カテゴリー「消費者保護」の記事

2013年8月20日 (火)

新刊予告「インターネットの法律問題-理論と実務-」

単行本「インターネットの法律問題-理論と実務-」の新刊予告です。
 
C75a6b37456fb9da353e6945ead0113d
執筆陣は、次のとおり。この領域の専門家であれば、この顔ぶれの意味は分かるはずです。おそらく、少なくとも当分は、サイバー法の最高水準の教科書として君臨するでしょう。
 
第2章 情報通信の階層構造、通信自由化と競争政策
第3章 電波・放送法制、通信・放送融合への対応
関 啓一郎先生(東京大学 公共政策大学院 教授)がご執筆。
 
第4章 表現の自由
宍戸 常寿先生(東京大学)がご執筆。
 
第5章 プロバイダの地位と責任
丸橋 透部長(ニフティ)がご執筆。
 
第1章 総 論
第6章 著作権
双方を不肖、私が執筆。
 
第7章 産業財産権
古谷栄男先生、松下正先生、鶴本祥文先生(弁理士)がご執筆。
 
第8章 プライバシーと個人情報保護
新保史生先生(慶應義塾大学)がご執筆。
 
第9章 情報セキュリティ
石井夏生利先生(筑波大学)がご執筆。
 
第10章 情報システムの構築と契約は、
鈴木正朝先生(新潟大学)がご執筆。
 
第11章 パッケージソフトウェアプログラム
伊藤 ゆみ子先生(現シャープ執行役、前マイクロソフト株式会社法務本部長)がご執筆。
 
第12章 電子消費者保護
川村哲二先生(弁護士)がご執筆。
 
第13章 電子決済
杉浦 宣彦先生(中央大学、元金融庁)がご執筆。
 
第14章 国際私法
早川吉尚先生と小川和茂先生がご執筆。
 
第15章 民事訴訟
町村 泰貴先生(北海道大学法学部)がご執筆。
 
第16章 刑事法実体法
園田 寿先生がご執筆。
 
第17章 法情報学
笠原 毅彦先生がご執筆。
 
出版社の案内ページ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月 9日 (火)

ネットオークション落札物メール便送付事件-名古屋地判平成23年3月11日

オークションサイトでの落札者が、落札品の配送について、出品者が合意に反する発送方法を採った結果、 落札者に配達されなかったとして、出品者に対して行った損害賠償請求が一部認容された判決が言い渡された。

「メール便は,簡易書留郵便と比べて,配達の確実性・信頼性において劣ることが明らかであることからすると, 仮に, 被控訴人が上記のような誤解をしていたとしても, それ自体が, ・・・本件サイトへ, 自ら「簡易書留郵便も可能です。」と記載した本件優待券の出品者として果たすべき被控訴人の注意義務に違反するものというべき」としたもの。

メール便の会社は、上記判示を見て、どう思うのだろうか。配送できなかったのだから、文句の言いようもないだろうが。

なお、逆に、本件サイト内の出品者の評価欄に、落札者が「悪い落札者です」と評価をした上、 評価コメントとして、「二度と取引したくないです。」との虚偽の内容を書き込み、 出品者を誹謗中傷して、その名誉を著しく毀損したとして、出品者側が落札者に対し損害賠償請求したが、本判決は「直ちに相当性を欠くということはできない」として上記請求を認めなかった。

判決全文は次のとおり。

--------------------------------------------------

平成2 3 年3 月1 1 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成2 2 年( レ)第5 3 1 号,同年( レ)第6 8 7 号 損害賠償請求控訴,
同附帯控訴事件
( 原審・名古屋簡易裁判所平成2 1 年( ハ) 第7 1 2 7 号)

                          判              決

主 文

1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の, 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴及び附帯控訴の趣旨

