カテゴリー「知的財産権」の記事

2014年5月 6日 (火)

著作者の権利の放棄

泉谷しげる氏が、自作2曲の著作権放棄を希望しているという。
 
「嫌いな歌をイヤイヤ歌ってもな~」ということだ。
 
 
これを素材に、考えてみてほしい。
 
著作権を放棄するとどうなるか。著作者人格権はどうか。
 
オープンソース開発者も考えてほしい。
 
著作権も財産権なので、明文規定はないが放棄が可能である。一方的な宣言で足りる。
 
それによってパブリックドメインとなる。
 
だから、改良版が二次的著作物となって、その著作者に独占権が生じ、コミュニティに還元されないとしてストールマンは諫め、放棄ではなくGPLを適用するよう奨める。
 
これに対し、著作者人格権を包括的に放棄することは許容されないと考えられている。つまり、泉谷さんは、著作者人格権を放棄したくても、できないのである。
 
だから実務的には、著作権の譲渡契約に、それに代えて、人格権の包括的不行使特約を付ける傾向がある。
 
但し、個別事案については、著作者は同意することができる。例えば、同一性保持権について、特定の改変について個別同意するといった具合である。
 
司法試験直前の知財選択者で、拙著『著作権法〔新訂版〕』を持っている人は、他の論点も含め、
 
専用問題集 統合版 Ver.0.9
 
 
で、知識を最終チェックしておいてほしい。
 
PDF版のダウンロードは、岡村久道「著作権法」サポートサイトからどうぞ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年2月 6日 (木)

「別人作曲」問題の波紋-佐村河内守氏事件

佐村河内守氏の「別人作曲」問題が波紋を呼んでいる。
 
18年間にわたってゴーストライターを使い、作曲させていたというものだ。その人物に「イメージなど」を伝えていたという。
 
影響は大きい。コンサートは中止、「広島市民賞」は取り消しを検討、CDも出荷停止にすると報道されている。
 
その一方、テレビのワイドショーでは共同著作になる可能性があるという指摘もされているが、本当であろうか。
 
彼が伝えていた「イメージなど」の実物と言われるもの(交響曲1番に関する書類)が報道されているので、それに基づいて検討してみたい。
 
結論的には、「イメージなど」の内容を見る限り、タイムテーブル+抽象論であり、創作的表現の具体的指示と言えるか疑問である。
 
まず、著作者の判断基準について整理しておきたい。
 
実際に著作物の作成作業を事実行為として行った者が、一般的には具体的な創作的表現を行ったと認められるから、原則として著作者となる。
 
ただし、単にAがBの具体的指示に従って作業を行ったにすぎないような場合には、AではなくBが著作者となる。この場合には、具体的な創作的表現がBに帰属しているからである。ここに具体的指示とは具体的な創作的表現に対するものである必要があり、単に抽象的なアイデアの提供では足りない。
 
同一の著作物中に、Bの具体的指示による部分と、A独自の創作的表現が併存しているときは、AとBの共同著作物となる。
 
著作者の認定は、著作物の性格によって具体的な判断手法が異なりうる。複数の工程を経て作られる著作物の場合には、その表現が確定する段階について作った者が著作者となる。
 
楽曲の場合については、どのように考えられるべきか。
 
記念樹事件の東京高判平成14年9月6日は、「一般に、楽曲の要素として、旋律(メロディー)、リズム及び和声(ハーモニー)をもって3要素といわれることがあり、また、場合によってはこれに形式等の要素を付け加えて、これら全体が楽曲に欠くことのできない重要な要素とされている」とした上、「少なくとも旋律を有する通常の楽曲に関する限り、著作権法上の『編曲』の成否の判断において、相対的に重視されるべき要素として主要な地位を占めるのは、旋律である」としている。
 
ところが、本件の「イメージなど」の内容には旋律はないに等しい。それどころか、バッハやモーツアルトなどの作品名が記載されている。「ペンデレツキ」「ペンデNo2」という記載も登場する。おそらく宗教音楽の影響が強い現代音楽作曲家、クシシュトフ・ペンデレツキや、その交響曲2番「クリスマス」を指しているのだろう。それを要素として何パーセントか配合するようにとの指示のようだ。
 
模倣せよという指示だとは思わないが、自らの具体的な創作的表現を示したものでないことも事実だ。
 
こう考えてくると、やはり共同著作は無理筋のようだ。
 
補筆
 
共同著作、二次的著作物の成否という点について補筆しておきたい。
 
「共同して」創作すれば共同著作となり、これを欠けばならない。
 
「共同して」というためには、当事者間に、客観的にみて創作的寄与の同時性を要するだけでなく、主観的にみて共同製作の意思を要するというのが判例理論。
 
本件では創作的寄与の「同時性」どころか、「創作的寄与」それ自体があるか疑問が残る。自ら作曲作業もせず、具体的な創作的表現に関する具体的指示もしていると言えそうにないからである。
 
