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2013年6月

2013年6月29日 (土)

全国紙投稿者個人情報ネット無断掲載事件

某全国紙の投稿した読者が、詳細な住所等の個人情報をネット掲示板やブログに無断掲載され、自宅に嫌がらせ電話等があったことが、2013年6月28日付け当該全国紙で報道されている。
 
こうした行為がプライバシー侵害に該当することがあることは後述するが、振り返れば、パソコン通信時代から同種の事件は存在していた。中には裁判沙汰になったものもある。神戸地判平成11年6月23日判時1700号99頁(掲示板プライバシー侵害事件)である。
 
この事件では、個人情報をパソコン通信の掲示板に無断掲載した行為がプライバシー侵害に該当し、その後診療所に悪戯電話が多数かかってきたことなどから生じた損害を賠償すべき責任が認められた。
 
本件は、職業別電話帳記載の情報が、プライバシー情報に該当するかどうかという点が、「非公知性」要件との関係で争点となったものであった。
 
この争点につき、裁判所は、「原告は、本件掲示がなされる以前に、自己の氏名はネット上において明らかにしていたが、自己の職業、診療所の住所・電話番号はネット上で公開したことは一切なかったのであり、これからすれば、原告は一貫して自己の職業、診療所の住所・電話番号はネット上公開しない意思を有していたものと推認される。」とした上、「右原告の職業、診療所の住所・電話番号は、一般人の感受性を基準にして、原告の立場に立った場合、公開を欲しない事柄であり、かつ、一般人に未だ知られていない事柄に該当するというべきである。」と判示している。
 
その一方、タレントの自宅住所を書籍化したものが、プライバシーの侵害に該当するか、争いになった訴訟事件も存在している。「ジャニーズ追っかけマップ事件」の東京地判平成9年6月23日、東京地判平成10年11月30日である。
 
インターネット上では、広島バスジャック少年事件や、神戸連続児童殺傷事件の際に、ネット巨大掲示板に、犯人である少年の実名等が掲載され、議論を呼んだ。最近では、大津いじめ事件において、加害少年らをはじめとする関係者の身元が明らかにされ、やはり議論を呼んでいた。
 
さらに振り返ると、マスメディアにおける実名報道の可否も、昔から大きな争点になっているところである。
 
ネットの普及によって、個々のネットユーザーが、「あなたがメディア」というべき状態に至った現在、以上の点との関係で、もっと大きな視点から、より踏み込んだ検討が必要なのではなかろうか。
 
ちなみに、現在における判例理論のフレームワークは、公表によって得られる利益と不利益とを利益衡量することによって、適法かどうかを決するというものである。
 
今回の事件も、公表する必要性がないのに、プライバシー情報をネット公開してしまった点こそが問題であって、一律に個人情報だから許されないというべきでないことを付記しておきたい。

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2013年6月13日 (木)

番号法(旧マイナンバー法)

 番号法が、2013年5月24日に国会で成立し、同月31日に公布されました。これによって、「社会保障+税分野」を中心に、すべての国民1人ひとりに個人番号が導入されます。住民票を有する在留外国人も対象です。したがって、まさに国民1人ひとりが、この法律を知らなかったでは済まされないことになります。さらに、少なくとも登記されている法人すべてに法人番号も導入されます。これに伴い、関連する数多くの法律規定も、同時に成立した整備法によって一括して改正されています。
 
 本法が、公的部門向けの法律であって、民間部門には関係がないと誤解している人も少なくありません。たしかに、国の行政機関に携わる方々はもとより、地方公共団体の職員の方々にとって重要であることはいうまでもありません。現に本法の正式名称にも「行政手続」という言葉が含まれています。
 
 しかし、主として「社会保障+税分野」との関係で利用されるものであることから、民間部門における税務処理、社会保険関係の事務などに、広く深く関係しています。例えば、企業が従業員に対して源泉徴収事務や社会保険事務に関する諸手続を行う際に、これらの「番号」が必要となります。他方では、官民ともに、漏えい防止などのために、改めて適正な管理体制が問われます。
 
 付番される個人の側からみれば、これによって何が実現されるのか、関連する申請・届出等の手続が、どのように変わるのかという点と同時に、自己の個人情報・プライバシーが十分に保護されているかという点が問われるのです。
 
 このように、国民1人ひとりはもとより、行政部門に携わる方々、企業の経理・人事・法務・労務・情報システム管理などをはじめとする民間部門に属する方々にとっても、極めて影響が大きく、避けて通ることができない重要な法律です。弁護士、税理士、社会保険労務士、行政書士、システム監査関係者の先生方など、それに関連する専門家にとっても同様です。
 
 その一方では、法文を一読されれば誰の目にも明らかなように、残念ながら極めて難解な法律です。個人情報保護に関する一連の法律の特例を定めている規定が、本法の大きな部分を占めています。それだけをみても、多くの特別規定を置いている半面、個人情報保護法等の適用除外や字句の読み替えも多用されており、個人情報保護法制を理解した上で、それらとの関係に留意しなければ、それを正確に解読することが困難です。
 
 ということで、次の著書を緊急リリースしました。
 
「よくわかる共通番号法入門 ―社会保障・税番号のしくみ」
 
 緊急といっても、最終ゲラ校正を含めると、校正は計5回。じっくり書いた本です。

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