1 控訴の趣旨
( 1 ) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
( 2 ) 被控訴人は, 控訴人に対し, 2 0 万円及びこれに対する平成2 1 年6 月1 1 日から支払済みまで年5 分の割合による金員を支払え。
( 3 ) 訴訟費用は第1 , 2 審を通じ被控訴人の負担とする。

2 附帯控訴の趣旨
( 1 ) 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。
( 2 ) 控訴人の請求を棄却する。
( 3 ) 訴訟費用は第1 , 2 審を通じ控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は, A オークションのインターネットサイト( 以下「本件サイト」という。) においてB 株主優待券を落札した控訴人が, 出品者である被控訴人に対して, 控訴人へのB 株主優待券の配送について, 被控訴人が合意に反する発送方法を採り, その結果, 控訴人に配達されなかったとして, 債務不履行による損害賠償請求権に基づき, 同優待券の落札代金, 送料, 振込手数料, 被控訴人に対して返金を求めるために要した通信費及び同優待券が届かなかったことにより発生した損害( 合計1 1 万6 4 6 7 円) の賠償, 被控訴人が,本件サイトに控訴人の名誉を毀損する内容の書き込みを行い, これによって控訴人を公然と侮辱したとして, 不法行為による損害賠償請求権に基づき, 慰謝料( 8 万3 5 3 3 円) の支払及びこれらの合計額2 0 万円に対する訴状送達の日の翌日である平成2 1 年6 月11 日から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 原審は, 控訴人の請求を, 優待券の落札代金及び送料並びにこれらの振込手数料相当額( 合計4 7 8 7 円) の損害賠償及びこれに対する平成2 1 年6 月1 1 日から支払済みまで年5 分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し, その余の請求を棄却したため, 控訴人が, 控訴人敗訴部分を不服として控訴し, 被控訴人も, 被控訴人敗訴部分を不服として附帯控訴した。

3 前提事実( 当事者間に争いがないか, 括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
( 1 ) 被控訴人は, 平成2 1 年3 月ころ, 本件サイトに, B 株主優待券4枚を出品し, その際, 商品説明文の欄に「簡易書留郵便も可能です。C メール送料にて送ります。」と記載した( 甲1 ) 。
( 2 ) 控訴人( 本件当時の住所は, 札幌市d 区e f 丁目g - h - i) は,平成2 1 年4 月1 日, 被控訴人が出品したB 株主優待券4 枚のうち2 枚( 以下「本件優待券」という。) を代金4 6 0 2 円で落札し( 甲2 ) , 同日, 本件サイト上で, 被控訴人に対し, 「はじめまして 商品を2 個落札しました。発送方法について, 簡易書留郵便を希望します。」という内容のメッセージを書き込んだ( 甲4 の1 ) 。
( 3 ) これに対して, 被控訴人は, 同日, 本件サイト上で, 控訴人に対し, 「落札いただき, ありがとうございました。C ・メール便( 8 0 円) ( 簡易書留郵便です) にてお送りします。よろしくお願いします。」という内容のメッセージを書き込んだ( 甲4 の1 )。
( 4 ) 控訴人は, 平成2 1 年4 月1 日, 本件優待券の代金等4 6 8 2 円( 落札代金4 6 0 2 円及び送料8 0 円) を, A オークション株式会社あてに振込送金した( 甲7 ) 。なお, 振込手数料は1 0 5 円であった( 甲7 ) 。
( 5 ) 被控訴人は, 平成2 1 年4 月2 日ころ, 本件優待券を, 宅配業者であるJ 株式会社が行うC メール便( 以下「メール便」という。) で発送した( 乙1 , 2 ) 。
( 6 ) 被控訴人は, 本件優待券の送付について控訴人と被控訴人との間でトラブルが生じた後の平成2 1 年4 月2 1 日,本件優待券の落札, 送付等に関して, 本件サイト内の控訴人の評価欄に,「悪い落札者です」と評価をした上, 評価コメントとして,「二度と取引したくないです。」( 以下, これら被控訴人による評価及び評価コメントを「本件コメント等」という。) と記載した( 乙1 2 )。