共同著作とならない場合でも二次的著作物(2条1項11号)となることがあるが、二次的著作物になるためには、新たな創作性を付加する必要がある。
 
本件では、それもなさそうである。
 
ちなみに、職務著作とならないのかというご質問もいただいた。
 
しかし、本件では、今回に至るまで、佐村河内守氏自身が、自ら独力で交響曲1番を創作した旨を主張し続けてきた。ゲーム製作企業やプロダクションなどの事業体のように、誰かを雇って作ってきたという話ではなかったはずだ。ゴーストライターなのだから、あまりにも当然のことではあるが。
 
それゆえ、著作権法15条にいう「使用者」や「その法人等の業務に従事する者」「職務上作成する」というような関係に該当するような話ではないと考えるのが、自然なのではないか。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2013年12月12日 (木)

舞台降板事件訴訟と人格権

あるタレントさんが舞台の練習参加を拒んで降板した事件(正確には舞台そのものがボツになった事件)が、舞台製作者側との裁判紛争に発展して、メディアで話題となっている。
 
第三者が出版した自伝をベースに作られた脚本が、当該第三者の意向を無視していることが、降板した理由として主張されているようだ。
 
その期日で裁判長が「原作、原案というより、モデルの人格権に関わる。」という言葉を述べたとして、「人格権」の意味がメディアでさらに憶測を呼んでいる。
 
脚本も原作も拝見していないので、現時点で正確な判断は困難である。そのため、以下、このような類型の事件についての、あくまでも「人格権」に関する一般論にとどまるが、メモとして残しておきたい。
 
原作の創作的表現について本質的特徴を直接感得しうるなら(江差追分事件最高裁判例が提示した基準)、脚本化は、著作者人格権のひとつである同一性保持権侵害に該当しうる。これも一応は立派な人格権である。
 
ちなみに、「原作、原案」という区分は、アイデアは著作権法の保護範囲外という趣旨をいいたいのであろうが、用語として裁判実務では一般的ではない。創作的表現を対象に、上述した感得性の有無によって決せられる。
 
さらには著作権法113条6項の、みなし著作者人格権侵害に該当する可能性もある。こちらは「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」が対象となる。芸術的な裸婦像をストリップ劇場の看板に流用するようなケースが典型例である。
 
その一方、人格権の代表とも言うべきプライバシーについては、前記第三者本人が既に著書として出版しており、その限度では公知性があるから、純然たるプライバシーの問題とはとらえにくい。
 
しかし、脚本をモデル小説になぞらえれば、原著に記載されていない内容を無断で脚本に入れた場合にはプライバシーの問題が、脚本で虚偽を織り交ぜたような場合には名誉毀損が成立する余地がある。
 
でもそれだけではない。客寄せパンダとして著作者名を無断利用するのなら、最高裁がピンクレディー事件で認めたパブリシティ権の問題ともなりうる。これを最高裁は人格権たる肖像権の一種と位置付けている。この辺りの領域は深い判例理論の知識がなければならない。最近の保護法改正論でも、プライバシー重視を主張するというなら、もっと判例理論をきっちり理解していなければならない。
 
いずれにしても、本件では問題となった原作だけでなく、脚本を見なければ正確な判断は難しい。以上が、純然たる一般論にとどまるゆえんである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年8月20日 (火)

新刊予告「インターネットの法律問題-理論と実務-」

単行本「インターネットの法律問題-理論と実務-」の新刊予告です。
 
C75a6b37456fb9da353e6945ead0113d
執筆陣は、次のとおり。この領域の専門家であれば、この顔ぶれの意味は分かるはずです。おそらく、少なくとも当分は、サイバー法の最高水準の教科書として君臨するでしょう。
 
第2章 情報通信の階層構造、通信自由化と競争政策
第3章 電波・放送法制、通信・放送融合への対応
関 啓一郎先生(東京大学 公共政策大学院 教授)がご執筆。
 
第4章 表現の自由
宍戸 常寿先生(東京大学)がご執筆。
 
第5章 プロバイダの地位と責任
丸橋 透部長(ニフティ)がご執筆。
 
第1章 総 論
第6章 著作権
双方を不肖、私が執筆。
 
第7章 産業財産権
古谷栄男先生、松下正先生、鶴本祥文先生(弁理士)がご執筆。
 
第8章 プライバシーと個人情報保護
新保史生先生(慶應義塾大学)がご執筆。
 
第9章 情報セキュリティ
石井夏生利先生(筑波大学)がご執筆。
 
第10章 情報システムの構築と契約は、
鈴木正朝先生(新潟大学)がご執筆。
 
第11章 パッケージソフトウェアプログラム
伊藤 ゆみ子先生(現シャープ執行役、前マイクロソフト株式会社法務本部長)がご執筆。
 
第12章 電子消費者保護
川村哲二先生(弁護士)がご執筆。
 
第13章 電子決済
杉浦 宣彦先生(中央大学、元金融庁)がご執筆。
 
第14章 国際私法
早川吉尚先生と小川和茂先生がご執筆。
 
第15章 民事訴訟
町村 泰貴先生(北海道大学法学部)がご執筆。
 
第16章 刑事法実体法
園田 寿先生がご執筆。
 
第17章 法情報学
笠原 毅彦先生がご執筆。
 
出版社の案内ページ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年8月 9日 (金)

