訂版)」公表

経済産業省が「営業秘密管理指針(改訂版)」を公表。

営業秘密侵害罪に係る刑事訴訟手続における、営業秘密保護措置の導入等を内容とする、改正法の施行を受けたもの。

http://www.meti.go.jp/press/2011/12/20111201003/20111201003.html

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下記の新刊でも、営業秘密保護について、ISMSとの関係を含め、解説している。

「情報セキュリティの法律〔改訂版〕」

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