4 本件の争点及びこれに関する当事者の主張は以下のとおりである。
( 1 ) 被控訴人による債務の本旨に従った履行があったか。
( 被控訴人の主張)
被控訴人は, 平成2 1 年4 月2 日ころ, 本件優待券を, メール便( 識別番号k ― l ― m ) にて発送し, 本件優待券は, 同月5 日午後3 時ころ, 控訴人宅に到着している。したがって, 被控訴人は, 債務の本旨に従った履行を行っており, 債務不履行はない。
A オークションにおける配送方法に, 簡易書留郵便の選択はなく, メール便は通常の配送方法であり, 今回は, 被控訴人がメール便の配送方法を選択したものである。
( 控訴人の主張等)
被控訴人の主張は, 否認ないし争う。
控訴人は, 本件優待券を受け取っていない。
被控訴人は, 本件サイトに本件優待券を出品する際, 「簡易書留郵便も可能です。」との記載を行い, これに対して, 控訴人は, 配送方法として簡易書留郵便を指定した。それにもかかわらず, 被控訴人は, 本件優待券をメール便で発送し, その結果, 本件優待券は, 控訴人に配達されなかった。控訴人は, 配達中の事故等を考慮して, 簡易書留郵便での発送を指定して商品を落札しているのであり, 異なる方法で配送したことによる
責任は, 被控訴人にある。
( 2 ) 被控訴人に債務不履行があった場合に賠償すべき損害
( 控訴人の主張)
控訴人は, 被控訴人の前記( 1 )の債務不履行により, 以下の損害を被った。
ア 本件優待券の落札代金及び送料 4 6 8 2 円
イ アの振込手数料 1 0 5 円
ウ 被控訴人に対して繰り返し返金を求めるために要した通信費 7 6 8 0 円
エ 本件優待券と他の航空券を組み合わせて旅程を組んでいたところ, 本件優待券が届かなかったことにより発生した損害
( ア) 航空会社に支払ったキャンセル料 2 0 0 0 円
( イ) 他の航空券代金 1 万2 0 0 0 円
( ウ)欠席せざるをえなくなった札幌での理事会の損害 5 万円
( エ)ホテルの宿泊をキャンセルし,スケジュールを変更せざるをえなくなったために生じた損害 4 万円
オ 以上合計 1 1 万6 4 6 7 円
( 被控訴人の主張等)
控訴人の主張は, 否認ないし争う。
( 3 ) 控訴人に対する名誉毀損の不法行為が成立するか。
( 控訴人の主張)
被控訴人は,平成2 1 年4 月2 1 日,本件優待券の落札,送付等に関して,本件サイト内の控訴人の評価欄に,「悪い落札者です」と評価をした上, 評価コメントとして,「二度と取引したくないです。」との虚偽の内容を書き込み( 本件コメント等) , 控訴人を誹謗中傷して, その名誉を著しく毀損した。本件コメント等は第三者も閲覧が可能であったため, 当時控訴人が出品していた商品の入札を検討していた者が, 本件コメント等を見て, 入札を取りやめたことも考えられる。
被控訴人の上記行為によって, 控訴人は精神的苦痛を受け, その苦痛に対する慰謝料としては8 万3 5 3 3 円が相当である。
( 被控訴人の主張)
控訴人の主張は, 否認ないし争う。
本件優待券の取引において, 被控訴人が, 控訴人を落札者として評価し投稿した本件コメント等は, 被控訴人の正直な気持ちを記載したものであり, 虚偽の内容でも, 中傷でもない。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も, 以下のとおり, 控訴人の請求は, 原判決が認容した限度で理由があり, その余は理由がないものと判断する。