東京地判平成25年7月19日(エンジン写真事件)の解説2 (完)

前回に続いて、東京地判平成25年7月19日を解説する。
 
複製権及び公衆送信権の侵害の有無(争点1-5)
 
前述のとおり、本判決の事実認定によると、本件掲載写真は、本件写真から本件エンジンだけが切り出される態様でトリミングされており、背景の色が本件写真とは異なるものであった。そのため、本判決は、「本件写真と本件掲載写真を比較すると、本件掲載写真は本件写真を翻案したものというべきもの」であるとした。
 
その一方、本訴で原告は本件掲載写真について本件写真の複製権侵害を主張している。そこで、本判決は、「原告が複製権侵害を主張する対象は、後記著作者人格権侵害の場合と異なり、本件掲載写真の全部ではなく、そのうちの本件エンジン本体撮影部分(背景部分及び説明部分等を除く。)のみについての侵害を主張するものと解されるので、以下これを前提に検討する。」とした。
 
以上の前提の下で、次のとおり判示して、本判決は複製権の侵害を認めた。イレギュラーな判断である。
 
本件掲載写真は,本件掲載写真の態様のとおりの改変を加えられている部分を除けば,複製をするに際しての若干の色調の相違はあるものの,本件写真と実質的に同一と認められる。そうすると,被告による本件掲載写真の利用は,本件写真のうちの本件エンジン本体撮影部分(背景部分及び説明部分等を除く。)についての原告の複製権を侵害するものである。
 
さらに、「同様の理由で,被告がその運営するウェブサイトのウェブページに本件掲載写真を掲載して公衆に送信する行為は,本件写真のうちの本件エンジン本体撮影部分(背景部分及び説明部分等を除く。)についての原告の公衆送信権を侵害する。」とした。
 
公表権の侵害の有無(争点2-1)
 
本判決は「本件写真は,未公表の著作物であった……。被告は,その発行した本件書籍に本件掲載写真を掲載したから……,原告の公表権を侵害する。」とした上、 次のとおり、補助参加人の主張を退けた。
 
補助参加人は,本件写真が補助参加人のために撮影されたものであるなどとして,公表について,補助参加人の裁量に委ねることに同意した旨主張する。
しかしながら,本件写真が補助参加人のために撮影されたものであっても,その使用目的である「HONDA CB750Four FILE.」への掲載の範囲を超えて,原告がその公表を補助参加人の裁量に委ねたことにはならないから,原告が本件写真の公表に同意したとは認められないし,その他これを認めるに足りる証拠はない。したがって,補助参加人の主張を採用することはできない。
 
氏名表示権の侵害の有無(争点2-2)
 
本判決は「本件書籍には原告の氏名表示はなかったのであるから,原告の氏名表示権を侵害する。」とした上、 次のとおり、補助参加人の主張を退けた。
 
補助参加人は,本件写真は個性がほとんど発揮されることのない一部部品の写真にすぎないなどとして,原告の氏名表示がなくとも原告の利益を害しないし,公正な慣行に反するともいえないから,氏名表示の省略が認められる旨主張する。
しかしながら,本件書籍に本件写真を掲載するについて,氏名表示の必要性がないことや氏名を表示することが極めて不適切な場合であることを肯定する事情は見当たらないから,原告の利益を害するおそれがないとは認めらないし,公正な慣行に反しないとはいえない(なお,補助参加人発行の書籍では概ね氏名が表示されていることが認められる……。
 
同一性保持権の侵害の有無(争点2-3)
 
本判決は「本件写真と本件掲載写真とを比較すると,本件掲載写真は,本件掲載写真の態様の改変が加えられている。そして,原告本人尋問の結果に照らすと,上記改変は原告の意に反する改変であると認められるから,原告の同一性保持権を侵害する。」とした上、 次のとおり、補助参加人の主張を退けた。
 
補助参加人は,本件写真からエンジン部分(背景部分の一部を含む。)が切り出されているものの,本件写真はエンジンを説明するために撮影された写真なのであるから,エンジン部分を切り出して表示することは原告においても承諾していた旨主張する。しかしながら,このような承諾を認めるに足りる証拠はないし,「HONDA CB750Four FILE.」(甲1)において,本件写真と同時に撮影された丙10の写真から本件エンジン部分(背景部分の一部を含む。)だけが切り出されて掲載されていることをもって,原告が本件掲載写真の態様のような写真の掲載についても承諾したとまで推認することはできない。
また,補助参加人は,本件写真の性質,その利用の目的及び態様に照らし,本件写真の改変は,やむを得ないと認められる改変である旨主張する。しかしながら,本件写真の改変は,本件写真から本件エンジンだけを切り出しただけではなく,本件掲載写真の態様の改変を加えたものであって,やむを得ない改変であるとは認められない。
 
