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2013年12月

2013年12月24日 (火)

『パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針』への期待

内閣官房のIT総合戦略本部は、個人情報保護法の改正等に向けた『パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針』(以下「本方針」という。)を2013年12月20日付で決定した。
 
短期間に良い内容にまとめられたことについて、深く敬意を払うものである。
 
プライバシーへの言及がなされている一方、短期間での整理であったためか、個人識別性との関係で、プライバシー判例には触れられていないので付言しておきたい。
 
個人情報保護3法が保護しようとする「権利利益」は、主要なものはプライバシー、その他としては名誉権等であると考えられている。
 
最高裁の確立した判例理論は、いわゆる匿名情報のような非識別情報の公表・提供行為は、プライバシー侵害とならないという立場である。
 
それは、『石に泳ぐ魚』事件の1審の東京地判平成11年6月22日判時1691号91頁、控訴審の東京高判平成13年2月15日判時1741号68頁、それを是認した上告審の最判平成14年9月24日裁時1324号5頁が判示している。
C1
 
また、最判平成15年3月14日民集57巻3号229頁(長良川少年報道事件)も同様の立場を採用している。
 
以上の点について、当然ながら下級審判例 も、おおむね同様の立場である。東京地判平成24年8月6日平24(ワ)6974号等である。
C2
 
こうした確立した判例理論からすれば、一般人たる情報の「受け手」にとって誰の情報か分からない(つまり個人識別性のない)、例えば「某大手企業の某役員が性病に罹患して、昨夕、都内の病院に通院した。」のような種類の情報を公表・提供しても、プライバシー侵害も名誉毀損も成立するか疑問である。当該情報の「受け手」にとって特定個人についての識別性がなく、当該特定個人の人格権、人格的利益が損なわれたとは認められるであろうか。
 
現行の個人情報保護法に関する厚労省関係のガイドラインでも、非識別化した情報の提供が適法とされているように見受けられる。医療・介護ガイドラインや、福祉関係事業者ガイドラインは、「特定の患者・利用者の症例や事例を学会で発表したり、学会誌で報告したりする場合等は、氏名、生年月日、住所等を消去することで匿名化されると考えられるが、症例や事例により十分な匿名化が困難な場合は、本人の同意を得なければならない。」としている。
 
これらの点は先日の「法とコンピュータ学会」で基調講演したところである。上記スライドはその際のものに少し手を入れたものである。
 
リーディングケースとされる前述の最高裁の判例理論では、プライバシー侵害だけでなく名誉毀損についても同様の法理が採用されている。
 
こうした前提の下で、今回の方針でも指摘されているように、近時は新たな情報通信技術の進展によって新たな局面を迎えている。それに対する対応として、国際的調和を図りつつ、産業振興とプライバシーとの調和を図ることが求められている。そのため、範囲を画して非識別化といえるための条件設定を模索している。
 
今回の方針に賛成であるが、今後の具体化に向けた検討作業の過程において、良く理解せずに独自見解を主張する人も登場する可能性があるので、意見を集約するには、さらなる努力と深い知見を要すると思われる。それを乗り越えて、今回の方針を踏まえた適正な改正案が作られ、改正に至ることを期待したい。

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2013年12月20日 (金)

番号法の成立と今後の課題

情報ネットワーク法学会 第13回研究大会(2013年11月23日)
特別講演
「番号法の成立と今後の課題」
 講師:岡村久道
動画が下記からご覧になれます(YouTube)。

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2013年12月12日 (木)

舞台降板事件訴訟と人格権

あるタレントさんが舞台の練習参加を拒んで降板した事件(正確には舞台そのものがボツになった事件)が、舞台製作者側との裁判紛争に発展して、メディアで話題となっている。
 
第三者が出版した自伝をベースに作られた脚本が、当該第三者の意向を無視していることが、降板した理由として主張されているようだ。
 
その期日で裁判長が「原作、原案というより、モデルの人格権に関わる。」という言葉を述べたとして、「人格権」の意味がメディアでさらに憶測を呼んでいる。
 
脚本も原作も拝見していないので、現時点で正確な判断は困難である。そのため、以下、このような類型の事件についての、あくまでも「人格権」に関する一般論にとどまるが、メモとして残しておきたい。
 
原作の創作的表現について本質的特徴を直接感得しうるなら(江差追分事件最高裁判例が提示した基準)、脚本化は、著作者人格権のひとつである同一性保持権侵害に該当しうる。これも一応は立派な人格権である。
 
ちなみに、「原作、原案」という区分は、アイデアは著作権法の保護範囲外という趣旨をいいたいのであろうが、用語として裁判実務では一般的ではない。創作的表現を対象に、上述した感得性の有無によって決せられる。
 
さらには著作権法113条6項の、みなし著作者人格権侵害に該当する可能性もある。こちらは「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」が対象となる。芸術的な裸婦像をストリップ劇場の看板に流用するようなケースが典型例である。
 
その一方、人格権の代表とも言うべきプライバシーについては、前記第三者本人が既に著書として出版しており、その限度では公知性があるから、純然たるプライバシーの問題とはとらえにくい。
 
しかし、脚本をモデル小説になぞらえれば、原著に記載されていない内容を無断で脚本に入れた場合にはプライバシーの問題が、脚本で虚偽を織り交ぜたような場合には名誉毀損が成立する余地がある。
 
でもそれだけではない。客寄せパンダとして著作者名を無断利用するのなら、最高裁がピンクレディー事件で認めたパブリシティ権の問題ともなりうる。これを最高裁は人格権たる肖像権の一種と位置付けている。この辺りの領域は深い判例理論の知識がなければならない。最近の保護法改正論でも、プライバシー重視を主張するというなら、もっと判例理論をきっちり理解していなければならない。
 
いずれにしても、本件では問題となった原作だけでなく、脚本を見なければ正確な判断は難しい。以上が、純然たる一般論にとどまるゆえんである。

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