2 争点( 1 )について
( 1 ) 前記前提事実によれば, 被控訴人は, 本件サイトに本件優待券を出品するに際して, 配送方法として簡易書留郵便によることが可能である旨を特に表示し, 本件優待券を落札した控訴人は, 被控訴人に対し, 簡易書留郵便による配送を希望したものであり, 以上によって, 被控訴人は, 控訴人との間で, 控訴人の住所において本件優待券を引き渡すこと( 持参債務) , その方法として, 簡易書留郵便によることを合意したものと認められる。
( 2 ) しかるに,本件優待券が,被控訴人から,平成2 1 年4 月2 日ころ, 簡易書留郵便ではなく, メール便で発送された後, J 株式会社の札幌N センターまで届いた事実は認められる( 乙3 )ものの, 控訴人が本件優待券を受領したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
( 3 ) そうすると, 被控訴人が,本件優待券を簡易書留郵便ではなくメール便で送付したことは, それ自体被控訴人の債務不履行を構成するものであるし, 被控訴人には, 控訴人に本件優待券を引き渡す債務の不履行が認められるのであって,被控訴人は,控訴人に対し,これら債務不履行によって発生した損害を賠償する責任を負うというべきである。
( 4 ) なお, 被控訴人は, A オークションにおける配送方法は, 簡易書留郵便の選択はなく, メール便は通常の配送方法であり, これによって発送した被控訴人には, 債務不履行はない旨主張する。
しかし, 被控訴人が, 控訴人との間で, 本件優待券の発送方法として, 簡易書留郵便の方法による旨合意したと認められることは,前記( 1 )のとおりであるし,弁論の全趣旨によれば,簡易書留郵便は,メール便と異なり, 受取人が目的物を受け取るについて, 受取人の受領の証印又は署名が必要とされ, 受取人が現実に目的物を受領することを前提とする制度であり, 控訴人は, このような簡易書留郵便制度の信頼性に鑑みて,「簡易書留郵便も可能です。」とした被控訴人に対し,前記前提事実( 2 )のとおり,簡易書留郵便での発送を指定したことが認められるのであり, 被控訴人が, 控訴人に対し, メール便で,本件優待券を発送したことをもって,「債務の本旨に従った履行」( 民法4 1 5 条1 項) があったということはできない。
また, 前記前提事実( 3 )のとおり, 被控訴人は, 簡易書留郵便による配送を希望した控訴人に対して,「C ・メール便( 8 0 円)( 簡易書留郵便です) にてお送りします。」などと回答しており, 本件優待券を送付するに際して, メール便が簡易書留郵便と同一のものである旨誤解していた可能性がないではない。しかし, 証拠( 甲2 4 の3 ) によれば, 本件サイトへの出品者は,「商品等の出品にあたり, 情報発信機能を用いて商品等に関する正確かつ十分な情報を掲示する」義務を負っていること( A オークション利用規約7 条2 項) が認められ,上記認定のとおり,メール便は,簡易書留郵便と比べて, 配達の確実性・信頼性において劣ることが明らかであることからすると, 仮に, 被控訴人が上記のような誤解をしていたとしても, それ自体が, 前記前提事実( 1 )のとおり, 本件サイトへ, 自ら「簡易書留郵便も可能です。」と記載した本件優待券の出品者として果たすべき被控訴人の注意義務に違反するものというべきであり, 以上の認定, 判断を左右するものではない。