著作者人格権不行使の合意の有無(争点2-4)
 
補助参加人は、著作権の「買取り」とは、補助参加人従業員の管理下で撮影された写真を補助参加人がどのように利用しようと異議を申し立てないとの意であるから、著作者人格権を行使しないとの趣旨も当然に含まれる旨を主張した。
 
本判決は次のとおり判示して補助参加人の主張を退けた。
 
Dの供述では、原告に対する説明は撮影した写真の「買取り」にとどまり、具体的に著作権の譲渡について説明したものではない。また、Dは、著作者人格権の説明はしていない旨供述するから、たとえDが原告に対して「買取り」と説明していたとしても、それが著作者人格権を行使しない趣旨を含むものとは解されない。
 
被告の過失の有無(争点3)
 
本件では損害賠償が請求されていたため、被告の故意・過失が問題となった。
 
本判決は次のとおり判示して被告の過失を認めた。
 
他人の著作物を利用するには、その著作権者の許諾を得ることが必要であるから(著作権法63条1項・2項)、他人の著作物を利用しようとする者は、当該著作物に係る著作権の帰属等について調査・確認する義務があるというべきである。
被告は、本件写真を本件書籍や被告のウェブサイトのウェブページに掲載することにより、本件写真を利用しているのであるから、本件写真を利用するに当たり、本件写真に係る著作権の帰属等を調査・確認する義務があったと認められる。しかしながら、被告は、原告の許諾を得ることなく、本件写真を利用したのであるから、上記の調査・確認義務を怠った過失がある。
 
損害額(争点4)
 
著作権法114条2項の適用の可否
 
本件で原告は損害額につき著作権法114条2項の適用を主張したが、本判決は次のとおり判示して、この主張を退けた。
 
著作権法114条2項は、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益額を著作権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定であるから、著作権者に、侵害者による著作権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、同項の適用が認められると解すべきである。
これを本件についてみるに、原告は、職業写真家であるから、出版業を行っていないし、その他原告に被告による侵害行為がなかったならば本件掲載写真の出版による利益と同等の利益が得られたであろうという事情は見当たらないから、著作権法114条2項の適用は認められない。
これに対し、原告は、著作権法114条2項の適用について、著作権者の著作物の利用(販売)を要件としない旨主張する。
確かに、著作権法114条2項は、文言上、著作権者の著作物の利用を要件としていないから、著作物の利用が要件であるとは解されない。しかしながら、同項は、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益額を著作権者の損害額と推定する規定であるから、少なくともそのような推定を可能とする事情が必要であると解される。
また、補助参加人発行の「HONDA CB750Four FILE.」(甲1〔奥付記載の発行日は平成20年2月28日〕)には、原告が本件写真と同時に撮影した写真(丙10)が掲載されている。しかしながら、これは、本件写真に係る事情ではないし、被告の侵害行為よりも2年以上前の事情であることに照らすと、これをもって原告に被告による侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情に当たるとはいい難い。
 
ここでは、同項が適用されるためには、著作物の販売、利用を要するかという論点に付き、必要説が採用されたことになる。詳細は拙著『著作権法〔新訂版〕』490頁を参照されたい。
 
著作権法114条3項に基づく損害額について
 
本判決は次の点を考慮して本件写真の本件書籍に対する寄与率を5%と認めた。
 
本件掲載写真のうちのエンジン本体部分(背景部分及び説明部分等を除く。)は、本件書籍の本文13頁中の1頁に掲載され、その1頁においても主要部分を占めるが、被告のウェブサイトの「週刊 ホンダ CB750FOUR」シリーズの紹介ページにも掲載されていることに照らすと、本件書籍の本文における掲載割合以上の寄与があるといえる。しかしながら、本件書籍には、付録として「CB750FOUR」の模型のパーツとスタートアップDVDが付属しており、これらの付録も本件書籍の売上に寄与している。
 
次に、「著作権法114条3項に基づく損害額を算定するに当たり、本件写真の利用料率を検討するに、出版における著作物一般の利用料率に加え、本件書籍における本件写真の掲載態様等に鑑みると、本件では利用料率を15%と認めるのが相当である。そして、本件書籍の販売価格に、販売部数、寄与率及び利用料率を乗じて、損害額を算定すると、29万8757円となる。」とした。
 
(計算式)690円×5万7731部×5%(寄与率)×15%(利用料率)=29万8757円(1円未満切捨て)
 
その他の損害(著作者人格権侵害に係る慰謝料)
 
「被告の公表権、氏名表示権及び同一性保持権侵害の態様に鑑みると、20万円と認めるのが相当である。」とした。
 
 
参考-判決全文
 
東京地判平成25年7月19日

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年8月 8日 (木)

