『パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針』への期待
内閣官房のIT総合戦略本部は、個人情報保護法の改正等に向けた『パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針』(以下「本方針」という。)を2013年12月20日付で決定した。
短期間に良い内容にまとめられたことについて、深く敬意を払うものである。
プライバシーへの言及がなされている一方、短期間での整理であったためか、個人識別性との関係で、プライバシー判例には触れられていないので付言しておきたい。
個人情報保護3法が保護しようとする「権利利益」は、主要なものはプライバシー、その他としては名誉権等であると考えられている。
最高裁の確立した判例理論は、いわゆる匿名情報のような非識別情報の公表・提供行為は、プライバシー侵害とならないという立場である。
それは、『石に泳ぐ魚』事件の1審の東京地判平成11年6月22日判時1691号91頁、控訴審の東京高判平成13年2月15日判時1741号68頁、それを是認した上告審の最判平成14年9月24日裁時1324号5頁が判示している。
また、最判平成15年3月14日民集57巻3号229頁(長良川少年報道事件)も同様の立場を採用している。
以上の点について、当然ながら下級審判例 も、おおむね同様の立場である。東京地判平成24年8月6日平24(ワ)6974号等である。
こうした確立した判例理論からすれば、一般人たる情報の「受け手」にとって誰の情報か分からない(つまり個人識別性のない)、例えば「某大手企業の某役員が性病に罹患して、昨夕、都内の病院に通院した。」のような種類の情報を公表・提供しても、プライバシー侵害も名誉毀損も成立するか疑問である。当該情報の「受け手」にとって特定個人についての識別性がなく、当該特定個人の人格権、人格的利益が損なわれたとは認められるであろうか。
現行の個人情報保護法に関する厚労省関係のガイドラインでも、非識別化した情報の提供が適法とされているように見受けられる。医療・介護ガイドラインや、福祉関係事業者ガイドラインは、「特定の患者・利用者の症例や事例を学会で発表したり、学会誌で報告したりする場合等は、氏名、生年月日、住所等を消去することで匿名化されると考えられるが、症例や事例により十分な匿名化が困難な場合は、本人の同意を得なければならない。」としている。
これらの点は先日の「法とコンピュータ学会」で基調講演したところである。上記スライドはその際のものに少し手を入れたものである。
リーディングケースとされる前述の最高裁の判例理論では、プライバシー侵害だけでなく名誉毀損についても同様の法理が採用されている。
こうした前提の下で、今回の方針でも指摘されているように、近時は新たな情報通信技術の進展によって新たな局面を迎えている。それに対する対応として、国際的調和を図りつつ、産業振興とプライバシーとの調和を図ることが求められている。そのため、範囲を画して非識別化といえるための条件設定を模索している。
今回の方針に賛成であるが、今後の具体化に向けた検討作業の過程において、良く理解せずに独自見解を主張する人も登場する可能性があるので、意見を集約するには、さらなる努力と深い知見を要すると思われる。それを乗り越えて、今回の方針を踏まえた適正な改正案が作られ、改正に至ることを期待したい。
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