3 争点( 2 )について
( 1 ) そこで, 被控訴人の前記債務不履行によって控訴人に生じた損害について検討すると, 控訴人が原審及び当審において主張する損害のうち, 本件優待券の落札代金及び送料並びにこれらの振込手数料相当額( 合計4 7 8 7 円)については,被控訴人の債務不履行と相当因果関係のある損害と認めることができる。
( 2 )ア 控訴人が主張する損害のうち, 被控訴人に対して繰り返し返金を求めるために要した通信費( 7 6 8 0 円) については, その発生を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠がない。
イ また, 控訴人が主張する損害のうち, 本件優待券が届かなかったことにより, 控訴人が予定していた旅行をキャンセルしたこと等により生じた損害( 航空会社に支払ったキャンセル料2 0 0 0 円, 株主優待券を利用して旅程を組んでいたが, 入手できなかったため搭乗できず, 払戻しも受けられなかった航空券代金1 万2 0 0 0 円, 欠席せざるをえなくなった札幌での理事会の損害5 万円及びホテルの宿泊をキャンセルし, スケジュールを変更せざるを得なくなった損害4 万円) については, いずれもその発生を基礎付ける事実を認めるに足りる的確な証拠もないし, 被控訴人の前記債務不履行との間に相当因果関係があるとは認められないものである。
( 3 ) 以上によると,被控訴人の債務不履行と相当因果関係があるものとして,被控訴人が控訴人に賠償すべき損害は,前記( 1 )に認定の4 7 8 7 円のみである。

4 争点( 3 )について
( 1 ) 控訴人は,本件コメント等が,控訴人の名誉を毀損するものである旨主張する。
( 2 ) しかし, 前記前提事実並びに証拠( 甲2 1 の1 ないし6 ) 及び弁論の全趣旨を総合すると, 本件サイトにおいては, オークション取引が成立し, 目的物の授受, 代金支払等の取引が全て終了した段階で, 出品者( 売主) 及び落札者( 買主) が, それぞれ相手方を「良い」,「普通」,「悪い」の3 段階で評価し, あわせて評価コメントを
記載するシステムとなっており,これらの評価及び評価コメントは, 全てハンドルネーム( 別名) をもって行われるものであることが認められる。そして, 本件コメント等のうち,「悪い落札者です」との評価は, 上記3 段階の評価のうちの1 つを記載したものにほかならず, また,「二度と取引したくないです。」との評価コメントも, 被控訴人が控訴人との本件サイトのオークション取引を通じて形成した感想, 心情を吐露したものにすぎず, 表現方法も, オークションの落札者( 控訴人) を評価するコメントとして, 直ちに相当性を欠くということはできない。
以上からすると, 本件コメント等は, 控訴人の一般社会における評価を低下させるものとは認められないし, 本件サイト内において出品者や落札者を評価する際に用いる表現として, 違法ということはできない。
したがって, 被控訴人が, 本件サイトに本件コメント等を書き込んだことは, 控訴人に対する不法行為に該当しない。

5 結論
以上のとおり,控訴人の請求は,本件優待券の落札代金及び送料並びにこれらの振込手数料相当額( 合計4 7 8 7 円) の損害賠償並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成2 1 年6 月1 1 日から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり, その余は理由がない。
よって,控訴人の請求を上記の限度で認容した原判決は相当であり, 本件控訴及び附帯控訴は,いずれも理由がないから棄却することとし, 主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第8 部
裁判長裁判官 長谷川 恭 弘
裁判官 堀 田 次 郎
裁判官 中 畑 章 生

--------------------------------------------------

判決文の出典
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110802163931.pdf

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月21日 (木)

大阪地裁平成23年3月23日判決-ドロップシッピング関連の新判例

ドロップシッピングに関する珍しい判例(大阪地裁平成23年3月23日判決)が登場したので、紹介しておきたい。

本件は、「ウインドシッビング」と称するインターネットショッピング運営支援事業「ウインドシッビング」を展開する被告とウインドシッビングの利用契約を締結し、被告に対して、契約金等を支払った原告らが、ウインドシッビングは特定商取引に関する法律(特商法) 51条に定める業務提供誘引販売取引に当たり、同法58条1項に基づき同契約を解除(クーリング・オフ) した、または、被告による同契約の勧誘の際に不実告知があったから、同法58条の2第1項1号、52条1項5号に基づき同契約を取り消したと主張して、被告に対し、契約解除に基づく原状回復請求又は不当利得返還請求として、各既払代金(別紙契約一覧表「契約金額」欄記載の各金員)の返還を求めた事案である。