東京地判平成25年7月19日(エンジン写真事件)の解説1

はじめに
 
今回は、東京地判平成25年7月19日平成23(ワ)785を取り上げる。
 
写真の著作物に関する著作権侵害差止等請求事件である。争点は多岐にわたるが、この類型の紛争としては、オーソドックスなものといえよう。
 
事案の概要
 
本件は、職業写真家である原告が、出版社である被告に対し、本件写真の著作権が原告に帰属するのに、被告は、原告の承諾なく、本件書籍に本件写真を掲載し、原告の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を侵害したなどと主張して、①損害賠償請求、②著作権法112条1項に基づく差止請求として、<ア>本件写真の複製、公衆送信又は改変の禁止、<イ>本件写真を複製した本件書籍の出版、販売又は頒布の禁止、③同法2項に基づく廃棄請求として、<ア>被告の運営するウェブサイト内のウェブページからの本件写真の削除、<イ>本件書籍の廃棄を求めた事案である。
 
本件掲載写真は、本件写真から本件エンジンだけが切り出される態様でトリミングされており、背景の色が本件写真とは異なるものであった。
 
被告補助参加人は、本件写真における、被写体の選択・配置、構図・カメラアングルの選択、ライティング・背景の決定等は、全て補助参加人が行っており、原告は、補助参加人の指示に従い、物理的な撮影行為を行ったのみであり、原告における創作性は認められないから、本件写真の著作者は補助参加人である等と主張した。
 
原告が本件写真の著作者(創作者)であるか(争点1-1)
 
本判決は、次のとおり述べて、原告が本件写真の著作者(創作者)であるとした。
 
原告は、写真専門学校を卒業後、建築、自動車関連の撮影アシスタント、スポーツ専門の写真撮影会社勤務等を経て、本件写真の撮影当時は、フリーランスの写真家として活動していたこと、原告は、本件写真を撮影する前に、本件エンジンの銀色を際立たせるために、それに適した黒色の背景を提案したこと、本件写真の撮影場所が狭かったため、本件写真の撮影には三脚を使用することができなかったこと、原告は、本件写真の撮影に際し、手動によりシャッタースピードと絞り、ホワイトバランス等の露出を調整したこと、原告は、本件写真を撮影する直前に、ライティングの濃度、本件エンジンの角度、陰影等を確認するために、本件エンジンを被写体として数枚写真を撮影したこと、その後、原告は、本件エンジンの位置を決め、ライティングを調整し、本件エンジンの側面に光を当てるなどの工夫を凝らした上で、ファインダー内において本件エンジンが上下左右四辺から等距離に来た瞬間を捉えて本件写真を撮影したことが認められる。
以上に照らすと、本件写真の撮影者である原告が本件写真を創作したと認めるのが相当である。
これに対し、補助参加人は、本件写真における、被写体の選択・配置、構図・カメラアングルの選択、ライティング・背景の決定等は、全て補助参加人が行っており、原告は、補助参加人の指示に従い、物理的な撮影行為を行ったのみである旨主張し、これに沿うBの陳述書(丙26)及び証人尋問における供述がある。
しかしながら、Bの供述によっても、Bが写真撮影について専門的な教育を受けたとは認められない。また、Bは、本件写真の撮影に際し、原告撮影の写真について、デジタルカメラのディスプレイで確認したと供述するものの、そのファインダーを覗くことはなかった旨供述するのであるから、そのようなBが原告に対して写真撮影の具体的な指示ができたとは容易に認められない。Bは、書籍の編集者としての立場から、読者が好む写真を作成するための希望を述べたものであって、それを超えて写真の創作的内容についての具体的指示をしたものと認めることはできない。
 

一般に、誰が著作者なのか争いがあるときは、14条・75条3項の推定規定によることができる。これらの推定規定の適用がない場合には、主として著作物の作成過程を事実認定することによって、かかる活動を誰が行ったのかを確定し、誰が著作者なのかを上記基準に照らして判断する(拙著『著作権法〔新訂版〕』118頁)。

本判決も、基本的に同様の手法によっているが、「Bが写真撮影について専門的な教育を受けたとは認められない」等として、作成能力を加味して判断しており、正当であろう。

 
本件写真の創作が職務著作に当たるか(争点1-2)
 
補助参加人は、原告が補助参加人の業務に従事する者であり、補助参加人のために本件写真を撮影し、また、本件写真は補助参加人名義のもとに公表するものであったから、本件写真の著作者は補助参加人である旨主張したので、職務著作に当たるか、争点となった。
 
まず、本判決は著作権法15条1項の制度趣旨を、次のとおり述べた。
 
著作権法15条1項は、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることに鑑みて、同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。
 
次に、「法人等の業務に従事する者」に該当するための一般論を、次のとおり判示した。
 
①法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、②雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第216号同15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照)。
 
本件では①の雇用関係は認められないから、②本件写真の撮影当時において、原告が補助参加人の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、補助参加人が原告に対して支払った金銭が労務提供の対価であると評価できるかについて検討するとした。
 
次のような業務の態様や報酬の支払状況に照らすと、本件写真の撮影当時において、補助参加人が原告に対して支払った金銭が労務提供の対価であると評価することは困難であるとした。
 
原告は、平成16年頃から平成22年7月頃まで、補助参加人の依頼を受けて、写真撮影を行い、撮影した写真フィルムないしデータを納品したこと、撮影のためのデジタルカメラ、レンズ、ストロボ等は原告が自らの費用で準備していたこと、補助参加人は、原告に対し、交通費のほか、報酬(日当名目)として1日2万2000円(平成19年8頃からは2万5000円)を支払っていたこと、報酬の支払時期は、撮影した写真を掲載した書籍の発行後であり、実際の撮影日から4か月程度後であったこと、平成18年(本件写真が撮影された年)において、原告の補助参加人の依頼による撮影日数は108日であり、それによって得た報酬は237万6000円であったことが認められる。
以上のとおり、平成18年(本件写真が撮影された年)において、原告は、補助参加人からの依頼を受けて写真撮影の業務を行っていたものの、撮影機材は自ら準備し、写真撮影に当たっても自らの判断でその創作的内容を決定していたことが認められる。補助参加人は、原告に対し、報酬として1日2万2000円を支払っているが、その支払時期は、撮影した写真を掲載した書籍の発行後であり、原告の補助参加人の依頼による撮影日数は108日にすぎない。
 
この点については雇用関係がある場合に限らないと考える非限定説が多数説といえよう。詳細は拙著『著作権法〔新訂版〕』123頁参照。
 
本件写真に係る著作権の譲渡の有無(争点1-3)
 
補助参加人は、原告に対し、撮影された写真の著作権が全て補助参加人に帰属することを十分に説明し、原告はこれを了承していた旨主張したので、本件写真に係る著作権の譲渡の有無が争点となった。
 
本判決は、原告と補助参加人との間で、原告撮影の写真について、著作権の譲渡の合意があったとは認められないとした。
 
その理由として、著作権の譲渡について説明したものとはいい難いこと、補助参加人は、原告に対し、原告撮影の写真について、その複製物を第三者に交付することの承諾を求めているから、補助参加人は、原告撮影の写真について、その著作権が原告に帰属することを前提として行動していることがうかがえること、原告が写真の「買取り」や著作権の扱いについて説明がなかった旨を供述していることや、補助参加人が撮影者との間で著作権の譲渡について契約書を作成することが困難であった事情が見当たらないこと等を掲げている。
 
包括的利用許諾の合意の有無(争点1-4)
 
補助参加人は、補助参加人と原告との間で、原告撮影の写真について、以後他の書籍の内容に合わせて改変した上で掲載することを許諾する旨の、包括的利用許諾の合意があった旨主張したので、その有無が争点となった。
 
本判決は、包括的利用許諾の合意があったとは認められないとした。
 
        (続く)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年8月 4日 (日)

大阪地判平成25年6月20日平23(ワ)15245(ロケットニュース24事件)3(完)

前々回、前回に引き続いて、ロケットニュース24事件判決を解説する。
 
名誉毀損の成否
 
名誉毀損の主張に対し、本判決は、次の一般論を述べた上、被告の表現は人身攻撃にまで及んでいるとはいえず、本件動画の内容や撮影場所なども考慮すれば,意見ないし論評の域を逸脱しているとはいえず、他の違法性阻却の要件も満たしているとして、その成立を否定した。
 
ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損においては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,その行為は違法性を欠くと解される(最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号490頁,最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)。
 
本件コメント欄記載削除義務の有無
 
本件では被告のニュースサイトにコメント欄が設けられており、コメントの記載削除義務の有無も問題となった。
本判決は、この点についても、次のとおり判示して、これを認めなかった。
 
本件記事及び本件動画の掲載が原告の名誉を違法に毀損するものといえないことは前記4で論じたとおりであり,原告の主張はその前提を欠くものであるが,この点を措いて考えたとしても,そもそも本件記事は原告の実名に言及しておらず,本件コメント欄記載も原告の変名に触れるものこそあれ,その実名に触れるものはない。本件記事及び本件コメント欄記載と一体性のある体裁で本件動画(原告の容貌及び実名を含む。)へのリンクが貼られていた当初においては,本件コメント欄記載が原告に係る書き込みであることを一般読者が理解することはできたといえるが,前記2記載のとおり,被告は,平成23年6月27日に原告から抗議を受けると,直ちに本件ウェブサイトにおける本件動画へのリンクを削除し,その結果として,本件コメント欄記載が原告に係るものであることを特定できないようにしている。つまり,被告は,本件コメント欄記載によって原告の社会的評価が低下することを防止するための対応を適時にとっており,さらに加えて,本件コメント欄記載を全て削除する義務まで負うものではなく,同義務違反もないといえる。
 
また,仮に本件コメント欄記載で触れられている原告の変名により,本件動画へのリンクの削除後も原告を特定できる余地があるとしても,本件コメント欄記載のコメント数は20ほどで,その内容は一様でなく,明らかに原告の名誉を毀損しないものを含む一方,本件コメント欄記載の前提となっている本件動画やその撮影に係る原告の行動に照らせば,原告の名誉を違法に侵害することが明白とまでいえるものを含むとは認められない。しかも,本件コメント欄記載の各コメントはそれぞれ独立していて,個別に削除することは可能であり,被告も原告が削除を求めるコメントを具体的に特定すれば削除を検討するとの意向を示している(平成25年1月18日第6回弁論準備手続期日)にもかかわらず,原告はそのような具体的特定をしようとしない。このような事情からすれば,やはり本件ウェブサイトを運営管理する被告において,本件コメント欄記載を削除すべき義務を負う状況にあるとはいえない。
 