主な争点は、特定商取引法上の「業務提供誘引販売」の該当性であり、本判例は、次のとおり述べて、これを認めた。

「ウインドシッビングにおいては、購入者に対する関係では加入者が売主となるものの、ネットショップの運営主体は、実質的には被告であり、原告ら加入者は、その運営の一部の作業を被告の指示のもとに被告に従属した立場で行っていたにすぎないというべきである。したがって、本件各契約において原告ら加入者が従事することとされている業務は、ネットショップの実質的な運営主体である被告が、原告らに対して提供する業務であるというべきである。」

「被告は、原告らに対し、本件各契約を締結して、被告が提供するウェブサイト製作、宣伝、プロモーション、商品の仕入れ及び原告ら-の卸売、商品の受注処理及び発送手続等のサービスを利用すれば、原告らは、(a)商品及び販売価格をネットショップに掲載すること、(b)購入者からの質問メールに対応すること、(c)購入者からの入金の管軌、(d)仕入れ代金の支払といった簡単な業務に従事するだけで、容易に商品の販売価格と仕入価格の差額を利益として収受することができる旨をホームページやパンフレットに記載して、本件各契約の締結を誘引したことが認められるから、被告は、原告らに対し、「業務提供利益」である商品販売価格と仕入価格の差額を収受し得ることをもって本件各契約の締結を誘引したものと認めることができる。」

クーリングオフ(58条1項)に基づく原状回復請求として、被告が主張していた損益相殺による控除を認めなかった。

判決全文は
http://shun-you.org/dropwind100323.pdf
に掲載されている。

争点に対する判断の詳細は、原告側の川村哲二弁護団長が執筆した下記ブログをご覧いただきたい。http://stuvwxyz.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-afd9.html

いずれにしても、一時はもてはやされた「ドロップシッピング」という言葉も、いつの間にか過去のものになってしまった。

時代の流れは速い。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年3月22日 (火)

消費者庁インターネット消費者取引研究会報告書の公表

震災ですっかり報告が遅れたが、私が委員を務めてきた

消費者庁・インターネット消費者取引研究会

「インターネット取引に係る消費者の安全・安心に向けた取組について」(平成23年3月)

が、今般、公表された。

http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/110311adjustments_1.pdf

である。

目次

Ⅰ 現状 ………………………………………………………………………………1
Ⅱ 基本的な視点 ……………………………………………………………………3
Ⅲ 課題ごとの対応の方向性及び具体的な取組
1 関係者の連携・協力に向けた場の設置 ……………………………………4
2 取引の各段階に対応した課題
2-(1) 広告表示…………………………………………………………4
2-(2) 契約………………………………………………………………7
2-(3) 決済………………………………………………………………8
2-(4) 紛争解決…………………………………………………………10
3 取引の各段階に横断的な課題
3-(1) 個人に係る情報の取扱い………………………………………11
3-(2) 消費者への啓発(特に子どもや高齢者等への対応)………12
3-(3) 事業者、特に新規参入希望者の知識向上……………………13
3-(4) 越境取引への対応………………………………………………14
3-(5) 国際的な取組の推進……………………………………………15
Ⅳ 施策の展開と見直しについて…………………………………………………16
参考資料………………………………………………………………………………17

S3   

概要については

http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/110311adjustments_2.pdf

を参照されたい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年3月 1日 (火)

インターネットにおける健康食品等の虚偽・誇大表示(消費者庁)

消費者庁は平成23年2月28日付けで下記文書を公表した。

「インターネットにおける健康食品等の虚偽・誇大表示に対する要請について」

これは、消費者庁が、健康増進法第32条の2に基づく業務の一環として、平成22年9月から11月の期間、インターネットにおける健康食品等の虚偽・誇大表示の監視業務を実施したところ、85事業者による128商品の表示について、同条に違反するおそれのある文言等があったことから、平成23年2月28日に、これらの事業者に対し、表示の適正化を求めるとともに、ショッピングモール運営事業者へも協力を要請したというものである。