肖像権侵害の有無
 
原告は,本件動画及び本件記事を本件ウェブサイトに掲載したことは,原告の肖像権を違法に侵害し,不法行為が成立する旨主張した。
 
しかし、本件記事のような言語表現によって肖像権が侵害されることは想定できないため、本判決は、本件動画へリンクを貼ったことが原告の肖像権を侵害するかについて検討すしている。非常に珍しい判示である。
 
本判決は、次のとおり判示して、肖像権侵害を認めなかった。
 
被告は,本件動画を公表したわけではなく,既に何者かによって「ニコニコ動画」にアップロードされ,公表されていた本件動画へリンクを貼ったにとどまるのであって,しかも本件動画は,肖像権者である原告の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることがその内容や体裁上明らかではない映像であり,少なくとも,そのような映像にリンクを貼ることが直ちに肖像権を違法に侵害するとは言い難い。そして,被告は,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴可能としたことにつき,原告から抗議を受けた時点で直ちに本件動画へのリンクを削除している。
 このような事情に照らせば,被告が本件ウェブサイト上で本件動画へリンクを貼ったことが,原告の肖像権を違法に侵害したとはいえないし,第三者による肖像権侵害につき故意又は過失があったともいえず,不法行為が成立するとは認められない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

大阪地判平成25年6月20日平23(ワ)15245(ロケットニュース24事件)2

前回に引き続いて、ロケットニュース24事件判決を解説する。
 
著作者人格権たる公表権侵害について
 
原告は,本件動画の公開が,著作者人格権である公表権(法18条)の侵害に当たると主張した。
 
本判決は、次のとおり、本件動画が公表著作物であることを理由に、これを認めなかった。
 
原告は,被告による本件動画へのリンクに先立ち,本件生放送をライブストリーミング配信しており,しかも原告の配信動画の視聴者数については,「常時400人以上であり,特に企画番組は人気で,この日は数千人の視聴者を超え」(訴状)ていたとされる。そうすると,著作者である原告自身が,本件生放送を公衆送信(法2条1項7号の2)の方法で公衆に提示し,公表(法4条1項)したのであるから,本件生放送の一部にあたる本件動画について,公表権侵害は成立しない。
 
著作者人格権たる氏名表示権について
 
原告は,本件動画の「公衆への提供若しくは提示」に際し,原告の変名である「P2」を無断で使用し,原告の氏名表示権を侵害した不法行為が成立する旨主張した。
 
本判決は、この点についても、次のとおり、これを認めなかった。
 
本件記事自体に原告の実名,変名の表示はなく,本件ウェブサイトに表示された本件動画のタイトル部分に被告の変名が含まれていたに過ぎない(甲1)が,前記2記載のとおり,被告は,本件動画へのリンクを貼ったにとどまり,自動公衆送信などの方法で「公衆への提供若しくは提示」(法19条)をしたとはいえないのであるから,氏名表示権侵害の前提を欠いている。
 
また,原告自身,本件生放送において,原告自身の容貌を中心に撮影した動画を配信し,原告の実名をも述べていることに加え,「ニコニコ生放送」で本件生放送やその他の動画を配信する際にも「P2」の変名を表示していたことがうかがわれる(甲1,3,4,乙1,弁論の全趣旨)のであるから,上記「公衆への提供若しくは提示」を欠くことを措いて考えたとしても,本件ウェブサイト上の上記表示が原告の氏名表示権の侵害になるとは認められない。
 
著作者人格権侵害に関するまとめ
 
本判決は、被告は公衆送信の主体でないこと等を理由に、被告には公表権や氏名表示権の侵害成立は認められないとする。
 
参 考
 
 
→ 大阪地判平成25年6月20日平23(ワ)15245(ロケットニュース24事件)3(完)
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年8月 3日 (土)

大阪地判平成25年6月20日平23(ワ)15245(ロケットニュース24事件)1

事案の概要
 
大阪地判平成25年6月20日平23(ワ)15245(ロケットニュース24事件)は、動画投稿サイト(ニコニコ生放送)に原告が投稿した動画について、被告(ネットニュースサイト)が埋め込み型リンクを張ったことが、公衆送信権侵害に該当するかどうか等が、争われた著作権事件である(請求棄却)。
 
投稿動画の著作物性
 
次のとおり判示して、映画の著作物に該当するとした。
 
なお、本件動画はニコニコ生放送へのライブストリーミング配信であったが、配信後もその内容を視聴することができ、本件生放送は、その配信と同時にニワンゴのサーバに保存され,その後視聴可能な状態に置かれたものと認められることを理由に、「固定」されたものといえる(法2条3項)」としたことに注意されたい。
 