下記にアップロードされている。

http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin517.pdf

この内容を見ると、痩身効果を強調する表示のある野菜加工品など、痩身効果関係の虚偽・誇大表示が中心となっている。

なお、これに関連するものとして、「健康増進法上問題となるインターネット広告表示について(平成16年1月5日付け食安新発第0105002号)」がある。

http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin354.pdf

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月23日 (水)

消費者庁「スカスカおせち」問題で行政処分

消費者庁は「スカスカおせち」問題で、販売業者に対する措置命令とグルーポンに対する要請分を行ったことを発表した。

「株式会社外食文化研究所に対する措置命令及びグルーポン・ジャパン株式会社に対する要請について」(平成23年2月22日)

http://www.caa.go.jp/representation/pdf/110222premiums_1.pdf

である。

これによれば、今回、消費者庁が問題にした点は、次の2点。

(ア) 本件商品には、「メニュー内容」として記載された33品のメニューが入っているものと認識するところ、実際には、そのうち8品について、別表「実際」欄記載のとおり、7品は「記載されたメニュー内容」欄記載の食材とは異なる食材が用いられていたもの又は「記載されたメニュー内容」欄記載のメニューとは異なるものが入れられていたものであり、また、1品は入れられていないものであった。

(イ) 本件の表示に寄れば、それを見た者は、通常21,000円で販売されている本件商品が、10,500円で販売されていると認識するところ、実際には、21,000円という価格は架空のものであった。

すでに、本問題については、この日記の

「ネット通販と景品表示法の二重価格表示規制」

http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/01/post-b4d5.html

でも触れた。

この日記の時点では(イ)が発覚していたが、その後、(ア) の点も発覚したものである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月14日 (月)

消費者庁「第7回インターネット消費者取引研究会」の資料アップロード

平成23年2月10日に行われたばかりの消費者庁「第7回インターネット消費者取引研究会」の資料が、消費者庁サイトにアップロードされた。

http://www.caa.go.jp/adjustments/index_6.html

• 議事次第[PDF:41KB]
• 配布資料1-1(インターネット取引に係る消費者の安全・安心に向けた取組について(一次案)〔概要〕)[PDF:577KB]
• 配布資料1-2(インターネット取引に係る消費者の安全・安心に向けた取組について(一次案))[PDF:199KB]
• 配布資料1-3(インターネット取引に係る消費者の安全・安心に向け特に重点的に取組事項)[PDF:141KB]
• 配布資料2(いわゆる決済代行問題の考え方について)[PDF:779KB]
• 配布資料3(研究会の開催スケジュールについて)[PDF:63KB]
• 配布資料4(第6回研究会議事要旨)[PDF:157KB]

である。

この中でも重要なのは

 配布資料1-2(インターネット取引に係る消費者の安全・安心に向けた取組について(一次案))

である。

「スカスカおせち」問題などがあった後だけに、「広告表示」に力点が置かれていることが注目される。「共同購入サイトなどのフラッシュマーケティング(割引クーポン等を期間限定で販売するマーケティング手法)に係る二重価格表示」も取り上げられているのだ。

「口コミサイトにおける広告料をもらった上でのカキコミ(いわゆるサクラ記事)」などと並んで、「いわゆるフリーミアム(基本的なサービスを無料で提供し、高度な、あるいは、追加的なサービスを有料で提供して収益を得るビジネスモデル)における正確でない「無料」といった表示」も射程に入っている。

実効性担保のために、「厳正かつ迅速な法執行及びネット上の監視活動の強化等」が謳われているのも注目される。

もうひとつの課題は、「決済代行業者」の問題。これについては配布資料2を参照されたい。

加えて、「インターネット消費者取引研究会(第6回)議事要旨」もアップされている。
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/110214adjustments_4.pdf

これによって議論の動向が分かるはずだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)