本件動画(その前提となる本件生放送を含む。)は,原告が上半身に着衣をせず飲食店に入店し,店員らとやり取りするといった特異な状況を対象に,主として原告の顔面を中心に据えるという特徴的なアングルで撮影された音声付動画であって(甲3,4),一定の創作性が認められる。
 
また,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,原告が利用したニコニコ生放送には,タイムシフト機能と称するサービスがあり,ライブストリーミング配信後もその内容を視聴することができたとされるから,本件生放送は,その配信と同時にニワンゴのサーバに保存され,その後視聴可能な状態に置かれたものと認められ,「固定」されたものといえる(法2条3項)。
 
したがって,本件生放送の一部である本件動画は,「映画の著作物」(法10条1項7号)に該当し,その著作者は原告と認められる。
 
公衆送信権侵害の有無
 
本件では、「被告において、本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると、本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことが、本件動画の「送信可能化」(法2条1項9号の5)に当たり、公衆送信権侵害による不法行為が成立する」と、原告は主張した。
 
しかし、本判決は、被告は本件動画へのリンクを張ったにとどまるとして、この主張を認めなかった。リンクを張った場合における公衆送信行為の主体は、リンク元(被告=ロケットニュース24)ではなく、リンク先(ニコニコ動画)であるとしたのである。
 
被告は,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画の引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力することで,本件動画へのリンクを貼ったにとどまる。
 
この場合,本件動画のデータは,本件ウェブサイトのサーバに保存されたわけではなく,本件ウェブサイトの閲覧者が,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックした場合も,本件ウェブサイトのサーバを経ずに,「ニコニコ動画」のサーバから,直接閲覧者へ送信されたものといえる。
 
すなわち,閲覧者の端末上では,リンク元である本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態に置かれていたとはいえ,本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であり,被告がこれを送信していたわけではない。したがって,本件ウェブサイトを運営管理する被告が,本件動画を「自動公衆送信」をした(法2条1項9号の4),あるいはその準備段階の行為である「送信可能化」(法2条1項9号の5)をしたとは認められない。
 
幇助による不法行為の成否
 
本件における原告の主張は、「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画にリンクを貼ることで,公衆送信権侵害の幇助による不法行為が成立する旨の主張と見る余地もある。 」として、本判決は検討した上、これについても認めなかった。
 
 「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画は,著作権者の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることが,その内容や体裁上明らかではない著作物であり,少なくとも,このような著作物にリンクを貼ることが直ちに違法になるとは言い難い。そして,被告は,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴可能としたことにつき,原告から抗議を受けた時点,すなわち,「ニコニコ動画」への本件動画のアップロードが著作権者である原告の許諾なしに行われたことを認識し得た時点で直ちに本件動画へのリンクを削除している。
 
このような事情に照らせば,被告が本件ウェブサイト上で本件動画へリンクを貼ったことは,原告の著作権を侵害するものとはいえないし,第三者による著作権侵害につき,これを違法に幇助したものでもなく,故意又は過失があったともいえないから,不法行為は成立しない。
 
著作者人格権(公表権,氏名表示権)侵害
 
原告は著作者人格権(公表権,氏名表示権)侵害も主張しているが、これについては改めて説明する。
 
→ 大阪地判平成25年6月20日平23(ワ)15245(ロケットニュース24事件)2
 http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2013/08/2562023152452-1.html

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年5月14日 (火)

『著作権法〔新訂版〕』専用問題集が完成

拙著『著作権法〔新訂版〕』 → Amazon

専用問題集(無料)が下記のとおり、完成しました。
 
1.『著作権法〔新訂版〕』専用問題集 第 I 分冊 Ver.0.8(PDF)
 
第1章 知的財産権制度と著作権制度
第2章 著作者の権利の客体-著作物
第3章 著作者の権利の帰属主体-著作者と著作権者
 
2.『著作権法〔新訂版〕』専用問題集 第 II 分冊 Ver.0.81(PDF)
 
第4章 著作者の権利1―著作権
第5章 著作者の権利2―著作者人格権
 
3.『著作権法〔新訂版〕』専用問題集 第 III 分冊 Ver.0.80(PDF)
 
第6章 著作隣接権等
第7章 著作権法上の権利処理と契約実務
第8章 権利侵害と救済 - 侵害訴訟の理論と実務
 
以上、次のサイトからダウンロードして下さい。
 
(サポートサイト - google.com)
 
(出版社サイト - 民事法研究会)
 
なぜ問題集まで作るのかと、ある人から質問を受けました。
当方は元々要領はよくない人間なのですが、司法試験を通過して積み上げてきて、実務家のトップと評価されたという点で自信を得ることができました。だからこそ、合理的、かつ、本当に理解してもらえる方法を提示したいと思ったのです。
 
それとともに、旧態依然とした方法から、法学教育は変わらなければならないと思っています。今回の試みが、幾ばくかでも、そのためのプラスになれば幸いです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